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リトルストーリー
2018.02.17

NAOTが出会った「はたらくひと」#3 紀寺の家 藤岡俊平さん


 
NAOT × はたらくひと の連載 第3弾は「紀寺の家」の藤岡俊平さん。
 
約100年前に建てられた町家を改装し、一棟貸しの宿泊施設として生まれ変わった 奈良町宿 「紀寺の家」。藤岡さんはそこで “今の町家暮らし” を提案されています。
 
「紀寺の家」は NAOT NARA からも歩いてすぐの場所。藤岡さんもNAOTを靴を修理を繰り返しながら大事に履いてくださっている方のひとり。

 
今回はそんな藤岡さんの現在の活動に至るまでの想いや日々大切にしている事、お仕事にまつわるお話を伺いました。どうぞご覧ください。
 
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ー 藤岡さんは建築を学ばれていたとお聞きしました。
  「紀寺の家」という宿のお仕事をはじめられたきっかけは何だったのですか?
 
話せば長いのですが。はじめはね、小・中学校の時っていろんな夢を書いたり、発表したりするじゃないですか?当時の私はというと、お寿司職人・料理人になりたかったんです。
その事を父に伝えたら、「衣食住にまつわることはいいね。人が生活していく上で必要なものはなくならないからね」と。
 
父は長野で建築を学んで、奈良で古民家や町家改修の専門家として仕事をしていたんです。
もちろん今もね。この「紀寺の家」がある紀寺町、このすぐ近くの古民家が実家であり、父の建築事務所。私はそこで生まれ育ちました。今もここで暮らしているんですよ。それがこれ。
 

 
「お父さんは”住”だよ。建築だからね。」って言われて。
ああ、なるほどと思いましたね。
 
そんな父をみて、最終的に建築を学びたい!と決め、大学へ進学したんです。
高校までずっとこの家で育って、大学から神戸で一人暮らし。さあ、本格的に建築の勉強をしようと思った時、さて私の頭の中はどうなっていたかっていうと…
 
「もう、実家のような古民家にはぜったいに住みたくない」
 
 

ー ええ!そうだったんですね。ちょっと驚きました。
 

そうですよね(笑)。
その当時の私は、安藤忠雄建築のようなコンクリートの建築物を建てるんだ!と、もっと近代的でかっこいいものをつくりたい!と思っていたんですよ。
 
父のことが嫌とかではなく、ここで育って、それが当たり前すぎて。
その時は土壁とか土間がある昔の家、その魅力に気づいていなかったんです。
 
でもやっぱり考え方は変化していきます。
大学で学び、東京の工務店で働きながら勉強をしていく上で、父の言っていた 衣食住の「住」、人の住む家というのに惹かれ、住宅がやりたいと思いました。そして、コンクリートからいつのまにか木造に惹かれていったんです。
 

 
ー それはどうしてなんですか?
 

海外旅行でヨーロッパなど、色々なところを旅して、建築物を見て回りました。そこにはその土地の素材を使った家の個性、暮らしがあるんですよね。その個性に魅力を感じたんです。
 
じゃあ日本の家の個性は何かというと「木」だなあ、と。
でも今の日本には木造の住宅、木の見える、ぬくもりを感じられる、骨格のある家が少なくなってきている。そういった家の仕事に携わりたい、と考えた時になかなか機会がない。
その時、父がやっている古民家改修の仕事が羨ましく思いましたね。
 
それで、8年前くらいに結婚を機に奈良へ戻ってきました。
本気で図面を引くつもりで帰ってきたんですよ。
 
そして、父の事務所で働いて半年もしない時にハッと気づいたんです。
ものすごい勢いで町家が潰されていることに。
古き良き日本の古民家がどんどんなくなっていく。自分の生活圏内だけでも1ヶ月に1件くらいのペースで。実は今もそのスピードは変わっていないんです。潰されているとは聞いていましたが、こんなスピードだったんだ…とショックでしたね。
 
古民家でもちゃんと手を加えると、今の時代でも暮らしやすい住空間になる。こんなに素敵になるのになんでみんなしないんだろう? もったいないなと感じた。
これはどうにかしなきゃいけない、と。
 

