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#1 山田稔明 猫の履歴書、靴の履歴書 -前編-


 
 

「ねことくつ」にまつわるコラムが新たに始まります。
 
ねこも、くつも、一緒にいる時間が長くなるほど、お互い馴染んで、いつの間にか相棒のような存在になっていくもの。
 
第一回は、シンガーソングライターの山田稔明さん。
これまで暮らしてきたねこ達のことを、歌や本にのせて届けている山田さん。
NAOTでは、毎年恒例の東京ライブやコラムの寄稿など、たくさんお世話になっています。
 
今回は全3編のうち、前編をお届けいたします。

 
 


 
 
 


猫の履歴書、靴の履歴書 -前編-
 
 
猫と一緒に暮らして、もうすぐ二十年になる。
 
子どもの頃には何匹もの猫が自由奔放に我が家を駆け回っていたけれど、上京して音楽が生業になった頃に出会ったポチという三毛猫に僕は一目惚れしてしまった。あるいは、彼女のほうが先に僕にモーションをかけてきたのかもしれないな。とにかく、僕らは運命のいたずらで一緒に暮らすことなった。
 
僕の家にやってきたポチはそのときすでに2歳の美しい成猫だった。もし仔猫のときに出会っていたら僕にとって彼女は“娘”であり、僕は“パパ”だったのかもしれないが、その落ち着いた視線や仕草、シュッと長い尻尾としなやかな身体に対峙するとき、僕とポチはあくまでも対等だった。僕は一人っ子だったから、突然ちょっと歳の離れた妹ができたみたいな感じだった。マイペースで芯の強い、少し気まぐれな妹。良いときも悪いときも僕は毎日ポチと一緒にいて、思い思いの時間を過ごしたり、甘えたり、甘えられたり、いつも仲良し、そうするうちに十余年の月日が決められた速さで過ぎていった。
 
猫の14歳は人間に換算すると72歳くらいになります、というような物言いが僕は好きじゃない。猫にとって一年が人間の四年分に相当することくらい知っているけれど、それでも「うちの猫は14歳で、人間なら中学2年生ですよ」とやんちゃでありたい。ポチは最期まで僕にとっては可愛い妹だった。いよいよ腎不全の具合が悪くなってから旅立つまでの1週間、僕は仕事をすべて放り出してずっと一緒に彼女のそばにいた。
 
「腎不全っていうのは痛いとか苦しいっていうのはあんまり感じなくてボーッとするらしいの。だからポッちゃんも『あれ?なんか最近パパがずっとそばで優しくしてくれるなあ』ってぼんやり思ってるよ」と知人に慰められて、僕はその言葉が嬉しくて泣きながらも「いや、僕はポチのお兄ちゃんっていうことになってるんで…」と言い返して、みんなが笑ったこととか、そういう些細な出来事を僕はきっとずっと忘れない。ポチとは十三年間をともに暮らしたけれど、今もすぐそばにいると思っている。
 
靴の10年は人間の年齢に換算するとどうだろうか。雨にも風にも負けないタフな靴の1年は人間の何年分?僕が最初に手に入れたNAOTはサイドゴアのEIGER(アイガー)で、気づけばもうすぐ10年選手だ。僕の足に馴染んでちょっとボテっとしたシルエットになった姿は、バッファローレザーの色味も相俟って香箱を組んだポチを思い出させる。ポチは玄関にこの靴があるときまって匂いを嗅いでいた。マイファーストNAOT、僕にとってこれが一番思い入れのある靴。いろんなところへ行ったし、まだ行ったことのない場所にだって連れていってほしい。お互い良い歳の取り方をしよう。

 
 



EIGER Buffalo Leather
 
 
 


 
 

 
 
 
 

 
 
 
 
 


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