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フルーツポンチ・村上健志の靴短歌 #6

 
お笑いコンビのフルーツポンチ・村上健志さんによる、短歌とエッセイの連載。
 
「短歌」は五・七・五・七・七 の決まったリズムのなかで、ひとつの場面や心情までも、くっきりと描いてくれます。
 
今まで気がつかなかったような些細なことも、不思議と面白おかしく美しく見えてくる…そんな言葉たちを、「靴」をテーマにお届けします。

 
第6回。その夜、玄関にコロンと脱ぎ置かれたスニーカーのこと、思い浮かべながら。

 


 




瞬間移動が使えたら。スーパーの袋を持ちかえ右手についた紐の跡を見つめながら思う。仕事帰りに卵と豆乳を買うつもりでスーパーに寄った。しかし、鶏肉とキャベツが特売で新商品のカップ麺を見つけてしまって、今日は飲まないでおこうと思ったのにビールが飲みたくなってといつの間にかカゴはいっぱいになっていた。重い。なんで俺だけこんな目に遭うんだと自分のせいなのに怒りが込み上げる。一生で瞬間移動が使えるのが10回だとしてもここで使っていただろう。
 
重い袋を提げ、家までの通り道の公園を歩く。街灯に照らされ緑色の夜の公園。子供達の姿はない。順番待ちのなくなったブランコは告白のチャンスを伺う若者に椅子代わりとして使われている。ふと下に目をやると地面に線がある。子供達がかけっこをするために引いたのだろうか。ゴールは数メートル先の赤いチューリップかもしれない。踵を地面に押し付けながら引いたスタートライン。家の玄関で、靴に残った土はただの汚れになってしまっているだろう。
 
「はじまりはいつも過去」なんだか良さそうな言葉を思いつきスマホにメモする。瞬間移動が使えなくて良かった。公園に残ったスタートラインに足を合わせ気合を入れ直し、スーパーの袋を持ちかえる。「ったく、子供に負けてられっかよ。大人だっていつだってスタートできるんだぜ」とは、大人なので口には出さない。
 
翌日、「はじまりはいつも過去」というメモを読み返す。「ん?どういうこと?ぽいけど、、何が?」と我ながら意味がわからない。その言葉が思いついた時に瞬間移動がしたくなった。



△撮影:村上健志
 
 


 


Instagram: @mura_kami_kenji Twitter:@fpmurakami


 

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★おとなの靴も、スタートラインは引けるのだ。
次回は、5月21日(日)公開予定。
どうぞお楽しみに。
 

 
 


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