私たちはこれまで NAOTという靴を通じて、多くの方との出会いがありました。出会った方はミュージシャン、イラストレーター、文筆家さん、カフェ店主、作家等、それはもう様々なお仕事をされている方ばかり。
はたらく姿勢。はたらく理由。はたらく仲間。意外と知らないあのひとの事、もっと知りたいな。会いに行ってお話してみたい!人の数だけある「はたらく」にまつわるストーリーを聞かせていただきたいなと思い、この企画がスタートしました。
今回は「はたらくひと」のスピンオフ企画!
なんとシンガーソングライターの 青羊(けもの)さんと東郷清丸さんとの対談が実現しました。
NAOT TOKYO でもライブをしてくださったことのある青羊さんはNAOTスタッフとも親交が厚く、東郷清丸さんにおいては6/29(土)にNAOT NARAにて「Q曲」アルバムリリースライブが決定しました!
インタビュー前編は同じ音楽のお仕事をされているお二人の仕事と身体のお話。
深いお話をたくさん伺うことができました。
是非ご覧くださいね。
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ーお二人が音楽をお仕事にされたきっかけは?
青羊:
実はホルン奏者になりたいという夢があったのですが、挫折したんです。そこで音楽の道を諦めるつもりが、やっぱり一度は音楽に関わる仕事をしてみたくて。ライブハウスの仕事に興味があったので、実際にジャズハウスへ足を運んでみました。そこで歌を歌っていた方に「ジャズを習わせて欲しいです」とアタックしたんです。
東郷:
そっちの方が勇気いりますよね(笑)。それがきっかけで歌うように?
青羊:
はい。そこから歌の世界へ、という流れです。楽器をしていたので、声楽等も一緒に習っていましたし、なにより小さい頃から歌うことは好きでした。でも歌はアイドルが歌うもので、自分とは関係ないものだと思っていたんですよ。まさか今、自分で曲を作って歌っているなんてその頃の自分には想像がつかなかったと思います。
清丸さんが音楽をはじめたきっかけは?
東郷:
僕も歌うのは昔から好きでした。音楽の時間に合唱するのも好きだったし、カラオケも大好き!高校生になってからは友人とバンド活動に没頭しました。曲作りもその頃から。
でも小さい頃から中学に上がるまではずっとバスケをやっていて、バスケ選手になる!と思って生きていました。今ではほとんどプレイすること自体なくなりましたけど、NBAの動画を見たりはしてますよ。身体を動かすのは好きなんです。音楽もスポーツくらいのつもりでやってるところはあります。
自分の中では全部、”楽しい事”なんですよね。
青羊:
へ〜、音楽がスポーツ!それからはミュージシャン街道まっしぐら?
東郷:
音楽活動の方はというと…まっしぐらとはいきませんでした。自分たちの音楽のことをいいね!って褒めてくれる人はいたのですが…。バンドはずっと続けていたものの、売れるとか、具体的に何かが進展することはなかったんです。そして、音楽活動とは別に正社員で就職はしたものの、暮らしも良くならない。一回リセットしようと思ってその会社を辞めました。その後に今所属しているデザイン・活版印刷を軸としていたAllrightという会社に活版印刷職人として入ったんです。
音楽に関してはもうお金にならないなと感じていた頃で、「音楽やってる場合じゃないな」っていう気持ちでいました。
その時の自分はもう少しお金を稼がないと安心して生きられなかったんですよね。
青羊:
現実的な問題ですよね。
東郷:
そう。それが現実なのだと思ってました。
そして心機一転、デザイナーになろうと思い、活版印刷の仕事をしながら夜間のデザイン学校に通い始めたんです。ものすごく楽しかったんですけど、活版印刷の仕事とデザインの勉強、その上バンドも相変わらずやっていたので無駄に忙しくなってしまった。その状況に追い詰められてしまって。で、ある朝、なんか違うんじゃねえかな?と思ったんですよ。
Allrightの人からも「来週、地球がなくなるとしたら何する?」と聞かれたことがあります。色々と考えましたね。受験でも就活でも、周りの人に止められてもギターを弾いたり、歌っていた位、音楽はやりたかったものだから。今度は「もうデザインやっている場合じゃないんじゃないか」という気持ちに。やっぱり好きな音楽をお金に変えていく方向を本気で考える方が自分にとっては幸せなのかもなと思いましたね。
それで自分の勤めるAllright内に新たにレーベルAllright Musicを立ち上げて、東郷清丸としての音楽活動を始めたのが2年半くらい前。意外と最近なんです。
青羊:
社内に音楽レーベル!その発想がすごく面白いな。
私自身も一度音楽をやめようと休んでいた時があったんですよね。ジャズボーカルとしての活動はしていたものの、オリジナル曲もなかなか作れない。他人の曲だけで、自分の個性を出して1ステージ魅せるのに限界を感じていました。もう疲れてしまって…それで一度、故郷の岩手に帰ったんです。
東郷:
自分の表現でつまづいたことがあったんですね。
どうやって音楽に戻ってくることができたんですか?
