NAOT JAPANの活動のひとつに、出版部「ループ舎」があります。
「いつか自分たちの手で本をつくれたら…!」という夢を叶えるために立ち上げた、まだまだ小さな出版部。
今回は9月に出版した短編集『靴のおはなし vol.2』の刊行を記念して、チーム・ループ舎を率いるスタッフの服部にインタビュー!
NAOTが靴屋でありながら本作りに挑戦した理由とは?
服部の夢が叶った『靴のおはなし vol.1-2』ができるまで。
素人出版部の全力チャレンジの裏側をぜひお楽しみください!
何でもDIYしたくなる性分なんでしょうね(笑)

ー まず、靴屋のNAOTでゼロから本を作ろうと思った理由を教えてください。
服部
個人的に純粋に本が好きっていうのに加えて、昔からずっと自分の手で本を作りたいっていう気持ちがあって。
NAOTとしても、ちゃんとした靴のカタログを作る前から、ただ「楽しい」っていうだけで自分たちの社員旅行のことをフリーペーパーにまとめたりしていて、NAOTで本を作りたいねっていう話は4,5年前からよく上がってたんです。

△みんなで行ったベトナム旅行をフリーペーパーに。2014年発行「沓手鳥」
正直に言うと、もちろんNAOTのことを色んな方に知ってもらうための新しい宣伝ツールとしてっていう思惑もなくはないんです。
でもそれって一般的には広告を出したり、もうちょっと効果的なことをしますよね(笑)
普通に広告を出すんじゃない自分たちらしいNAOTの届け方って何やろうって考えた時に、すごい遠回りなんやけど、ちょっと変わった方法というか。
他の靴屋さんで出版をあんまりやってないから面白いんじゃないかなっていうのもあったし、本ってもの自体が、WEBの世界とはまた違う人達に面白い届き方をするんじゃないかって信じてるところがあって。
ー それだったら、すでにある出版社に企画を持ち込んで作ってもらおう…となりそうですが?
服部
確かにそうなんですよね〜。
たぶんNAOTスタッフ全体が何でもDIYしたくなる性分なんでしょうね(笑)
例えば靴の受注会をしたい!となっても、どこかのお店でポップアップショップをしてもらうんじゃなくて、自分たちで場所を借りて靴を持って行ってイベントを開催しちゃうとか。
何をするにしても、その過程を楽しみたい!っていうのが自分たちのモチベーションなんやろうなって思います。別に茨の道を行きたいわけではなく、そういう癖と言うか(笑)
ループ舎での本作りについても、形にすると”出版社”になっちゃうんやけど、単純に本を自分で作ってみたりそれを届けたいって言うのが根本なんです。
ー 服部さん自身が本を作ることに興味を持ったキッカケは何ですか?
服部
昔から、何かしら悩んだりアイデアが詰まった時に絵を描くのがちょっとした救いになる事が多くて。絵を描く手触りとか紙自体がすごく自分に近しい存在だったんです。困った時のお助けマンみたいな。だからNAOTで働く前はパッケージデザインの仕事をしてたくらい、紙媒体自体がずっと身近な存在でした。
それと本を読むのが好きだったことが合わさって、自然と「いつか本を作りたいなあ…」って。

ー なるほど。そうやって立ち上げた出版部で最初に作り上げたのが、靴にまつわるストーリーを詰め込んだ『靴のおはなし』ですね。
服部
今まで、もしNAOTから本を出すとしたらやっぱりNAOTの靴を好きでいてくれる方にも楽しんで欲しいっていう気持ちもあったし、自分たちが身近に感じられるテーマって普段から密に触れてる靴のことだと思ってたので、何かしら靴絡みの本になるかなとは想像してたんです。
その中で、もっと革靴のHow To本的なアイデアもあったんやけど、私たちが作りたい本ってそれなんかなって思って。
私自身、NAOTで働きだすまで、靴にあんまり注目することってなくて、あくまでもファッションアイテムのひとつみたいに思ってたんです。でもお客さまと話せば話すほど、靴は人の生活と密接してる深い存在なんやなってすごく感じて。
当たり前と思ってる自分たちの足元、そこからの広がりを感じたいし、感じて欲しいなって思って、形式を問わず色んな著者の方の靴にまつわるお話を自由に表現してもらえる本になりました。
ー たしかに、靴にまつわる人間模様が見えるようなシリーズになったので、ループ舎としての次の展開も可能性が広いですよね。
服部
知り合いの出版関係の方は、NAOTだったら実用的な本を出すと思ってはったみたいで、「え、文芸?!」って驚かれてました(笑)
実用的な本もいいんですけど、せっかくなら、今まで自分がたくさん読んできた、長く普遍的に読んでもらえるような小説とかエッセイがいいなって。
バラバラなはずでも不思議と絶対うまくいく

