今回は私の好きな本の話を。
森繁久彌「わたしの自由席」
2009年に亡くなった森繁久彌さん。
生前の活躍をほとんど知らなかった私の中では、
森繁さんと言えば「もののけ姫の乙事主様」の印象がとても強く、
漠然と「国民的名優」というイメージしかなかった。
この本は、昭和50年代に森繁さんが新聞に連載していた
400字コラムを集めたもので
そんな「国民的名優」と呼ばれている人が書くものは
どんなに説教くさい文章か…と思いきや、
読んでみると日常でふと気付いたこと・喜び・憤りが率直に綴られていている。
ときには(というかほとんどが)女・酒・タバコ・大人の遊び…について
あまりにも飾りっけなく書かれていて少々ビックリ。
コラムはおもに舞台やドラマの控え室で空き時間にササッと書いていたようで、
昭和50年当時もしもツイッターがあったら、
森繁さんのアカウントはこんな感じだったかも?と野暮な想像をしてみたり。
なんといっても当時60代の森繁さんならではの達観した目線で、
世間をバサリと切っているのは痛快である。
もう40年近く前のこととはいえ、
本中に書かれている世間の問題は今にも通じることがたくさんあって
ときどきハッとしたり。
(相変わらずな今の世の中をみて、森繁さんは何と言うだろう…)
そんな森繁さんの文章を読んでいると、私はいつも
まるで飲み屋で偶然出会ったおじさんの面白話を聞いているような気分になる。
知らなくてもいいけれど、知っていたら誰かに言いたくなるような話を教えてくれたり、
「ま、俺は知らないけどな」と言いながら
荒々しくも優しいアドバイスをくれる森繁おじさん。
そんな楽しくて何のしがらみもない酒場にいるような気分になれるので、
私はこの本が大好きである。
私がこの本に出会ったのは大学の頃、
森繁さんの出身地である大阪の枚方に下宿していたとき。
2009年、森繁さんが亡くなった年に市立図書館の追悼コーナーで
たまたま手にしたのがきっかけだった。
その年大学卒業後、地元に戻ってからも「もう一度読みたい」と思いながら
すでに絶版になっていたこの本になかなか出会うことができず、気付けば7年。
つい先日、インターネットでみつけてやっと手に入れることが出来たのが嬉しくて
ここ最近はいつもカバンに入れて持ち歩いている。
また読みたいと願っていた数年、古本屋を見つけては探してもなかったのに
インターネットというのは本当に広くて、何でも手に入ってしまう狭さがある。
「なんでもかんでもインターネットで買いやがって!」
と森繁さんは気に食わないだろうか。
まあいい、私はまた大好きなおじさんに会えてとにかく嬉しい気分。
そんな森繁さんには、クタクタにくたびれたEIGERが似合いそうだなあ。(妄想)
(森)