NAOT × はたらくひと の連載 第4弾は火と実coffee の 西野仁美さん。
昨年の秋に近鉄奈良駅の北側、きたまちに美味しいコーヒーを淹れてくれるカフェがオープンしました。「こんにちは」と訪ねると、いつも仁美さんが明るく元気な笑顔で迎えてくださいます。
今回はそんな仁美さんのお店をはじめるきっかけ、日々大切にしていること。
お話を伺ってきました。どうぞご覧ください。
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ーひとみさんとコーヒーとの出会いは?
コーヒーロースターの会社に就職したことかな。
私の父はお酒を飲まない人でね、その代わりコーヒーが大好きで。
父は仕事の帰りにお気に入りのコーヒー屋さんに立ち寄るのが日課でした。
ちょうど仕事を探していたある日、そのお店のスタッフに欠員がでたので、「お前、あそこで働いていいんやない?」という話に。
それで、エイヤ!と飛び込んだ。そこがその後、長く務める会社の直営店だったんです。
店頭で1年位働いていたのですが、私は飽き性なものでね。
そんな時、ちょうど本社で営業の欠員が出たんですよ。
面白そうだから営業にいきたい!と手を上げて営業に回してもらったのがはじまりです。
ーなんでもトライしてみる性格なんですね。
そうですそうです。
自分から色々やってみたい!が溢れてくる。
やる人いなかったら「やりましょっか?!」みたいな感じのノリでなんでも首つっこんでやっていました。
小さい会社だったので、販促とか営業企画、イベントやセールの現場に立ったりと、とにかくなんでも!
お得意先のお店に出向いてコーヒー教室をしたりと、人に教えるということも経験することができました。また違う芽が開いたなぁ、というか。すごく面白かったですね。
そこから20年間、その会社にお世話になっていたんですよ。
ー自分のお店を持ってコーヒーを淹れようと思ったきっかけは?
自分のお店を持つなんて最初はまったく考えていませんでした。
仕事柄、喫茶店に行ってオープニングの手伝いをしたり、運営の相談に乗るなど、オーナーさんと話をする機会が沢山あったんです。
表向きは素敵でゆったりとした時間が流れているように見えますが、裏では大変!
定休日に買い出し行って仕込みをしたり、見えない所でたくさんの事をしている。
お店を持つのは本当に大変な事だから私自身は絶対にやらないと思ってたんですよ。
でもある日、マンネリ化している自分に気づいたんです。
同じ日々の繰り返し。でもなんとなく会社の状況も周りの友人も変化している。
このままじゃだめだと会社を辞めました。
退職後は食品や雑貨を販売する仕事をしたりと、コーヒーからはしばらく離れていたんです。
そこでは2ヶ月だけのお手伝いのはずが、いつのまにか2年働いていたんですよ。
今までとはまた違う経験をして、人との出会いも多くあったりと、いい刺激を沢山いただいた時期でしたね。全部今の自分に繋がっています。
さあ、次はと履歴書を書いていた時。
ふと、このまま一生終わってしまうんかな?と思ったんです。
また別のところで働いて時間が過ぎて行く。あれ、このままじゃ死んでも死にきれへん!!と(笑)
やりたかった事、なにかあったかな?と振り返ってみました。
常に変化を求めていたけれど、「コーヒーを美味しく淹れて、飲んでもらいたい」という自分の信念は一貫していることに気づいたんです。
ああ、ずっとやってきた事だなと。
一度、全部自分の手でやってみたいなと思いました。お店、やってみよう!ってね。
お店の場所をみつけるまでに10ヶ月かかったのですが、その間に全部、どんなメニューにしようとかどんな店の雰囲気にしようとか書き留めて考えて準備をしました。
なかなか決まらなくて諦めかけた時にここだ!という雰囲気の物件がでてきて、是非ここでやらせてくださいということで始まった。
物件が決まってからはすぐでしたね。1ヶ月くらいの準備期間を経て、オープン。
ーお店の名前はご自身のお名前とリンクしているんだとか。由来は?
