リトルストーリー
2020.01.12

[インタビュー]NAOTが出会った「はたらくひと」#13 in-kyo #長谷川ちえさん


 
私たちはこれまで NAOTという靴を通じて、多くの方との出会いがありました。
出会った方はミュージシャン、イラストレーターさん、文筆家さん、カフェ店主さん、作家さん等、それはもう様々なお仕事をされている方ばかり。
 
はたらく姿勢。はたらく理由。はたらく道具。はたらく仲間。人の数だけある「はたらく」にまつわるストーリーを聞かせていただきたいと思い、この企画がスタートしました。
 
 
連載 第13弾 はin-kyoの店主 長谷川ちえさん。
昨年11月にNAOT福島キャラバンを行わせていただいた場所でもあります。
2016年にはNAOT TOKYOのご近所である東京・蔵前から福島県三春町へ移転され、「日々の暮らしの中で、月日を共に重ねたくなるような器や生活道具」を扱っていらっしゃいます。
蔵前から三春に移って、変わったこと、変わらなかったこと。長谷川さんにとっての、「丁寧に暮らす」こととは。
エッセイストとしても数々の著書をお持ちの長谷川さんが大切にしたいこと、そしてどのような思いでお店を営まれているのかなどなど、心地の良い空間でいろいろと伺ってきました。
 
どうぞお楽しみください。
 
 
 
 
 

 
 
ーーはじめに、三春町にご移転される前のことから伺えればと思います。東京・蔵前にお店をオープンされたきっかけを教えてください。
 
2007年にオープンしたので…12年前になりますね。
in-kyoはアノニマ・スタジオという出版社の一角に間借りをしてスタートしたお店なんです。その5年後にはNAOTTOKYOから歩いて1分ほどのご近所に移転。
結婚を機に福島県三春町に仕事と暮らしの拠点を移したのが2016年。
早いもので三春町に来て今年で丸四年になります。
 
 
 
「アノニマ・スタジオと一緒だったら何か面白いことができるかも!」
 
間借りをしていたアノニマ・スタジオという出版社は、現在も「食べることと暮らすこと」をテーマに、素晴らしい多くの書籍を手がけ続けていますが、当時はとても面白い「場」も作っていたんです。
 
ビルの2階は出版社の事務所スペース。1階はキッチンスタジオとして撮影や料理教室、フードイベントも行える設備が整った広いスペース。料理以外にもライブや映像、トークイベントやギャラリーなどとして様々なことが行われていました。本の中だけでなく、著者と読者がつながる場所でもあったんです。
その構想の段階で、当時のアノニマ・スタジオの代表から「1階の一角でお店をやりませんか?」とお話をいただいたのがお店を始めるきっかけでした。
 

 
私は、元々エッセイストとして文章を書く仕事をしていたものの、器や雑貨が大好きだったので、漠然と「いつかお店をやりたいなぁ」と考えていましたし、そんな話も近しい人たちによくしていました。でもそのときはまだ具体的な準備をしていたわけでもなく。だからお話をいただいたときは「えっ!」っていうまさかのタイミングでした。
これまでの書籍でもずっとお世話になっていた、信頼している編集者の方からのお誘い。もし他の方からのお話だったら、お店をやることは無かったと思います。何の確信もなかったけれど、「この場所でだったら絶対面白いことができるかも!」っていうその感覚だけで動いてしまいました。
 
ーー声をかけられた時は嬉しかったですか?それとも不安でしたか?
 
不安は…今思うとなんであの時自分が不安に思わなかったのかなっていう感じです。
それよりも好奇心の方が大きくって。読者と著者、そして出版社の繋がりってこれまでは本の中だけだったけれど、リアルに繋がっていく新しい場所に、自分が参加できる。なんて楽しいことなんだろうって。わー!ってとにかくワクワクしながらオープン準備をしました。
 
でも、「いよいよ始めるぞ」となった1週間くらい前になって、急に怖くなりました。本当にやっていけるのかとか、ゾワゾワゾワ…といろいろな考えが巡って、なんて自分って考えなしなんだろう…と落ち込みました。
 
人の場所を借りてやるっていうことは、自分だけではなく、出版社のみなさんや他の作家さんにまで迷惑をかけることもあるってことが、何でまず思い立たなかったのかなと思いました。「これはこれは大きなことをやっちゃったな…」と思いながらも、やるしかないなと思って始めました。そんなスタートでした。
 

 
 
あまり深刻に考えていないかも
 
ーー長谷川さんは昔から何か思い切って始めることが多かったんですか?
 
