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リトルストーリー
2016.03.11

ユルスナールの靴

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いつのころからか、私の靴たちの中には
かならず、ワンストラップ・シューズが混ざっていました。
履くとなんだか特別な気分になる、お気に入りの靴。
そして、その靴を見ると思い出す本があります。
 
フランスを代表する作家マルグリット・ユルスナールの生涯を
須賀敦子が自身の半生と重ね、
 
「きっちり足にあった靴さえあれば、じぶんはどこまでも歩いていけるはずだ。」
 
という書き出しから始まるこの本。
 
全体を通して流れているのは、静かな悲しみと迷い。
 
須賀の半生を綴り、これからも歩んでいく道を感じさせる結末ですが
残念ながら、この本は遺作となってしまいました。
この本を手に取るたびに、まるで履く人のいなくなった靴が
そこにあるかのようなせつなさを感じます。
 
でも、ここに登場する靴たちはなんと魅力的に描かれていることでしょう!
 
たとえば、ミッション・スクールのシスターたちが履く靴のくだり。
 
「細身の黒い革靴で、五センチほどのヒールのついた、紐で結ぶ型の、
平凡そのものでありながら、あれこそが靴だ、というような、
本質的でどこか高貴さのただようその靴」
 
そして、ユルスナールが晩年履いていたストラップ・シューズについて・・・。
 
「マントふうのコートを着た彼女がはいているのは、
私や親友のようちゃんが小学校のころはかされていたのにそっくりな、
横のボタンでとめる、いわばちっちゃい子ふうの靴なのだ。
どこかの職人さんが彼女のために縫った、
もしかしたらずいぶん高価なものかもしれないし、
はきごこちは抜群にちがいない」
 
素敵な靴に間違いない、と思いませんか?
 
ストラップ・シューズを手に取るとき、
私も恐縮ながらユルスナールに近づきたい、と思っていたのかもしれません。
彼女のように、ぴったりの靴に出会いたいと望んで・・・。
 
いま、わたしの足元はまだまだおぼつかないですが
自分の足にぴったりの靴をみつけました。
 
これからが旅の始まりです。
 
 
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須賀敦子「ユルスナールの靴」 河出書房新社
 
 
寺井
  (寺井)


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