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2020.05.30

フルーツポンチ・村上健志の旅短歌 #8


 
お笑いコンビのフルーツポンチ・村上健志さんによる、短歌とエッセイの連載。
 
五・七・五・七・七 の決まったリズムの中で、ひとつの場面や風景を、まるで手に取れるようにくっきりと描くことができる「短歌」。
 
たまの遠出の風景を、あるいは日々の生活に潜むちょっとした冒険や発見を、村上さんの言葉で「旅短歌」として切り取っていただきます。
 
今まで気がつかなかったような些細なことも、不思議と面白おかしく美しく見えてくる…そんな言葉の連載を毎月お届け。
 
第八回は、すやすやとした鼻、それを眺めるいとおしい瞬間、の話。
休日、昼下がりのリビングで…どうぞ。
 
 


 
 
 

 


「お昼ごはん食べ終わったら、映画観ようよ。」と君が言う。「いいね。でもちゃんと歯を磨いてからね。」と僕が言うと「わかってますー。」と君は口を尖らせる。何の映画を観るか迷った挙句、結局君が提案した映画を観ることになった。コーラをグラスに注ぎ、ポップコーンはなかったけどポテトチップスがあったので「イェイ」と二人で声に出して喜ぶ。カーテンを閉め部屋を暗くする。君はソファーの上、僕はカーペットに直接座り映画を見始める。
 
君が後ろから僕の肩をトントンと叩く。ポテチをくれの合図だ。僕はテレビ画面からは目を離さずに左手に持ったポテチを袋ごとノールックで後ろに座っている君に近づける。
 
映画が終わり。「よかったねー」と後ろを振り向くと君はすやすやと眠っている。
 
昼寝している姿は実に平和的だなと思う。夜に寝ている姿よりも無防備で幼くて愛おしく感じる。生まれ変わったら、そよ風になって昼寝する君に吹くのも悪くない。実に良い眺めだ。
 
実につまみたくなる鼻を放り出して昼寝をしている。
 
すやすやの大元はあの鼻だろう。あの鼻をパン屋に並べたら真っ先に売り切れそうだ。
もしつまんだら、起こしてしまうかもしれない。そうしたら、もうこの眺めは見れなくなってしまう。怒られるかもしれない。でもつまみたい欲求が止まらない。しかもトングを使って。想像しただけでワクワクしてきた。トングで鼻をつままれながら寝ている君。こんな日が来るんじゃないかと思ってシリコン製のトングを買っといて良かった。金属なら傷つけてしまったかもしれない。よし、つまもう。
 
目を覚まし「何でトング持ってんの?」と聞く君に「映画終わっちゃったよ。」と質問とは違う答えを言う。「えー。」「寝ちゃったとこからもう一回観ようよ。」「ヒロインが街を出ていくとこまでは観てた。」「結構序盤に寝てるね。」「ポテチは?」「もうない。」「買いに行かない?」「良いよ。」
 
僕たちは、同じ靴屋で買ったサンダルを履いてコンビニに向かう。「可愛いサンダルを履くとコンビニまでの道もデート気分だね。」「そうだね。」「そういえば。さっきのトング、、、」
 
そんな妄想をしていたらすっかり夕方になってしまっていた。「夕飯どうしようか?」と一応声を出してみる。もちろん返答はない。トングがリビングに転がっていた。
 
 
 


(撮影:村上健志)
 
 
 


 

Instagram: @mura_kami_kenji Twitter:@fpmurakami


 

 

★ソファと床に段違いに座る類の幸せ、ありますよね。
次回は6月28日(日)公開予定。


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