リトルストーリー
2019.12.22

[短歌]フルーツポンチ・村上健志の旅短歌 #3


 
お笑いコンビのフルーツポンチ・村上健志さんによる、短歌とエッセイの連載。
 
五・七・五・七・七 の決まったリズムの中で、ひとつの場面や風景を、まるで手に取れるようにくっきりと(ときにはそのときの心情までも!)描くことができる「短歌」。
 
たまの遠出の風景を、あるいは日々の生活に潜むちょっとした冒険や発見を、村上さんの言葉で「旅短歌」として切り取っていただきます。
 
今まで気がつかなかったような些細なことも、不思議と面白おかしく美しく見えてくる…そんな言葉の連載を毎月お届け。
 
第三回は、都会の紅葉狩りの帰り道。
英字プリントのTシャツには、気をつけて!
 




 
酷く後悔していた。なんとなく選んだだけだった。
 
とある休日。何の予定もなく、天気が良かったので外に出た。春には多くの人に見上げられていた桜が紅葉していた。「そうか、桜も紅葉するのか。」と自分はそれに気づいた事に優越感を感じる。しかし、すぐに後ろめたい気持ちになる。本当は桜が紅葉するのを知っていたのだ。
 
春ではない桜に注目した事実を作るために、人と違う感性を偽るためにこの場所に来たのだった。その事を誰かに見透かされている気がして、その場所を後にしカフェに向かった。
 
スマホをいじり時間を潰す。店内は暖房が効いていたから、セーターではなくカーディガンを着てきて正解だった。なんでもない日常のはずだった。
 
隣の席のカップルが別れ話を始めたのだ。そちらを見たくなる気持ちを抑え下を向くと僕のTシャツにcarnivalの文字。別れ話を茶化すような場違いな言葉。他人の不幸も考えず「なんて不謹慎な奴だ」と思われているのではないかと、こんなTシャツを着てきた事を後悔した。
 
僕のなんでもない日は、誰かにとって最悪の日だったり、クライマックスだったりするかもしれない。電車で花束を抱える人の横に座っている人は海に指輪を捨てに行く人かもしれない。 世界は他人で溢れている。
 
別れ話のカップルは、互いに言いたい事を言い終え「やっぱ、好きってことが改めて分かった。」と仲直りをしていた。
 
「なんだそれ。」とTシャツのロゴをサッと隠し店を出た。
 
 

△撮影:村上健志
 
 
 


 

Instagram: @mura_kami_kenji


 

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★別れ話なんてやめて、踊ろうぜ。
次回は2020年1月26日(金)公開予定。


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