今年の夏休み。いとこの太郎くんの家に、家族みんなで行きました。
太郎くんは、和歌山県の串本というまちに、奥さんのジュンコさんと、
うまれて半年くらいの息子の一郎くんと暮らしています。
数年に一度会うかなというくらいの間柄の太郎くん、去年いつのまにか結婚していました。
風の噂では、とてもエキサイティングな暮らしをしていると聞いていたので
いつかたずねてみたかったのです。
串本は、海のまち。本州のいちばん南のはしっこなのだそうです。
水平線に陽が沈んだころ、太郎くんとの待ち合わせ場所に向かいます。
「でっかい看板あるから〜」
とだけ言われた待ち合わせ場所。
海を横目に国道を進んでいくと、たしかにあります。大きな看板。
暗がりに、軽トラをとめてタバコをふかしている地元のひとこそ、
太郎くんでした。
「おぅ〜!ひさしぶり〜!」
と車の窓越しにひょっこりと現れ、ニカッと笑う懐かしい表情。
「こっからけっこう坂やねん!」
という軽トラのあとをついていきます。
車がうなるくらいの細くて急な坂。
ぐんぐん進む軽トラを途中見失ってしまいました。
やっとこさ着いた空き地に車をとめて、外にでます。
暗い。街灯はありません。
「こっからは、うちまで歩くから〜」
太郎くんの頭にはいつのまにかヘッドランプが。
本気系の山登りでしか目にしない、頭につける懐中電灯です。
色々とつっこみたくなりましたが、
これがないと全く前が見えないので、とにかく太郎くんの頭のランプだのみで
一家四人が一列になってついていきます。
6歳の娘が怖いと言う暇もなく、ずんずん進んでいきます。
昼間だったら、のどかな山村の風景に足をとめていたでしょう。
けれども今は、暗闇。ただただ必死にランプの光がさす方向へ歩きます。
「今日は昼間に畑に猿がきてもて〜」
てな話をききながら、しばらく歩くと、
「うちここやねん、犬おるから〜。 あ、犬、大丈夫?」
と柵をあけたとたん、元気なワンコがぴょんぴょんでてきました。
私をスルーし、気がつけばたじろぐ娘のほっぺをペロペロ。
初めての太郎くんちは、庭を通り抜けた先にありました。
古い家を自分で工夫しながら暮らしている様子がそこかしこに見られます。
土間はどこかでもらってきた金物や、台所道具にあふれ
たくさんの棚が作られています。
余計な灯かりはなく、必要なところにだけポツリと。
あがった畳には、一郎くんがコロンと寝転がっていて、
なんとも落ち着いた表情で出迎えてくれました。
「ようこそわがやへ」
暖をとるための窯もありました。
自分で作ったといいますから、すごいもんです。
「簡単やで〜〜、粘土固めていけばええねん」
庭には、なんと五右衛門風呂がひょっこり。
まるっきり野外です。屋根はないです。服を脱ぐ場所もないです。
「あっつ〜!言いながら入るねん(笑)」
そういえば、赤ちゃんが生まれるまでにお風呂を作るといっていたなと
つっこむと
「そうやったね〜、あはは」
と笑うジュンコさん。一郎くんも五右衛門風呂いけるそうで。
あ、オッケーなんやな、と一人腑に落ちました。
「うちら、いつも夕飯遅くてゆっくりやねん。
9時くらいに食べ始めたりするし。」
といいながら、野菜をきったりして支度をすすめてくれる二人。
「ジュンコちゃん、大葉とってきてや〜」
という太郎くんの声に
はいはいとジュンコさんも、マイヘッドランプを装着し、
向かう先は、暗闇。
ほどなくして、両手にどっさりと大葉をもって現れました。
庭の大きなテーブルを囲んで、もはや何時かもわからないときに
ごはんがはじまります。
こんもりとお茶碗に盛ってもらった白いご飯。
焼いたにんじんは、ほくほくと甘く、
ぽりぽりときゅうりをほおばり、
穀物の味がするとうもろこしに満腹になります。
全部ふたりが畑や田んぼでつくったもの。
美味しいわけです。
さっきとってきてくれた大葉にはお刺身をくるんで口にほりこんで
爽やかな香りでいっぱいになり、
炭火でじっくりと焼いたさばの美味しさにうなります。
味付けはシンプル。しおやニンニク醤油、みそ。
「海藻なんかも色々食べてみるねんけど、たまに舌がしびれるときあるねん。
毎日がサバイバルやで〜(笑)」
まるで古代の人みたいに見えてきました。
トイレに行きたいと言うチャレンジャーな娘を
ジュンコさんが離れに連れて行ってくれました。
案の定、大きなクモが壁にへばりついています。
「ゴキブリを食べてくれるから、いいクモなんよ〜」
というジュンコさんの言葉に、なぜか安心する娘。
その様子も怖くないか??
すごいよ、ジュンコさん!
たった数時間の夜の出来事で、心もお腹もいっぱいになった私たち家族は
夜も深まったころ、太郎くんの家をあとにしました。
空を見上げると、せまってくる勢いの満天の星たち。
そのなかで光っているすじを指して
「天の川やで、あれ」
と教えてもらって、一番感動したのは、娘かもしれません。
お話で聞いた織姫と彦星がほんまにあるんやと。
「ジュンコちゃん、俺らこれから、ちょっと港いって魚みにいこか」
太郎くんの仰天な誘いに
「いいね〜いくいく!」
と赤子を抱えたジュンコさんがノリノリでついていきます。
いま、何時やろう・・・
そんなこと、どうでもええな、って思えた夜でした。
(服部)