リトルストーリー
2020.02.13

[スタッフコラム]お母さんの靴


 

わたしが子どもだった頃の、お母さんの靴の記憶。

 
コツコツコツという、お母さんの足音。

夕方の光が漂う頃、
「ただいま」と一緒にふんわりと香る良い匂い。

「今日のご飯なに?」

お母さんの顔をみるとほっとした。

 

 

小さいときは、音のなるヒールのある靴に憧れたものだった。

こっそり足を通してみたお母さんの靴はぶかぶかだったし、コツコツという音はうまく出なかったけれど。

 

「将来は何になりたいの?」

そう聞かれることが苦手だった。

返答に困っているわたしを見て、

「何にでもなれるもんね」

お母さんはちょっと羨ましそうに言った。

そう言われると何にでもなれる気がしたけど、何になれば良いのかちっともわからなかった。

 

 

あれから十数年、それなりに迷いながらもわたしは育ち、大人になった。

いつの間にか、お母さんの好きな靴の、靴屋さんになっていた。

あの頃、靴屋さんになるなんて想像さえしなかった。

気持ち良い。
ここにいたい。
何となく、好き。

そんな場所へいつの間にかたどり着いたのかもしれない、たんぽぽの綿毛みたい。

 
 

あの頃のお母さんの足元を支えた靴。

それを今、たくさんの人に届ける仕事をしている。

 
 

いつの間にかお母さんと同じ背丈になり、ヒールはもうぶかぶかではない。

お母さんと並んで、同じ靴を履いている。

コツコツコツ、上手に鳴らせているかしら。

 

 

この靴を見ると、未来と過去、今が交錯するような、不思議な感覚になる。

 
 

あの頃と今と、お母さんとわたし。

あの頃の自分へ、あの頃のお母さんへ。

‘良い靴は素敵な場所へ連れて行ってくれる’

まんざら、嘘ではないのかもしれないね。

 

 

 

お母さんの靴/TRENDY Black Velvet

 
 

編集:吉中
 


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