NAOT × はたらくひと の連載 第5弾 は 「とほん」 の 砂川 昌広さん。
「とほん」 さんがあるのは奈良の大和郡山という歴史ある城下町。
元畳屋さんをリノベーションしてできた、趣のある建物の中にある8坪ほどのちいさなかわいい本屋さんです。そこには新刊本・古本・リトルプレス等、ジャンルを問わず様々な本が並んでいます。
今回はご主人の砂川さんにお店をはじめたきっかけ、はたらくこと、本に対する想いを伺ってきました。どうぞご覧ください。
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ー本屋さんをはじめたきっかけは?
もともと子供の頃から本が好きで、よく読んでいました。
大学卒業後から本屋さんでアルバイトをして、それからもずっと大阪で書店員をしていたんです。アルバイト時代を含めると14年、書店員を続けていましたね。
でもある日、働いていた本屋さんが閉店してしまったんですよ。
そのタイミングで自分でやってみようかな ! と思い、「とほん」をはじめました。
「本屋さんをするのが夢だったのですか?」と聞かれた事があるのですが、夢ということではなく、単純に書店員を続けたかったんです。本に関わっていきたいという想いだけですね。
世の中に本屋さんは沢山あるけれど、自分ひとりでやるならどんな感じかな?という風に考えながら、お店づくりをしてきました。
ー長く本に関わられていたのですね。「とほん」というお店の名前の由来は?
” ◯◯と本 ”という意味で「とほん」です。
英語でいうと、”& Books”。
旅、料理、植物、政治、笑いなど、世の中には様々な事柄があるけれど、どんな事でもそれに関する本がある。本は何にでも繋がっていますよね。
「雑貨とほん」「大和郡山とほん」「人とほん」「町とほん」など、色々なものごとに「と、ほん」と繋がっていけたら、という想いを込めて名付けました。
ー屋号のマークもかわいいですね。これ、本ですか?
そうなんです。これ、本が開いているイメージなんですよ。
「とほん」があるこの場所は柳町商店街といって古い城下町の商店街。
なので歴史のあるお店が多いんです。呉服屋さんや和菓子屋さんとかね。
そのイメージもあって、古い屋号のようなロゴをとお願いしてつくってもらいました。
”やまと”と読むことができる字面なので、”やまと”ですか?ってよく言われます。
でもここは大和郡山だし、奈良は大和国だし、いいんじゃいなかと!
これは、ちょっと、後付けですけどね(笑)。
ーお仕事をする上でのこだわりや、大切にしていることはありますか?
本屋さんの棚や平台を見ると、おすすめの一冊というようなPOPが沢山ありますよね。
うちではあえてそのPOPを作っていないんです。
なぜかというと、全部がおすすめだから。
「とほん」に来てくださった方には自分で本を読んで、見つける楽しみを感じてもらえたらな、という想いでやっています。
POPづくりはSNSの発信に置き換えています。新刊も月に10冊以上は仕入れているので、そういった本のご紹介やお店のイベントのお知らせはinstagramやtwitterで発信しています。それがきっかけでお店に遊びにきてくださる方もいらっしゃいますね。
人って自分で見つけたいという気持ちがちょっとあると思うんです。宝探し感覚でね。
こんないい本、面白い本、みつけた!という感覚を味わって欲しいし、そう感じてもらえたら嬉しいなと思います。
ー確かに!とほんさんに来るといつもなにか見つけて帰れるという面白さがあります。
こういう形にしたいというのはあったんですか?
この辺りにはなんでも揃う大型の本屋さんがあるのですが、私のお店は小さいお店なのでなんでもあるよ!は難しい。でも、よく好きな本だけ集めているんですか?と聞かれることがあるのですが、そうではないんです。
とほんにある本は自分がおすすめできる事はもちろんなんですが、お店に来てくれる人が好きな本はどんな本だろう?どんな本なら喜んでいただけるかな?と、お客様ありきで選んでいます。
私自身は海外文学が好きだから、家にある本棚は全然違うんですよ。
なので、いろんな方にひっかかりがあればと、ジャンルは問わず、幅広く揃えていますね。
小説もエッセイも図鑑ぽいものから絵本、写真集。古本やリトルプレス※も扱っています。
雑貨も置いていますよ。その方がたのしい空間になるかなと。
気軽に買える、入りやすい、でも奥深いという本やモノをできる限り揃えていきたい。
普段、本を読まない方にも「なにかあるかな?」と、雑貨を見に行くような感覚でとほんに足を運んでもらえたらいいなと思っています。
※ リトルプレス・・・個人や団体が制作から流通までを手がける冊子のこと。
ーやりがい、砂川さんの原動力は?
