リトルストーリー
2020.06.02

[ねこコラム]#1 山田稔明 猫の履歴書、靴の履歴書 – 後編-


 
 

月に1度お届けしている「ねことくつ」にまつわるコラム。
 
ねこも、くつも、一緒にいる時間が長くなるほど、お互い馴染んで、いつの間にか相棒のような存在になっていくもの。
 
第一回は、シンガーソングライターの山田稔明さん。
これまで暮らしてきたねこ達のことを、歌や本にのせて届けている山田さん。
NAOTでは、毎年恒例の東京ライブやコラムの寄稿など、たくさんお世話になっています。
 
今回でいよいよ最終回、後編をお届けいたします。

 
 


 
 
 


猫の履歴書、靴の履歴書 -後編-
 
我が家にはチミママと名付けた通い猫が毎日ご飯を食べにやってくる。ポチ実を保護して飼い始めた秋に出会ったからもう6年にもなる。その名が示すようにチミママはポチ実の母猫、「それは私の娘」という眼差しで庭先にやってきた。ご近所界隈では有名な野良猫だった。何年にも渡って仔猫を産み、その一匹がポチ実だったわけだ。その翌年にも妊娠し、子供を増やしたのだけど、保護猫活動をしているNPO団体の方にお願いしてチミママを子ごと捕獲してもらった。仔猫たちは飼い主が見つかり幸せな飼い猫に、チミママは不妊手術を受けてもといた場所に解き放たれた(Trap=捕獲、Neuter=不妊手術、Return=元の場所に戻す、の頭文字をとってTNRという、野良猫が増えないための重要な施策)。晴れてチミママは「地域猫」と呼ばれる身になり、僕も堂々とご飯をあげられるようになったのだ。
 
野良猫の平均寿命が3年から5年だということを考えると、チミママはいきいきとそのハードルを飛び越えて美しい姿を毎日見せてくれる。野良の野性はなかなかなくならず、決して触らせてはくれないし、「シャー!」と険しい表情がお決まりの挨拶だが、ここ数年は一定の距離をとりつつも悪くない人間関係(人猫関係)が育まれている。ソーシャル・ディスタンスが重要な昨今、僕とチミママもベタベタしすぎないほうがいいみたい。猫同士の親子の認識というのは半年も経つとなくなってしまうというのが定説だけれど、窓ごしに交わされるママンとポチ実の熱視線を眺めていると心のどこかでは分かり合えているのかもしれないとも感じたりする。塀の上を駆けて、梅の木をつたって現れ、空腹を満たしたらまたひょいっと屋根の上へ飛び上がってどこかへ消えていくチミママの姿はとても美しく、僕もポチ実も背伸びをしてその姿が消えるまで毎日見送る。チミママにとってこれから到来する夏が一番タフな季節。毎年蚊に刺されて耳が真っ赤に腫れ上がってとてもかゆそうでかわいそうになる。今年は蚊が出てくるよりも早く滴下式の蚊除け薬をチミママの首の後ろに垂らすことができたから、その効果に期待している。我が家がチミママにとってずっとお気に入りの定食屋みたいになったらいい。こちらは年中無休で営業しているからね。
 
チミママのクールな美しさと荒々しさは、少し尖ったオシャレをしたパンクロックスターを想起させる。そういう輩はだいたい決まってドクターマーチンの編み上げブーツを履いているから、僕も憧れて何度か試し履きしてみたけれど、なんだか身の丈に合ってない気がして、気恥ずかしくてしっくりこない。そんなときにNAOTのODINに足を突っ込んでキュッとジップアップすると、少し背筋が伸びたりして、歩き方もちょっと変わるから不思議。
 
13年を共に暮らした先代猫ポチ、今一緒に暮らしている愛猫ポチ実、と綴ってきた「猫の履歴書、靴の履歴書」も今回の通い猫チミママの話でひとまず最終回。東京で猫と暮らし始めた27歳から現在まで20年近い自分史を振り返って、いかに猫という美しい生き物が僕に影響を与え、日々の風景を色鮮やかなものにしてくれたかを再確認する良い機会になった。人間には、猫と暮らす人生と猫と暮らさない人生のふたつがある。その前者を選んだことで今僕はここにいる。世界中の猫が幸せでありますように。

 
 


ODIN Matt Black

 
 
 


 
 

 
 

 
 
 

 
 
-次回ねこコラム#2は、7月公開予定-


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