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2020.11.01

#3 森田三和 捨ててしまった靴 – 中編 –

 
 

月に1度お届けしている「ねことくつ」にまつわるコラム。
 
ねこも、くつも、一緒にいる時間が長くなるほど、お互い馴染んで、いつの間にか相棒のような存在になっていくもの。
 
奈良を代表するパン屋さん「MIA’S BREAD」の森田三和さん。
美味しくてしあわせな気持ちになるパン。
NAOT NARA店の近くにあり、私たちも大好きなパン屋さんです!
 
今回は中編をお届けいたします。


 
 


 
 
 


捨ててしまった靴
 


にゃぁちゃん(男の子)はすぐに家族の一員になり、パンを作り始める深夜2時にはパトロールに出かけ、パンが焼き上がってからこっそりご飯を食べてまた出かける。そしてすっかりパンが売れてからお家の中に入ってくると言う、完全に「わかっている猫」だった。手のひらに乗るくらいの猫だったのにのびのびと大きくなって、8キロにまで大きくなった。私のサボIRISは毎日活躍し、白を買い足した。そのうち旦那さんが毎年お誕生日にNAOTの靴を贈ってくれるようになった。たとえプレゼントでも気に入らなかったら顔に出てしまう私が確実に喜ぶものだと思ったらしい。さすが長年一緒にいるとわかってくれるようになるんだな。
 
なのに数年後、私たちはあっけなく離婚をした。あまりにも忙しい日々の先に崖が来るのがわかっていたからだ。旦那さんのお家だったけど、旦那さんは先に出ていき、私は子供たちと猫と一緒に住める家と、オーブンとキッチンが収まる店舗を探した。期限ギリギリに見つかってクレーン車も来て大掛かりな引越しをすることになった。大学生だった子供たちは黙ってついて来てくれたけれど、一番心配なのは外暮らしも楽しんでいたにゃぁちゃんのことだった。徐々に荷物を運び、息子だけが先に引越し先に住み出した。最終日、猫と私と娘が移動する日。心のけじめに旦那さんからプレゼントされた赤のIRISを捨ててしまった。中でも一番履き込んでいた赤い靴。ところどころがピンクになっていて、穴も開いていた。どうしようもなく自分が悔しくて好きなものを捨てることでけじめをつけようとしたのだろうか・・
 
決断するとき、100%なんてありえない。ギリギリのところで選んで歩いていく。いいところも悪いところもありながら、潮の流れが押し寄せてくるように流されていくものだ。
 
小さな家の靴箱には3人分の靴は入りきらず、各自2足は玄関に並べて置くスタイルになった。朝どっちの靴を履こうかな?と選ぶのも楽しみだ。無事に一緒について来てくれたにゃぁちゃんはさすが「わかっている猫」なだけに新しい家に馴染んでくれた。「でも外には行けないよ。ここはいっぱい車が通るし、新参者の猫はいじめられるし」と言いながら彼を抱きしめた。そして彼は毎日窓から外を眺めて過ごしていた。その頃から猫エイズが発症して体調が悪くなり大きなにゃあちゃんはどんどん小さくなって行った。もういつ死んでもおかしくないとお医者さんに言われてからも一ヶ月もの間しんどいのに私や娘が帰宅したら毎日欠かさず玄関まで迎えに来てくれていた。ある晴れた春の日。帰宅したら玄関で息を引き取っていた。
 
その横には選ばなかった方の靴があった。
 
にゃぁちゃんが天国に逝った4月に生まれたギータがやって来たのは6月。
保護された時、一番小さかったと言う小さな黒猫だった。

 
 



IRIS White / IRIS Walnut
 
 
 


 
 

 
 
 

 
 
-次回後編は、12月公開予定-

 


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