自分がいいなと思って選んだ本を買ってくださった時は素直に嬉しいですね。
もちろん本は全部いいな!と思って仕入れているのですが、それでも選んで貰った時は「いいでしょー!」と大きな声で言いたいのを心の中でぐっと堪えながらお客様にお渡ししています。たまに言ってしまいますが(笑)
お店をはじめた頃はリトルプレス等、あまり流通していない小さい出版社、奈良にはここでしかないような本を置くようにしていたんですよ。でもお店をはじめてみたら、一般に沢山流通している本であっても、「こんな本があるの、知らなかった!」という風に言ってもらえることが多くてね。
奈良でしかとか、ここでしかない本でなくても選んでもらえるという事が分かったので、オープンした時よりもこだわらずに、どんな本でもそれがいい本なら仕入れるというスタンスに変わってきました。
ここ何十年、本自体の売上は落ちているのに出版件数は増えているんですよ。
本屋さんの店頭での本の入れ替わりが早くて、本をじっくり売ることが難しくなっています。
装丁が美しい本や、面白い本はちゃんとあって、贈り物にしたり、本をモノとして持っておきたいという人は今も昔も変わらずいます。”いい本”の概念は人それぞれ違うのかもしれませんが、そんな”いい本”が埋もれてしまってはもったいない。
なので、ぎゅうぎゅうに詰めておくのでなはく、それをポンと一冊ずつ、丁寧に平台に置く。棚に置く。その人にとっての”いい本”をちゃんと見つけて貰えるように。
とにかく、ここで本を見つけて、出会っていただけるというのが嬉しいですね。
ーそんな砂川さんの座右の銘を教えてください。
なんだろう??? 好きな言葉ならいろいろありますよ。
あっ、そうそう!そこに知人に書いていただいた「読書亡羊」という言葉があるんですけど。
中国の故事でね..
あるふたりの男が羊の放牧をしていて、羊に逃げられてしまった。事情を問うと、ひとりは読書に夢中になっていたからと答え、もうひとりは博打に夢中になっていたからと答えが返ってきた。そのせいで羊に逃げられてしまった事に全然気づかなかった、という話があります。
理由の差こそあれ、二人とも羊を逃してしまったという点では同罪。読書をしていようが、博打をしていようが、逃げられたのは一緒!という意味の言葉なんですよね。
読書をしていたから偉いわけじゃない、すごいんじゃないぞという事。
もちろんそこから得るものはあるけれど、本が、読書だけが、特別なものではない。
そんな言葉という風に私は捉えています。
ただ純粋に楽しい、得られるものがあるからそれをする。
それは人と出会う事だったり、映画を観る事、旅に出る事だったりしますよね。
本以外にもいろんな形の学び方というか、自分に繋げていく方法は沢山あると思うんです。
ーその、ひとつの手段が読書!
そうですね。読書はためになる、役に立つ、みたいな考え方が逆に本のハードルを上げてしまっているのではないかと。それが読書離れに繋がっているのではないかなと、思う事はあります。
もうちょっと本を気軽に楽しんで貰えたらって思っているんですよ。
遊びと一緒でね。楽しいから遊ぶ、楽しいからまた遊びたい!ってなりますよね?
本もそうあるべきものなのかなと。
楽しいからまた読みたい! 面白そう、読んでみようかな! って
そんな風にここで本を手に取って貰えたらいいなと思っています。
▲ 砂川さんの NAOT は GLACIER Buffalo Leather 。最近、アウトソールの張り替え修理をしてくださいました。革のカッコイイ風合いはそのままに履き心地が蘇った事をとても喜んでくださっています。
● とほん
所在地:〒639-1134 奈良県大和郡山市柳4-28
URL : www.to-hon.com/