NAOT × はたらくひと の連載 第7弾 は ponte de pie!(ポンテ デ ピエ!) の 田中佳子さん。
ponte de pie!さんと言えば奈良を代表する靴下ブランド。
履き心地がとにかく最高で…NAOTスタッフはみんな大ファン!という靴下なんです。
NAOTとも親交が厚く、靴下と靴ということで足元最強タッグ!
ほぼ日さん主催の「生活のたのしみ展」などのイベントではいつもお隣さん同士。
田中さんとはいつも一緒にイベントを盛り上げようと頑張っています。
今回は そんな ponte de pie! の靴下の生みの親のひとりである田中さんにこのお仕事をはじめたきっかけ、靴下にまつわる想いを伺ってきました。どうぞご覧ください。
ーこのお仕事をはじめられたきっかけは?
「杉田靴下工場」の社長の娘である杉田幸子さんとの出会いがきっかけです。
最初、幸子さんとは仕事仲間ではなく、ママ友でした。
私の二人の娘と幸子さんの息子さんと娘さんが同じ剣道道場に通っていて、そこで出会ったんです。幸子さんが靴下の仕事をしているというのはなんとなく知っていました。
ある日、「誰か手伝ってくれる人を探しているんだけど・・・」と彼女が言っていたのを人づてに聞いたんです。
その頃の私はというと、幼児教育の講師やお医者さんの秘書、ピアノの先生などいろんな仕事を日替わりでやっていました。子育てをしながら日替わりメニューで仕事をこなしていたんですけど、その中で1日だけ空いている曜日があったので、「さっち、週1日でよかったら!」と手を挙げたんです。とても感じのいい方だったので、何か力になれたらなと思って。
そこから、ここ杉田靴下工場にお手伝いにくるようになりました。
ー日替わりでお仕事なんてすごい!おふたりとも子育てをしながら、お仕事もバリバリされていたんですね。ponte de pie!の靴下はどうやって生まれたんですか?
そうですね。特に幸子さんは工場の後継ということで、ものすごく忙しく仕事をしていました。大変そうだし、私自身ももっと手伝えるようになれば…と思っていたんです。まだその頃は ponte de pie! の 靴下は存在していなくて、大手メーカーのOEM(他者ブランドの製品を製造すること)が主なお仕事でした。
そんな中、ある時たまたまフィットネス系の靴下の仕事を請け負いました。野球のアンダーストッキングみたいな、こう、いわゆるトレンカみたくなっていて、カットとかゴムの入れ方等、複雑な縫製ものをつくることになったんです。
それまで私自身、ものづくりに携わったことがなかったのですが、はじめて自分たちが「こうしたらいいんじゃないか?」「ああしたらいいんじゃないか?」ということを言い合いながらひとつのものを作っていったんですよね。
そこで一生懸命考えて、苦労してつくったものが実際に店頭に並ぶという感動を覚えました。
そこから「ものづくりって面白い!」ってのめり込んでいったんですよね。
こうやって、靴下ができるんだ!というのが分かってくるようになりました。
だんだん週1日の出勤が2日になり、そして3日になり、ほとんどの時間を2人で動くように。
でもそんなものづくりの面白さを感じると同時に、もどかしく感じていたこともあります。
それは自分達が一生懸命考えてサンプルをあげても、それがなかなか通らなかったり、付加価値があるものを!と言われつつも、コスト的に難しかったり、実現できないケースが多くあるということ。
せっかく自分達でいいものをと考えて提案しているのに、それが実現できず、靴下を編んでもらっている工場の職人さんにもせっかく色々やってもらったけど違う形になりましたと伝えなければならない時もある。
「いつか自分達がつくりたいものをつくれる日がくるといいね」と幸子さんといつも話していましたね。こういうものがつくりたいなぁ…とふつふつ湧き上がってくる想いを一緒にあたためていたんです。
そんな時、「奈良ブランド」の募集広告が新聞の紙面に掲載されました。それは奈良ブランド開発支援事業の一環である「NARA TEIBAN」展の開催に向けたメイドイン奈良ブランドの募集。それを幸子さんが見つけて、「こういうのがあるけどどう?!」って相談してくれたんです。
どんなものか、どういうものがいいのか、とにかくやってみようと。
「自分たちが、本当に毎日履きたい靴下をつくろう!」と、応募したのがきっかけで ponte de pieというブランドができました。
ー ついに念願の靴下づくりがスタートしたのですね!全て自分たちでゼロからつくったのですか?
そうです。まずは幸子さんと2人で靴下に何を求めるか?という事をカードにめいっぱい書き溜めて、ディスカッションをしました。
「素材について」「はき心地について」「サイズについて」と、カテゴリ毎にカードを全部分けて、その中で自分たちが毎日履きたいと思うもの、毎日履くためには何を求めるか?ムレない、ズレない事が大切だよね!デザインは?色は? 等、どういう靴下がいいかコンセプトも含めて順番に決めていったんです。
例えば、ムレない為にはどうするかというイチからの素材探し。紙繊維という素材に辿り着くも、なかなか機械に合う糸が見つからなかったりと苦労しました。私の足はすこし小さくて22.5㎝なのですが、そうなるとフリーサイズの靴下はブカブカになってしまうこともある。そういう人ってきっとたくさんいますよね?自分達でつくるのに、自分で履けないのはいやだなあと思って、サイズも3サイズ展開にしました。
うちには小さい工場があって、そこには70代のベテランの職人さんもいてくれたのでそれが実現できたんです。私達は編み機のことはある程度しか知りません。全部を知らない方が、職人さんが考えに及ばないことが提案できたりとよいこともあります。「これはどうにかならないの?」と職人さんにとっては無茶なお願いもしていたなと思いますね笑。
なので、これが全部外注であったら決して実現できる話ではありませんでした。自社工場をもっていたからこそ、チャレンジできたこと。Ponte de pie!の靴下は足底と上部が違う糸なのですが、そんな糸の切り替えの提案も職人さんと試行錯誤しながら、1年近くかけて試作品をつくりました。
すぐに思ったことを形にすることができるということ。できたものをすぐ自分たちで履き試して、気になったことをすぐ修正できる。ponte de pie!の靴下は職人さんだけでも私たちだけでもできなかった。ずっとOEMの仕事をやっていたので、価格の面でも自分たちが納得して決めていける、自分たちの想いを乗せて靴下を届けることができるのはこの上ない喜びでしたね。
そうして、2010年2月に「NARA TEIBAN」でブランドとしてデビューして、ここのショップを同年10月にオープンしました。
靴下は全て洗い作業をかけているのですが、ここで洗って2階で干しているんですよ。検品やパッケージ作業もここで全てやっています。
今でもスタッフみんなで次はどんな色がほしいかな?どんな靴下がいいかな?というように意見を出し合ってものづくりをしているんですよ。
ー田中さんはイベント等でいつも飛び回っているイメージです。ズバリはたらく原動力とは?