青羊:
岩手に帰っていた間も「いつか歌に戻る」と思い続けていました。
東京で知り合った友人夫婦が「また戻ってきて歌いなよ!」と背中を押してくれていて、また東京に、音楽に戻ることができたという感じです。
その友人夫婦のご主人はジャズのベーシストで、ジャズ時代もよく一緒に演奏していました。
奥さんはカメラマンだったのですが、私が岩手に帰っている間にウクレレを持って自分の曲を作り始めたんです。その姿を見て「悔しい!私も作りたい」という気持ちが湧き上がってきたんです。
岩手に帰る前、私のオリジナル曲は1,2曲位しかありませんでした。東京で再び生活し始めると同時に作れないと思い込んでいたものが、作れるということがわかった。オリジナルの曲をしっかり作るようになりました。
一回お休みして、また音楽活動に向き合うことになったのがきっかけで自分の本当にやりたいことが見えてきた。清丸さんにも同じような経験があったんですね。
東郷:
うん。歌ったり、演奏したりを、あまりにも自然にチョイスしてきたから、自分にとって音楽が本当にいるのかどうかを確認する時間が必要だったのだと思います。だから一回、休憩したのかもな。
ーお互いの音楽の第一印象って?
青羊:
音楽はもちろんなんですが、ビジュアルも相まって、「うわあ!なんかめっちゃ面白い人でてきた〜!」って思いました。すごく急にポン!ってでてきた感じがしましたね。
東郷:
あはははは!僕も青羊さんの事は面白い人がいるんだなって、音楽を聴いて思いましたね。でも面白い中でも座標があるとしたら、すごく綺麗な方の…美しい、面白い人だなあって感じます。
青羊さんの曲作りは歌詞からスタートするんですよね?
青羊:
そうですね。私は楽器の前では曲を作らないので。気になる言葉を貯めておくんです。そうすると、気になる言葉がメロディーと一緒にくっついて、曲のワンフレーズが生まれてくることがあるんです。降りてきたあとはちょっとじっとしています。動かないで、口に出さないで、頭のなかでそれを歌う。難しい表現になってしまいますが、自然に流れくるメロディを読み取るという感じです。
ワンフレーズに少しずつ肉付けしながら、一つの曲ができあがる。ただ、私の場合ビートやコードなどのアレンジはサポートメンバーの力を借りていますね。曲作り一つとっても色々な方法があるけれど、そこが東郷さんとの大きな違いなんだろうな。
東郷さんは音(サウンド)を「こういう風にしていこう」って決めてその上で歌詞を乗せていくやり方でしたよね?そして、アレンジまで全部できる。
東郷:
うん。僕の場合、歌詞は一番最後ですね。アレンジまで全部やりますが、全てが一人というわけではないです。青羊さんも僕もお互いソロプロジェクト。全部一人でやっているように見られるじゃないですか?
青羊:
たしかに。でも、違いますよね。
東郷:
僕は音楽を作ること以外にも、ジャケットやミュージックビデオとかのビジュアル制作もあるんですけど。ソロ名義でやってみて初めてわかったことは、一般の人からは、僕個人が一人でやっているように見えるんですよね。でも実際はそうじゃない。
そもそも僕が所属しているレーベルはグラフィックデザインと活版印刷の仕事をしている会社の中で立ち上げたもの。なのでビジュアルに関しては、Allrightの人たちに全て信頼して任せているんですよね。僕を使ってビジュアルでどう遊ぶかという部分は、その人たちにかかっている。
アートディレクションをやってくださっているデザイナーの高田唯さん、素材を撮ってくれる後藤さん、そして僕とで、大人たちが真剣に面白がって作っているという感じです。ファーストアルバムの「2兆円」っていうタイトルも僕が付けたんじゃなくて、唯さんが思いついたもの。曲のタイトルも、いくつかは僕が付けているし、いくつかは後藤さんが付けている。今回リリースしたアルバムにおいては僕は一個もタイトル付けていないんですよね(笑)。
青羊:
えっ。タイトル決めも?!