いえ、すっごい心配性だったりするんですよ。…でも振り返ると大きな決断をする時は自分の感覚を信じて動くことが多いかもしれません。
結局感覚で動いていることは、 誰かにこうしなさいって言われたわけでもないし、最終的には自分で決めてきたことなので。
自分で答えを出しているから誰のせいにも出来ないなとは思っています。心配性のわりには自分が決めたことだからしょうがないなって思っています。やるなら楽しくやれるように、自分で考え方や仕事の仕方を工夫していけばいいかなって。あまり深刻に考えていないかも(笑)
 
子供の頃から心配性で、「○○ちゃんにこう言われちゃうかもしれない」「こう思われてるかもしれない」ってよく母に話していたんですよ。そんな私に母は「そんなこと心配してもしょうがないじゃない」ってよく言っていたんです。当時の私は、こんなに真剣に悩んでいるのに!って思っていたんですが、大人になってみると、母の言っていた「しょうがないじゃない」って意味がよく分かるようになりました。抗ってどうにかならないことってたくさんあるし、考えぬいて出した答えで、やってみてもどうにもならなかったら、それでしょうがないと思っているんです。それはやってみる前から諦めてしまうというのとは違って、「しょうがない」。でも次がある、別の方法があるって考えるための過程なのかなって。
 

 
 
お客さまのおかげでやってこれたと思っています。
 
ーーそうやってスタートして13年続けられているって、すごいことだと思います。
 
いろいろなことがありました。いつも綱渡りですよ(笑)
特にin-kyoはオンラインショップをやってないので、お店に来てくださるお客さまがいて成り立っているんです。
 
お天気が悪い日に私が暇そうにしていたりすると、近所のおばあちゃまに心配されています(笑)  「このお店無くなっちゃうと困るから!」と言ってコーヒーを飲みに来て下さるんです。
 
ーー「場」を持つっていうことは、そういう方々が居てくださることではじめて成り立つんですね。
 
本当にそうなんです。自分が頑張ってきたというよりは、そう言ってくださるお客様のおかげでやってこれたんだと思っています。
扱っている道具も、自分で使ってから話すのと使っていないで話すのとは、全然説得力が違うと思うんですね。東京でそれが伝えきれていたのかなというと、自信を持って言い切れないなという部分がありましたね。でも、こちらに来てからはお客様と話すことがとっても多くて、その部分がちゃんと出来ているかと思います。
 
ーー私もここでお客様とのやりとりを拝見していて、東京とはまた違う距離感だと思いました。
 
うん。濃さが違う(笑) そうは言っても東京の頃のお客さまも、三春まではるばる来てくださる方がいらしたり、繋がりは未だに続いています。
 

 
ーー蔵前から福島に来られて、いろいろな変化があったと思うんですが、それでも変わっていないと思うことはありますか?
 
意外と変わらないことが多いです。特にお店で扱う、モノを選ぶ基準は変わらないと思います。
in-kyoでは、使う人と長い月日を一緒に歩んでくれるものを揃えたいと思っているんですが、例えばコーヒーや紅茶など消耗していくものでも、ずっと飲んでいきたいなとか。生活必需品じゃなくても、これがあるだけで心が豊かになるなとか。
 

 
 
欲が深いのかもしれないけれど…。
 
ーーちゃんと気持ちよく生活することって、忙しいと後回しになってしまうと日々実感しているのですが、長谷川さんが丁寧に暮らすことを大切にされているのはどんな思いからなんでしょうか?
 
忙しくて1番面倒なことを後回しにすると、どんどん本当に荒むスパイラルに入るじゃないですか。
「そこに埃がいっぱい溜まってるのを放っておいてしまう」とか「パックのお惣菜を買ってきて、お皿に移すことなく食事をしてしまう」ということも現実にあることだとは思うんです。でもわたしは「丁寧な暮らし」をしているというつもりは無くて、そういう「丁寧を当たり前にしたいっていう欲」があるんですよね。
 
疲れている時だったらすごく頑張らないとできないことかもしれないけれど、パックのお惣菜をそのまま食べるよりも、自分が気に入っているお皿に移して食べた方がホッとする。自分が心地よいと思うことを優先したいという思いがあります。
 
最近は「丁寧な暮らし」というワードが雑誌などのメディアでテーマになることも多いし、「丁寧な暮らしがしたい!」と思っている方も増えているように思います。では「丁寧」って一体何なのだろう?って考えたときに、ぬか漬けを漬けることやお味噌を作るその作業自体とはちょっと違うように思っているんです。
私が幼い頃には祖母が、冬至には柚子をお風呂に浮かべたり、祖母が漬けたぬか漬けや梅干しを日々の食卓で食べていました。昔の人はそういう事を「丁寧な暮らし」としてではなく、自然に行っていたんですよね。私はたまたまそれらのことに興味があって、今は趣味のようにやっていることなんですが、仰々しくなく当たり前のこととして暮らしの中に取り入れていきたいと思っています。
 

 
 
とことん「暮らし」というものに向き合おうと思いました。
 
東京でお店をやっていた頃は、時間の流れ方が早く、慌ただしく感じられて。今思い返すと、いろんなことに対して私の気持ちが散漫だったように思います。
それはそれで楽しかったんですけど、3・11をきっかけに、「暮らしの道具を売る」ということについてあらためて考え直すようになって。自分がお店で扱っているものを、ちゃんと使う暮らしが自分は出来ているのだろうかと。そう考えた時になんだか後ろめたい気持ちになりました。
 
ちょうど福島に暮らす夫との結婚の話も出た頃で、福島への移住を機にとことん「暮らし」というものに向き合おうと思ったんです。お店も続けていこうとは思っていましたが、生活と仕事の比重を少し変えていきたいという気持ちも生まれました。
 
扱っているものとかお店の雰囲気は変わっていないんですが、気持ちの上では大きな変化はありましたね。何を優先させるべきかが今の方が明確になってきています。
 
 

 
ーーお仕事の原動力になっているものはなんですか?
 
