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フルーツポンチ・村上健志の靴短歌 #5


 
お笑いコンビのフルーツポンチ・村上健志さんによる、短歌とエッセイの連載。
 
「短歌」は五・七・五・七・七 の決まったリズムのなかで、ひとつの場面や心情までも、くっきりと描いてくれます。
 
今まで気がつかなかったような些細なことも、不思議と面白おかしく美しく見えてくる…そんな言葉たちを、「靴」をテーマにお届けします。

 
第5回。目を閉じたら、もうそうとしか聞こえない不思議。

 


 




好きな音がある。パソコンのdeleteキーを連打する時の音。どのキーを押しても音は変わらないだろうが、それなり時間をかけて打った文字を消す時の爽快感がたまらない。せっかくの文章を消し妥協せずにもっと良いものを生み出そうとしている自分が誇らしいからのか、砂山を崩すように壊すこと自体に気持ち良さを感じているのか分からないが気分が良くなる。長押しではなく一文字づつ消す感じが好きだ。あの音が卵をかき混ぜている音に似ていると思ってからもっと好きになった。deleteキーを連打する度に喫茶店のマスターがオムレツを作る姿が目に浮かぶ。というのは言い過ぎかもしれない。
 
他にも、書店員さんがブックカバーに折り目をつける時の音。イカバターの仕上げに鉄板に醤油を垂らした時の音。缶ぽっくりを手に持ち馬の走る音を再現したパカラパカラという音。本来の遊び方をそっちのけで毎回「おー馬だ」と嬉しくなる。静まり返った住宅街の坂道を歩いていて聞こえてくる自分の靴音。夜の坂に靴音が含まれていくのを聞いていると主人公になった気分になり遠目で誰かこの姿を撮影しといてくれないかと思う。女性と歩いている時に二人の無言を埋める靴音も好きだ。なんで好きなのかと聞かれたら好きだからとしか言いようがない。
 
僕はきゅうりが好きなのだが、それを言うと「きゅうりって栄養ないらしいよ。」と言ってくる人がいる。「ん?」なんでこんなことを言われるのだろう?「別に栄養のために食べてないんですけどー」と言いたくなる。きゅうり批判をしてご満悦そうに飲んでいるそのお酒は体に良いのだろうか?
 
まあ僕が好きなものを誰かに納得してもらう必要もない。好きなんだから仕方がない。良い音がするという理由で靴を選んだって良い。靴は楽器。これは言い過ぎたかもしれない。



△撮影:村上健志
 
 


 


Instagram: @mura_kami_kenji Twitter:@fpmurakami


 

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★きゅうりをかじる音も、いいよなあ。
次回は、4月18日(日)公開予定。
どうぞお楽しみに。
 


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