そう、私の名前は「ひとみ」なんですけど。
ある日、友人にコーヒー豆ってこういうものなんちゃう?って言われて、ハッとしました。
コーヒー豆ってね、実を火で炙ってできるんですよ。あっ、ひとみ、火と実だって!
そこから「火と実coffee」と名付けました。
ロゴも大好きな飼い犬(パピヨン)と自分のトレードマークのメガネとコーヒーを入れて描いてほしいと伝えたらこれができたんです。自分と自分の好きなものでできています。
コーヒーは絶対に美味しい状態で提供するようにしています。
当たり前の事なんですけど、ちょっと淹れすぎた、お湯が熱すぎた、ぬるかった、そんな妥協は絶対にしない。
コーヒー豆は農園の人達が丹精込めて育てて、それを買い付けたロースターさんが一生懸命焼いたもの。
私が最後の提供者なので、最後まできちんと淹れるということをしっかりやっていきたい。
そういう気持ちは人一倍強く持っていると思っています。
ーそう、強く思うワケは?
前の仕事でコーヒー豆の生産国に行くことができたおかげかも知れません。
そこはバリ島の生産地だったのですが、そこで木からコーヒー豆を摘む農園で働く人達はみんな貧しい生活をしていたんですよね。
ボロボロの服きて、裸足で生活している。戦後の日本みたいに。
豆の選別の工場へ行くと全員女性なんです。1日働いても何十円とかの世界。
私はそこに行った時、なんだか涙が出てきてしまって…
彼女達にとってはそれが当たり前の生活なのでなんとも思っていないのですが、私達が裕福すぎることに気づきました。
彼らが頑張って働いて、私たちの手元に届いているコーヒー豆。
そう思ったら豆を粗末に扱えない。すぐ飲まなかったり、粗末に扱ってはいけない、と。
だから豆を落としたりしないように注意しています。ひとつぶも。
直営店の管理をしている時も豆を誤って落としてしまうのは仕方ない、けれど生産国の人が大事に摘んだ豆を踏むな!と言っていました。
もしも落としてしまった時はちゃんと拾って、「ごめんなさい」と言って、さよならをする。
よく 「早く飲んだ方がいいですか?」「日持ちしますよね?」という質問をされます。
腐ったり、カビが生えたりはしないんですけど、時間が経つと確実に豆の鮮度はどんどん落ちていく。
ちゃんと美味しい間に美味しく淹れて飲んであげてほしいな、と思っているんですよね。
ー最後にひとみさんの座右の名を教えてください。
一期一会の最後の一文字を”笑う”と書いて、「一期一笑」。
いっつも笑ってたいと思ってるんですよね。
笑顔でお客様と接すること、すごく大事にしています。
笑っているけど、しっかり美味しいコーヒーを出しますよ。
お店がぐわーってむちゃくちゃ忙しくて、ごったがえしていても笑顔で淹れて、笑顔で提供する。
心の中では「ぎゃー」とかいってますけどね(笑)。
ここが奈良という土地だから余計にそう思うのかもしれないけど、お客様が観光でやってきた人だとしたら私が奈良で出会った人になる。
きちんとしておかないと、奈良の思い出が良くないものになってしまうんじゃないかってね。
少しでも楽しい、美味しい、思い出を作って帰ってもらいたい。
ちゃんと笑って見送りたいなという気持ちから、よっぽどのことがないかぎり、帰る時は膝ついて見送るようにしていますね。
玄関が一段下にあるので、立ったままだとお客様を見下ろしてしまう。
だからいつも座って、ありがとうございましたを伝える。
▲ 仁美さんの NAOT はIRIS White と もう廃盤になっている幻のGreyカラー。お店は玄関で靴を脱ぐ形だから脱ぎ履きが楽なサボが楽チンでこればかり履いてしまうんだとか。「むちゃくちゃこのサボに助けてもらってます!さー今日も元気に働くぞー!」と今日も仁美さんは満点の笑顔。
● 火と実COFFEE
所在地:〒630-8291 奈良県奈良市西笹鉾町2
INSTAGRAM : www.instagram.com/hitomi_coffee/?hl=ja