お笑いコンビのフルーツポンチ・村上健志さんによる、短歌とエッセイの連載。
五・七・五・七・七 の決まったリズムの中で、ひとつの場面や風景を、まるで手に取れるようにくっきりと(ときにはそのときの心情までも!)描くことができる「短歌」。
たまの遠出の風景を、あるいは日々の生活に潜むちょっとした冒険や発見を、村上さんの言葉で「旅短歌」として切り取っていただきます。
今まで気がつかなかったような些細なことも、不思議と面白おかしく美しく見えてくる…そんな言葉の連載を毎月お届け。
第四回は、胸が苦しくなるような記憶…から。
「色違いで一つずつ持とうよ。」そう言われて買ったキーホルダーは確かもう捨ててしまった。
寒がりの君がポケットから手を出し「かわいい」と言って指を差す。僕たちは路地裏に小さな雑貨屋を 見つけた。ガラス張りで、店内の小物たちがそれぞれの色で光っているのが外からでも分かる。
ずいぶんと偉そうな顔をしたかえるの置物。その顔を真似ると君が笑う。調子に乗ってその顔を 何度も見せる。「わかったわかった。」と君は急にその顔に飽き、ピアスを選び始める。
『触らないでください』と注意書きの貼られたフィギアに指を近づけ、もう少しで触れそうになる ところで指を離す。君がピアスを選んでいる間、僕がしていた遊びを君は知らないままだろう。
「どっちが良いかな?」と聞かれて選んださくらんぼのピアス。結局あれは買ったんだっけ?僕 が選ばなかった方のぶどうのピアスを買ったのかもしれない。
覚えていますか?あの雑貨屋を。
この街に、君が来なくなってもう二年です。
雑貨屋は歯医者になりました。
古びた小さな弁当屋は、まだ唐揚げを一つおまけしてくれてます。
味は変わらず、普通です。
明日は、寒くなるみたいです。
今、歯医者の受付の人と目が合いました。そろそろ行きますね。では。
△撮影:村上健志
Instagram: @mura_kami_kenji