お店にお客さまがいらっしゃることがが原動力になっていると思います。お客さまと毎日お話するのが楽しくって。お店をやっていなかったら出会えなかっただろうと思う方々と出会えるっていうのは有り難いなと思います。
 
三春町に来た当初、お知り合いはほぼ皆無だったんです。でも、お店を続けていることで近所の方が受け入れてくださったり、喜んでくださったりすると、やっぱりやってて良かったなと思います。
 
東京でお店をやっていた時も今と同じようにコーヒーや紅茶などのドリンクメニューをご用意していたのですが、利用するのは知り合いの方が多かったんです。福島に来てからは、初めてご来店される方にコーヒーをお出しする機会が増えました。カフェではないけれど、お店に足を運んで頂いたり、会話をするきっかけになっていることが嬉しいですね。
 
 

 
ーーこれからやってみたいことはありますか?
 
これまでもやってきたことなんですが、ワークショップのように人が集まる場と時間をあらためて大切にしていきたいなと思っています。
 
昨年くらいから「心の用を満たすもの」という言葉が自分の中でのテーマなんですけど、これは三春町の隣町に張り子人形を作っている橋本広司さんという方がいるんです。その方から伺ったお話の中に出てきたものなんです。
 
この言葉は民藝界の重鎮の言葉でもあるんですが、橋本さんが家業を継いで張り子人形を作っていた中学生くらいの時に、張り子は道具でもないし、あまり生活の役に立たないのに、どうして「民藝」って呼ばれるんだろうと思いながら作っていたそうなんです。そんな時に、民藝界の方が「張り子は心の用を満たすものだ」って言ってくださったそうです。
 
橋本さんはその言葉を聞いて、それまでは家業だからと思ってやっていたけれど「誰かの心の用を満たすものを作っているんだ」と、ストンと腑に落ちるものがあったというお話を聞かせて下さったんです。
そのお話を伺って、in-kyoで扱うものもそういうものでありたいなと思いました。元々意識していたことではあるんですが、器や生活道具、洋服や食品なども、ただものを売るだけではなく、音楽や写真、絵などのように形には残らないかもしれないものも含めて「心の用を満たすもの」。
ワークショップもその考えの延長線上にあるものだと思っているんです。
 

 
 
そろそろ自分の中に溜まってきている思いを、
一度全て、書き出したい
 
あとはお店以外の仕事になりますが、そもそもの始まりでもある文章を書いて本を作りたい思っています。
いつ何が起こるかもわからないし、この先やりたいことを考えると、あっちもこっちも手を出していられないなと思うようになって。
 
昨年50歳になったときに、体力のことなども考えるとあと20年で何が出来るだろうと考えるようになりました。お店を始めるきっかけとなったのは文章を書くことだったので、エッセイを書き溜めていきたいと思っています。
 
文章を書くことで表現ができるという楽しさを教えて下さったのは、2011年にこの世を去った美術作家の永井宏さんなんです。なんだかここ最近、永井さんのことを思い出すことが多くて。そろそろ文章を書く仕事の方にも舵を切らないと色々間に合わなくなる!と思ったんです。まだ誰にも依頼されている訳でもないんですが、WEBではなく紙媒体で手触りがある本を作りたいなと思っています。
 

 
in-kyoが12周年を迎えた時に、あらためて「文章を書こう。」という気持ちが湧いてきて。
三春に来てからの日々の暮らしのことや、くっきりとした輪郭のある四季の自然の美しさ、季節ごとの行事。町の人々のあたたかさなど。三春という町を知らなくても読んだ人の心がホッとほぐされるようなものを。本にするということはまず置いておいて、自分の中に溜まってきている思いを、一度全て、書き出したいなと思っているんです。
あくまでも暮らしを優先に。そしてお店でやりたいことも並行してやりつつですが。
公言してしまうと、やらなきゃ!と自分にプレッシャーもかかりますから(笑)思ったことは口に出すようにしています。
 
 
ー本が出来上がるのがとても楽しみです。
今日はありがとうございました。

 
 

▲長谷川ちえさん愛用のNAOTはIRIS Matt Blackカラー
シワもしっかり入って「永く使って」くださっているのがわかります。
NAOTの靴も「その人の生活にそっと寄り添うもの」であれたらいいなと思います。
 
 

 
●in-kyo
所在地 : 〒963-7766 福島県田村郡三春町中町9
定休日 : 水曜日と木曜日 *2/4(火)〜、火・水・木曜日に変わります。
営業時間 : 10:00~17:00
 
 
 
 
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