ー 著者の方のジャンルも様々ですよね。最初からその予定だったんですか?
服部
私だけの好みじゃなくて、NAOTのスタッフそれぞれが大好きな方っていうのは前提にありました。あとは出来るだけ書き手のジャンルというか、人柄というか、雰囲気のバリエーションを増やしたくて。
靴っていうのはみんなが履いてるものだから、文筆の専門家しか書けないテーマではないと思うんです。今回お願いした方も、もちろん今まで文章を発表したことのある方が中心ではあるけれど、あまり文章のイメージがない方も面白そうと思ったら依頼させていただいてて。
あと、もし学校で同じクラスにいても、たぶん同じグループに属さないだろうなっていう組み合わせも結構重視しています(笑)
ー 学校(笑)その発想はなかったです!
服部
もしかしたら読者にとっては仲良しグループでまとめた方が読みやすかったかもしれへんねんけど…(笑)
もしこのうちどなたかの著者のファンがこの本を手に取った時に、他の著者を「この人は誰だろう?」って興味を持ってもらえたら、新しい発見になると思うんです。
ー 実際にNAOTの店頭でこの本を見たお客さまも、「へ〜この人は知らんかった〜」「え、その人めっちゃいいよ!」なんてお友達と会話されること多いですよね。
服部
嬉しいですよね!学校なら友達にすらならないんじゃないかなっていうくらい遠いイメージの方同士を一緒の本に詰め込めたら、きっと絶対面白い。
実はNAOTのスタッフ自体も、みんな好きなものとかてんでバラバラで、たぶん高校の時に出会ってたら友達になってないやろうなって思うけど、今は一緒にめっちゃ笑いながら楽しく仕事してて。そういう体験をここでしてるから、バラバラなはずでも不思議と絶対うまくいくやろなって自信はありました。
お店も本も、まとめてくれてるのはもしかしたら靴の力かもしれないですけど。
実際に本を作り上げる段階では、構成どうしよう…って苦労も確かにありました(笑)
ー では本作りで一番大変だったのは、全体をまとめることですか?

服部
いや…もっと大変だったのは2つあって、まず「本を売る基盤を作る」ことです。
作った本を読んでもらうためには全国の本屋さんに置きたいけど、本の流通について本当に無知で…。作る過程はなんとなく想像がついてたんやけど、売ることは本当にわからなくて。知り合いの編集者の方に聞いたり、他のスタッフにもいろんなところに掛け合ってもらいました。
でも有名な編集者の方でも、本屋さんに置いてもらうことすら大変だっていうお話を聞いたりして。
だからこそ、最初に受注をいただいた時は、「え、本当に?!!」って驚いて感動しました。
もちろん著者の皆さんがすごいからなんですけど、こんな生まれたての小さい出版社の本に興味をもってくださって…って(笑)
ー 感動ですね〜!苦労した事、もうひとつは?
服部
「人に依頼すること」ですね。それまでは何か作るときも、ほとんど全部自分たちで書いて、それをまとめてたんです。それが、外の人に依頼して、ダメだったり受けていただいたりして、次は原稿を回収して内容を把握して…っていう、ぜんぶ初めての体験で。
でもその大変は、すごく楽しい大変やった。
ー やりがいのある大変ですよね。
服部
そうですね。やっぱり出来立ての原稿を最初に読める瞬間は本当に本当に嬉しいんです!
編集者の方ってみなさんそうなんやろうな…。メールなり郵送なりで送られてくる原稿と、それに添えられてる著者自身の言葉と、その生な感じ。
著者の方の緊張感が伝わってくるというか。いただく度に感動します。
特に今回はアンソロジーだったので、それぞれの方の原稿へのスタンスだったりやり方だったりがバリエーションに富んでて、本当に勉強になりました。
今までは本ができるまでのことなんか気にせずなんとなく読んでたけど、今は、この本はどういう発端・経緯・やり取りで生まれたんやろう?ってやっと考えるようになりました。
だからこそ次はひとりの方とガッツリ一冊を作ってたい、っていう夢も生まれて。
ー 書き下ろしの長編作品なんか読むと、もう奇跡としか思えないですよね(笑)
服部
もう全ての本が偉業ですよ!(笑)
面白い人って、作るものも面白いし、実際に生活してるナマのところを垣間見てもめちゃくちゃ面白いじゃないですか。表現されてる方にお会いすると、やっぱこの人すごいわって思う。
いつか、その人自身が見えるナマの部分と、そこから膨らんだ創作の世界を一冊にできたらいいなと思います。
エッセイの中で逸話というか、文章が盛り上がってくるなかでフィクションが混じってくるような世界観が好きなんです。
絶対この人の言葉を伝えなければ

ー 服部さんはやっぱり、人に興味があるんですね。
服部
そうですね。他の人って自分では考えられへん・思いつかへんことを内に秘めてる。それって話してみても面白いけど、文字だと伝わった時にまた違う印象的な記憶の残り方をすると思うんです。
大きい言い方になるけど、やっぱりそれが本の使命だと思う。きっと本を作る人って、もちろん楽しみでっていうのもあるんやけど、「絶対この人の言葉を伝えなければ」っていう使命感があるんやと思います。
ー では、ループ舎の次の本は「人」がテーマですか?
服部
そうですね。今まで『靴のおはなし』では靴をテーマにしているけど、実は靴を切り口にして、結局人にフォーカスしてた部分はあるんじゃないかと思います。
こちらは最初から3部作で考えてたので、最後の一冊は今までNAOTが関わってきたいろんな人の言葉、靴にまつわるショートショートのようなものにしようと思ってます。
その次はダイレクトに人にフォーカスを当てようかと。
ー 私もスタッフとして、これから何を一緒に作っていけるか、本当に楽しみです。
服部
ループ舎はみんなの好奇心の入れ物っていうイメージなので、これからは他のNAOTスタッフの「面白い」も形にしていけるよう、みんなの出版舎として頑張っていきたいです!
ループ舎のこれからに、ぜひご期待ください!
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編集:岩崎