清丸さんの、その会社に所属しながら音楽をやっていくっていうスタイルが、また魅力的ですよね。その生き方が面白いって思っている人ってきっといっぱいいると思います。音楽そのものとそれ以外の部分も含めて全部で「東郷清丸」さんというか。音楽アートプロジェクト、みたいな感じですね。
東郷:
アートプロジェクトっていうとなんかすごいかっこよくなっちゃいますけど(笑)。
「こんなキャラクターがいたら面白いよな」をみんなで作っている感覚です。それは別に僕が嘘をついているわけじゃなくて、僕の持っているものの中で「ここを一番伸ばしたい」っていう部分をみんなで考えながらアウトプットしているという感じですね。スタジオで演奏をお願いしている人たちみんなと一緒にやりながら、その人たちのアイディアをまとめて出来上がっていった事もある。もちろん全部一人で作り込む時もありますが、みんなで「東郷清丸」を作っていると僕は思っています。
青羊さんはどうですか?「けもの」という名前の由来も気になっています。
青羊:
「けもの」が生まれたのは、オリジナル曲「けものZ」ができたことがきっかけでした。
その曲の歌詞に”あなたの瞳の奥に揺れている「そのけものの命をください」”というフレーズがあるんですけどね。例えば満員電車ではみんなこう、感覚を閉じている。感覚を閉じていないと生きていけない部分って誰でも少し持っていたりしませんか?その感覚をもう一回開いてみる、ということをもっとしていったらいいんじゃないかと思った。本来持っているもの=けものを取り戻すみたいな。それでこの曲ができたときに、あ、「けもの」って名前いいなと思って。それが由来です。
私の場合、歌詞とメロディができあがるまでの制作は基本一人で完結していますね。
やっぱりソロでやってる意義はバンドとは違って、誰とでも組めるというところにもあります。私はその時々でやりたいサウンドが変わってくるので、音楽の方向性とともにメンバーも変わるという感じ。アレンジや演奏の段階でメンバーと一緒に発展させて作りあげていくやり方です。今回は誰と一緒にやろう、誰と一緒だったら面白いだろう?というのは常に考えています。これからもそういう形をとっていきたいですね。
東郷:
なるほど!やっぱり全部ひとりで作る事ってないですよね。僕の会社のメンバーで共通しているのは、物を作ることに対して「何が一番美しいか」をとてもよく考えているというところ。僕は誰と一緒にやるかが、何より大事だなと思っているんです。
青羊:
すごいぐさっと刺さった。普段の生活もそうですよね。
全部自分の好きな人で固める必要はもちろんないけど、なるべく自分の好きな人とか、「この人となら面白いことをやれそう」っていう人となるべく近くにいる事はすごく大事。気持ちがちょっと重ならないなってことがあると、どんなにすごいプレイヤーの人とでもマジックが起こらない。頭で考えた通りにならないんですよね。
東郷:
もどかしいですよね。
それはもう相性だから、個々の能力が優れているかどうかと関係ないと思う。僕は自分の表現がよりよくできるような人とだけ一緒にいるんですよ。もう身近にいる人全員が相棒。
だから生活空間はストレスがないよう、好きな人やものと一緒にいるっていうことを心がけていますね。
ーはたらく上で大切にしている事は他に何かありますか?