原動力はやっぱりお客様からの声と笑顔かな。
イベントに出店していると、「これ履いています!」「手放せません」等、お客様から色々な声をいただくのでそれが一番嬉しいです。なによりも力になりますね。なのでイベントに出張することは体力的には大変なんですけど、気持ち的には一番楽しみにしているんです。毎回お客様からパワーをいただいて奈良に帰ってきています。よし、またがんばるぞー!って。
私自身、この仕事をするまではモノを売るということが人生で一番遠いところにあったと思うんですよ。大学も教育学部だったし、全く違う仕事をしていましたから。どちらかというと苦手意識があって、昔はできれば一生したくないと思っていたくらいでした笑。
ーそれは意外!接客をしている田中さんはいつも生き生きしていますよ。
今、こうやって人前で靴下の接客をしているというのが自分でも不思議なんです。
でも、この靴下は自分たちが考えに考え抜いてつくりだしたもの。自分達が本当にいいなと思ったものなので「これ、こんなにいいんだよ!」という風に伝えられることが嬉しい。なので「売りにきました」ではなく、「私たちはこういう気持ちでつくりました」という想いを伝えることを大切にしています。気持ちや想いを伝えて共感してもらって、結果、ものが届いているという状態。だから10年近く経った今も続けられているのだと思いますね。
実際はお客様と売り手という関係なのですが、お友達や知り合いの方に紹介している感覚です。
「いらっしゃいませ」というより、「こんにちは、お元気ですか?」という感じでいつも楽しくお話しさせていただいています。
色んな種類の靴下があり TPO に合わせて、また靴や洋服に合わせて選ぶ場面もあると思うのですが、Ponte de pie!の靴下が足元にある事で、自分らしくいられたり、勇気が持てたりしてして、足元の心地良さが気持ちに伝わるといいなあと願っています。
ー実際、幸子さんと二人でつくった靴下はたくさんの人に愛されていますもんね。
輪が広がっていることは本当に嬉しく思っています。
もうひとつ、自分の原動力を挙げるとするのであれば、それは杉田幸子さんとの出会いですね。
彼女はponte de pie!のデビューの少し前に病気が発覚し、3年後、本当に悲しいことに天国へ旅立ってしまった。
この仕事は彼女の生きがいそのもの。彼女がいなければ何もはじまらなかったし、私はここにいなかった。ここで色々な経験ができているのは彼女のおかげなんです。すごく素敵な人でした。ママ友としても仕事のパートナーとしても心から尊敬しています。この靴下は幸子さんと私の想いが形になったものなので、彼女の想いも引き継いてこの仕事はずっと続けていきたいと思っていますね。
幸子さんは来世でも出逢いたい、かけがえのない友人です。
今年3月、幸子さんの息子の杉田祐朔が東京での社会人経験を経て、祖父、母のつないできた杉田靴下に帰ってきました。平均年齢が一気に若返り(笑)、Ponte de pie!に新しい風が吹き始めたの、とても嬉しいです。
ー日々、大切にしていることはありますか?
ものづくりはひとりではできないので、お客様をはじめ、職人さんやスタッフのみんなとのつながりを大切にしたいと常に思っています。感謝の念を絶対に忘れないようにしています。
そして「楽しむ」ということ。
一生懸命に取り組むのはもちろん素晴らしい事。でも大変な時や事柄は必ずやってくるし、踏ん張らないといけない時もある。
そんな時に、みんな笑顔かな?楽しめてるかな?と周りを見渡して声を掛け合うようにしています。絶対にしんどいことばかりではないんです。
自分自身も楽しんでるかな?と時々、自問自答するようにしていますね。
ponte de pie!のブランド名はスペイン語で「立ちあがれ!」の意味。下請けからの自立ですね。自分たちが自分たちの誇れる靴下を作って、自分たちの足で立って歩き出そうという想いが込められています。
私たちはようやく歩きはじめたばかり。これからどう歩き続けるか?
それをスタッフのみんなと一緒に楽しみながら作り上げていきたいと思っています。
笑顔でね。
▲ 田中さん愛用の LEVANTO Vintage Grey。この日は青のponte de pie!の靴下と素敵にコーディネイトしてくださっていました。他にもIRIS Ink、BOBCAT Black、SVETLANA Matt Blackと、沢山履いてくださっています。イベントの足元をしっかりと支えてくれているんだとか。
● ponte de pie!
奈良県北葛城郡広陵町安倍高イカ107
営業時間 : 11:00〜16:00 不定休
TEL : 0745-55-5000
URL : pontedepie.jp/