お笑いコンビのフルーツポンチ・村上健志さんによる、短歌とエッセイの連載。
「短歌」は五・七・五・七・七 の決まったリズムのなかで、ひとつの場面や心情までも、くっきりと描いてくれます。
今まで気がつかなかったような些細なことも、不思議と面白おかしく美しく見えてくる…そんな言葉たちを、「靴」をテーマにお届けします。
第3回。誰にも気づかれなくても、その日は無敵だ。
「好きな人の前だからってカッコつけんな」という人がいるが、「好きな人の前だからカッコつけんだろう!」と言ってやりたい。
カッコつける事がカッコ悪いと分かっていても、靴下にまで気を配り街なかで鏡の前や鏡代わりになる自分を映す全ての前を通る度に前髪を直し、何て読むのか分からないウイスキーを頼み宇宙の話をしてしまう。
新しい靴下。三足千円のいつものではなく、少しだけ良い靴下。汚れや緩みのない靴下。とっておきの靴下が僕にはある。デートの時、オーディション、とても天気が良くて目的もなく外を歩きたくなった時、新しい靴を履く時、奮発して買ったコートを着る時、オシャレな人が靴下にまで気を使っているのを目の当たりにした次の日、一年の幸せを祈る、日々の感謝のために参拝する時、新しい靴下を履く。
新しい靴下を履いている日はなんだか気分が良い。自信というのか少し背筋が伸びる様な感覚を覚える。大袈裟に言えば翼を手に入れた様な、色々と上手くいきそうな晴れやかな気分で一日が始まる。イントロを聞いただけで、もう元を取った様な気になれる最高のイントロの曲を聞いた時のあれだ。
もちろん新しい靴下を履いたのにうまくいかない日もある。けれど新しい靴下を履いて翼を手に入れた様な気分のあの晴れ晴れしさがあったのだから、もうその一日の元は取った様なものだ。今年はどんな日に新しい靴下を履くのだろう。希望に満ち溢れた気分で一日を始めるために新しい靴下を履きたい。
△撮影:村上健志
Instagram: @mura_kami_kenji Twitter:@fpmurakami
★初めよければ、すべてよし!
次回は、2月21日(日)公開予定。
どうぞお楽しみに。