東郷:
「自分」ですね。
青羊:
「いい曲を作ること」ですね。
常にそう思っているから、仕事と生活の境目というものがないです。人と会っていても、気になる言葉があればメモしたり、本に付箋を貼ったり、Instagramに記録したり。それが歌詞と直結して1年後に曲になったりと、日々インプットとアウトプットを繰り返しています。日常生活自体が創作活動のひとつになっていますね。
東郷:
あっ、やべ(笑)!そうですね、僕も「いい曲を作ること」です。
青羊:
ふふふ。やっぱり東郷さんて面白いですね。
この間リリースした「ただの夏」という曲のレコーディングに参加してもらった時、清丸さんがいきなりラジオ体操をしはじめたのがものすごく印象に残ってます。結局みんなでYOUTUBEの動画を見ながらラジオ体操をしてからレコーディングをしたんですけど(笑)。「自分」と言ったのも、身体のメンテナンスを大事にされている、というものありますよね?きっと。
東郷:
そう!そうなんです!体のメンテナンスは大事ですね。
あと僕が「2兆円」のレコーディングで、ドラムとか録音周りを全部お願いしたあだち麗三郎さんは、小さい頃から楽器をやっていたわけではなくて、大学に入ってからはじめたそうなんです。「もっと上手くなりたい!けど小さい頃からやっていた訳じゃないし」と思って、一番効率よく楽器が上手くなる為にはどうすればいいかと考えた時に、楽器は身体を使うから「身体の使い方に習熟するのが一番早いんじゃないか」というところに至った。それで、古武術をはじめ、色々なメソッドを習いにいったそうなんですよ。そういう話を聞いて、僕も実践したところ、確かに意識するだけでパフォーマンスが違ってくるなと実感していますね。
そういうところから、ラジオ体操ははじまっています。
青羊:
私も身体にまつわるメソッドを試した事があります。朝ヨガ等もいいのですが、なかなか続かなくて。
今は歩きながら、腕を動かして骨を整えるというような事をしています。運動というか身体の使い方ですね。歌う時の頭の位置や、腕がどこにある等で声の出方が全然変わってくる。
歌いにくいと思ったら、はじめに腕を前に抱えたりします。そうすると肩甲骨が開いて声が出やすくなるんですよ。リハはもちろん、本番でやることも(笑)。ミュージシャンもみんな身体のことは気にしていますよね。
東郷:
ですよね!僕が身体に関して面白いなと思うのは、体内のことって自分じゃ見えないのに、意識するだけで如実に効果が現れたりするし、身体の細部まで気を使っている人って立ち姿から結構違ったりする。
よく「オーラが違う」人ってつい、元からそうなんだろうと思いがちなんですけど、僕は多分その人は「日々の動作の積み重ねがある人」なんだろうなと思うんです。表面だけ、シルエットだけ真似しようと思ってもできないんですよね。内側の積み重ねの厚みが見た目に現れると思うんです。それは音楽でもそうだし、グラフィックデザインを見ても思う。
だから、僕は挨拶のファーストコンタクトでもうその人を感じるというか、こんな人かもというのが分かる。遠目で歩いているのを見るだけでわかる時もあります。外れる時もありますけど…でもそういうことを日々気にしていますね。
青羊:
出来上がったものから内面が垣間見られるということですよね。そう考えたら、自分の音楽を評価されることにドキドキします。
えっ、て思われるかもしれないんですが、私…最近「筋肉」が大事だなって思っていて。
東郷:
あははははは!
青羊:
「筋肉」っていうのも日々の身体の使い方だけじゃなくて、人と話したり、いいもの観る事、聴く事でも鍛えられるものだと思っているんですよね。
東郷さんの言うように、日々の積み重ねが大事だという意味では身体だけじゃなくて、小さな繰り返しが「筋肉」だなと思って。
東郷:
たしかに曲作りにも「筋トレ」ありますよね。ずーっと作っていないと、急に作ろうとしても書けない。僕はアルバム「2兆円」を作る前、毎日15秒とか30秒でもいいからと曲作りをしていました。そこに収録されている60曲のうち、その時作った曲が2,30曲くらいあるんですよ。
青羊:
おぉー。それは時間を決めて?
東郷:
ほぼ決めていました。1日2時間!とかね。まさに「筋トレ」と思ってやっていましたね。
何かを作るにあたって、「健康」でいるってすごく大事なことだと思っています。結構、ミュージシャンのイメージって、「ロックンロール」とかでいろんなものをぶち壊す感じが思い浮かぶじゃないですか?ある時代ではそれが成り立っていたかも知れないのですが、今はもう仕組みが変わってきていて。何か自分のよくない部分に向き合うことは、辛かったり苦しかったりするんですが、それを乗り越えると「健康」になってくるし。今の時代だと、そっちの方が「ロックみ」があるように個人的には思います。パワーがあるなって。
青羊:
すごくわかる。私は清丸さんの「サマタイム」とう楽曲の中の”この身体ちょっと不具合多いけど大丈夫、既に準備体操は十分だ”っていう歌詞がすごく好きで。
東郷:
…いいですよね(笑)。僕も歌っていていいなって思いますもん。
それぞれ、不具合ありますよね。流石、青羊さん、ちゃんと見てくれていますね。
青羊:
ふふふ、あの歌詞のところでいつもキュンと来るんです。
「筋肉」と「健康」お互い大事にしていきましょう。
(>>>>>後編へつづく!)