リトルストーリー
2020.02.28

[短歌]フルーツポンチ・村上健志の旅短歌 #5


 
お笑いコンビのフルーツポンチ・村上健志さんによる、短歌とエッセイの連載。
 
五・七・五・七・七 の決まったリズムの中で、ひとつの場面や風景を、まるで手に取れるようにくっきりと描くことができる「短歌」。
 
たまの遠出の風景を、あるいは日々の生活に潜むちょっとした冒険や発見を、村上さんの言葉で「旅短歌」として切り取っていただきます。
 
今まで気がつかなかったような些細なことも、不思議と面白おかしく美しく見えてくる…そんな言葉の連載を毎月お届け。
 
第五回は、自分だけが知っている愛おしい景色について。
古いフィルムを投影するかのようなひとときを、どうぞ。
 
 


 
 
 

 


天国に例えられるような海。何十時間もかけて訪れたのに出会えないかもしれないオーロラ。街全体が一つの作品のように思わせて並ぶ家々。絶景。一生に一度は行ってみたい他所では見られない素晴らしい景色。そんな話で盛り上がる中、ある景色が浮かんだが言うことをやめた。
 
田んぼに囲まれた小さな駅。電車が去ってホームには駅員と僕しかいない。蛙の鳴き声だけが聞こえてくる。生命力丸出しの本気の鳴き声がその場所の静けさを際立たせる。あの静けさを絶景たちと並べてみようと思ってやめた。「ただの田舎の駅じゃん。」そう言われ返す言葉が見つからないと思った。蔑ろにされたささやかな景色が絶景たちと並んで気まずそうに作り笑いをしているのが目に浮かんだ。悪いことをするところだった。
 
真夜中のショーウィンドウの黄色い鞄。行間に差している次のページの影。本人も知らない背中のほくろ。そんな取っておきの場所。自分だけが良いと思っていれば良い。自分にしかこの良さが分からないんだと誇らしくさえなる。「曲は無理だけど、俺に歌詞書かせてくれたら結構良い歌詞書くと思うんだけどな。」と詩心が芽生える。やっぱり分かってもらえたらもっと嬉しいと思い話してみる。が、ウニの乗った生肉の画像に普通に負ける。「美味しそう。」とスマホを見ている。美味しものを見つけたその顔も悪くない。また一つ絶景が増える。
 
 


△これもまた、絶景。
(撮影:村上健志)
 
 
 


 

Instagram: @mura_kami_kenji


 
 

★自分だけの絶景があるって、とっても豊かだ。
次回は3月29日(日)公開予定。


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