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フルーツポンチ・村上健志の旅短歌 #12


 
お笑いコンビのフルーツポンチ・村上健志さんによる、短歌とエッセイの連載。
 
五・七・五・七・七 の決まったリズムのなかで、ひとつの場面や心情までも、くっきりと描いてくれる「短歌」。
たまの遠出の風景を、あるいは日々に潜むちょっとした冒険や発見を、村上さんに「旅短歌」として切り取っていただきます。
 
1年にわたってお届けしてきた連載。この回で、「旅短歌」としては最終回となります。
せつない記憶の、第12回。
噛み締めて、どうぞ。

 


 




「チョコレートがあるから大丈夫」が口癖で、冷蔵庫にはいつもチョコレートが冷やしてあった。
 
「焼きしいたけは冷えるのが早いから気をつけて。」と出された焼きしいたけを急いで口に運びハフハフさせていた。「きっと、しいたけは裏側にひだひだがあるから表面積の関係で、、、」と宇宙の真理に近づいている様な真剣な顔をしていた。
 
「もし足りなかった時のことを考えると怖過ぎる」と、いつも多めにパスタを茹でていた。「食べ過ぎた」とお腹をさすっていた。あなたのダイエット宣言を何度聞いた事だろうか。
 
ソファーに座る時はいつも体育座りやあぐらをかいていて、その姿はまるで海辺に座っているみたいだった。大して広くもない部屋なのにどこかを眺めている様な目をしている人だった。僕に絵の才能があったらあの姿を大きなキャンパスに描いて『世界は君と君以外でできている。』というタイトルをつけたかもしれない。
 
目の大きさも瞳の色素の薄さも睫毛の長さも思い出せないけれど、眺める様な美しい目をしていた事は覚えている。
 
そんなあなたの目に僕が映らなくなってどれくらいが経っただろう?
 
あなたの綺麗な目から涙を流させてしまう様な大馬鹿者はもういないだろうか?
 
あなたにはチョコレートがあるから大丈夫だろう。きっと。
 
 
 



△撮影:村上健志
 
 


 

Instagram: @mura_kami_kenji Twitter:@fpmurakami


 

 

★君も、君以外も、きっと旅の途中。
 
 
「旅短歌」シリーズ、ありがとうございました!
日常に見えていた、玄関に、食卓に、旅をみつけた1年間。
次回からは、リニューアル!
どうぞお楽しみに。


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