 
「とにかく、この良くなる住空間を見てもらわないといけない」と思いました。
 
家って親戚とかよほど仲の良い友人じゃない限り、みんな行かないでしょう?
建物を持っている大家さんじゃないと分からない。
雑誌とかで興味のある人に触れる機会はあるけれど、体験はできませんよね。
こんなに素敵になるんだ !ってなかなか知る機会がない。
 
多くの人に知ってもらいたい ! じゃあどうする? モデルルームをするか?色々と考えを巡らせました。そんな時、京都で町家の一棟貸し宿が話題になっていると聞いて、奈良の町家にもその手法を取り入れられないだろうかと考えたんです。

 
 
ー それが「紀寺の家」なのですね!
   藤岡さんのキーワード、建築と宿がようやく結びつきました。
 

そうなんです。宿のコンセプトは「今、町家を楽しむ、暮らしを旅する」
私たちが提案したいのは今の町家暮らし。
 
昔の町家暮らし、昔の町家に泊まれます、ではなく、今、現代を生きる私たちが住みたいと思える暮らしができるように空間を変えています。素敵な部分は残して、不便だなあというところは変えていく。その空間にモデルハウスとして泊まっていただける、今の町家暮らしを感じてもらうための宿をつくろうと思いました。
 


 
なぜ建築設計を学んでいて、いきなり宿をやったかというと…宿泊業や観光産業をやりたかったわけではなく、こんなに素敵な建物が今どんどん潰されていってしまうのは本当にもったいないから、知ってもらいたい!その一心でスタートしたんですよね。
 
興味のある人もない人も、この宿に泊まって「こうなるんだ」 そう思ってもらえる。
 
こういった建物の魅力を多くの人に知って感じてもらえる、というような事も建築に関わる者としてのひとつの仕事ではないかなと思っています。

 
 


 

 
ー 仕事をする上で大切にしていることは?

 
自分がいいなと思う、意識や感覚を大切にしていますね。
紀寺の家でもこういう町家暮らしがいいな、と思うものを形にして表現しています。
 
ついつい宿だからこんなサービスを ! と考えてしまったりするのだけれど、私たちはこれからの町家の暮らしをテーマにしたいので、お客様が住人としていかに楽しんでいただける空間にするか、ということを忘れないようにしています。
 
私が日頃大切にしている言葉なんですけどね。
 
———-
 
standard is…

理由はうまく説明できないけれど、心や身体にしっくりくる。
それは誰かが作ったものかもしれないし、私たちが作ったものでもいい。
今まで見たもの、感じたものが違えば、それぞれスタンダードは違う、
だからこそ、自分のスタンダードを大切にしたい。
そしてこれからも変わりゆくスタンダードを楽しみたい。
 
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そんな考え方のひとつ。
たとえば床の間に掛け軸をかけるというのも昔の町家暮らしの基本なのだけれど、その昔の当たり前にとらわれる必要はないと思っています。
 
その掛け軸というのはその時の現代アートだったんだと思うんですよね。
なのでもちろん掛け軸が悪いわけではない。
掛け軸の中から選ぶのではなく、今の時代に、季節に、空間に合わせた現代アートを飾って、それが住空間を豊かにしているのであればいいなと考えているんです。もちろんとびきりかけたいという軸があればそれを選びますよ。
 

 
ー 衣食住にまつわる、みなさんのいいなと思うものが「紀寺の家」には詰まっているんですね。宿をやっていて嬉しかったことはありますか?

 

お客様が「こんな家に住みたいです」といって帰ってくださるのが、一番嬉しいですね。
 

その時の季節の香りがする、雨や風の音が聞こえる、自然の中で、地球の中で暮らしているのを感じてもらえる。そういった事も町家の魅力。
 
それらを感じていただく事が、伝統的な日本の建築が残っていく第一歩になればと思っています。

 
 

 

▲ 藤岡さんの NAOT は EIGER Buffalo LeatherMatt Blackの2色。とてもいい風合い。靴をはじめシャツや靴下、上着など、藤岡さんの身に着けているもの・身の回りにあるものは作り手やそれを届ける人たちの想いや考えに共感したものなのだそう。「関わる人の気持ちが詰まった一品ひとつひとつが私の暮らしをつくっている。そのひとつがNAOTなんですよ。仕事でもプライベートでもNAOTの靴を履いています。」
 
 

 
● 紀寺の家 
所在地:奈良県奈良市紀寺町779 ☎️:0742-25-5500

URL : machiyado.com/
 
 
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