ただいまNAOT NARAでは紙版画作家の坂本千明さんによる作品展が開催中です。
約3年ぶりとなる今回の作品展では坂本さんが手がけた絵本『ぼくはいしころ』と詩画集『退屈をあげる』二作品の原画をご覧いただけます。
思わず見入ってしまうような表情豊かな猫たち。
繊細で温かな作品からは、猫のぬくもりまで伝わってくるようです。
今回はそれぞれの作品に対する坂本さんの思いや制作のこと、
そして変わりゆく世の中での日々の生活のことまで、たくさんお話を伺いました!
ーー 今回は二作品同時の作品展ということですが、どういう経緯でお受けくださったんですか?
これまで、それぞれの作品で原画展はやっているんですけど、二作品同時となるとやっぱりスペースが必要なんですよね。
もともとは去年の今頃、一つの作品の展示会のお話をNAOTさんからいただいていたんですけど、コロナで延期になって。
そうこうしている間に『ぼくはいしころ』が発売されたんです。
それで、あ、NAOTさん広いなと思って(笑)
今回、せっかくだったらと、二作品での展示をご提案させていただいたんですよね。
ーー なんて贅沢なお誘い…!と、本当に嬉しい限りでした。
いえいえ、こちらもありがたい限りで。
他の関西圏でも、一作品ずつの原画展はやっていたんですけど、そもそもこれまで関西圏ではあまり展示の機会がなかったので。
▷『ぼくはいしころ』
▷『退屈をあげる』
ーー 比べてみると二作品ともすごく雰囲気が違いますよね。
「退屈をあげる」を制作していたときは、まだカラーの版画には挑戦していない時期なんです。
版画を始めて間もない頃、三、四年くらいのタイミングなので、ものすごく単純な話でいうと技術がまだまだで。
ーなるほど…!技術面の違いも大きいんですね。
その後、何年か版画を続けて「ぼくはいしころ」を作る頃には、「多色刷り」をするようになったんですね。
単純に作業行程の違いもあるんですけど、あとは、何年か分の技術の違いっていうのもあると思います。
まあ、当時はモノクロで作りたいっていうのももちろんあったんですけど、『退屈をあげる』みたいな版画はもう刷れないですね。
ーー それはどうしてですか?
ちょっと勉強というか、経験を積んでしまったので。
なんでもそうだと思いますが、勉強して知識や技術を身につけちゃったらその前に戻るのってなかなか難しいじゃないですか。
ーー 確かに…!そうですね。
技術を身につけると、下手なことをするのってさらにものすごい技術が必要で。
だからやっぱりあの頃にしか刷れないものなんですよね。
今見ると稚拙だなって思ったりもするんですけど、こんな風に刷れてたんだなあって羨ましい気持ちもあって。
初期の荒い感じとか、何にもわからないけど衝動のままに作ってる感じがいいですよね。
やっぱりそのときにしか刷れないものですから。
ーー どちらの作品も坂本さんの実体験が元になっているんですか?
そうですね。
どちらも野良猫が人と出会うお話なんですけど、根本的には、野良猫はできることなら安全な場所にいてほしいっていう気持ちが常にあるんです。
『退屈をあげる』のときは人が保護することで、猫の自由とかを奪ってしまったんじゃないかって
そういう葛藤とかもありつつ作ってるんですけど、でもそれでいいんじゃないかなという最後にはなっていて。
ーー 「ぼくはいしころ」ではどうですか?
その思いがもう一段階強くなっている感じですね。
家に猫を迎え入れることがいいことなのかどうなのかっていうところがちょっと吹っ切れている感じ。
私はこう思いますっていうのがでているのかな。
そういった意味ではどちらの作品も繋がっているのかも。
ーー 前回の展示から3年半経つわけですが、当時からなにか変わったなと思うことはありますか?
もちろんコロナとかで生活は変わってるんですけど、どうだろう。
絵本ひとつ作るにしても、やりとりがリモートだったりとか、大事な原画を直接持参できないとか。
仕事ではそういう変化はありますね。
あと、一日二食になりました(笑)
ーー 一日二食ですか…!
それは、コロナがはじまるちょっと前くらいからはじめていたことなんですけど。
まあ、大きな変化ですよね。
何十年と三食で過ごしてきたわけなので(笑)
ーー それはまたどういった理由で?
コロナの少し前、個展のために作品をとにかくいっぱい作らないといけない時があったんですね。
お昼ご飯を食べている時間を削ったら一日2枚しか刷れなかったものが、3枚刷れるようになったんですよ!それは、まあ後づけなんですけど。
でも、単純に私のような生活で三食いるかな?ってふと思ったんですよ。
こんなじっと机に座って、ずっとものを描いたりかなんかしてる生活に、三食もいる?って(笑)
ーー 何気ないながらとても大きな問いですね…!
実際に昼を抜いて作業を朝9時から日没までやっていたんですけど、本当に作業効率が上がって!
お昼ご飯作って、食べて、片付けてっていう時間を制作にあてたらものすごいはかどったんですよ…!
かつ、お腹がめちゃくちゃ減るじゃないですか。だから、ものすごく晩御飯がおいしいです(笑)
ーー すごくいいですね(笑)
今、大変満足してます。
▷前回の展示会の様子
ーー 坂本さんはIRISをご愛用いただいていますよね。
そうですね。サボしか持ってないんですけど、履いています。
▷前回の展示会でも素敵に履いてくださっていました…!
ーー でも今みたいな時期はNAOTの靴もちょっと出番が少なくなりましたか?
いえいえ!履いてはいるんですよ!
近所に買い物とかは完全にサボですね。
ーー 本当ですか!うれしいです!
あと、蔵前のお店に修理に持って行こうと思ってはいるんですけど、なかなかいけなくて…。
でも、もう流石にボロボロだから行かなきゃと思ってて(笑)
ーー 今でどのくらい履いてくださってるんですか?
五年とかかな?全然お手入れしてなくてかなりやばいんですけど(笑)
でもたまに磨いたりしてますよ。ホントにたまーにしかしませんけど。
あと、修理に持っていったついでにまた何か買おうと思っているんですけど、なかなか行けなくて。
ーー また、良きタイミングでお店にもお越しいただけたらうれしいです!
七月に友達が蔵前で個展をやるので、その時に!って考えてます。
ーー ぜひ!お待ちしています!NAOTの靴が坂本さんの生活を陰ながらサポートできているようでうれしかったです。
それは、本当に。だいぶ支えてもらってます(笑)
▷5年近く履いてくださっている坂本さんのIRIS。とっても素敵な風合いです…!
ーー 最後になりますが、今回の展示で皆さんにメッセージなどございましたら!
いろんな立場の人たちや自分の知ってる人に置き換えたりとか、猫が自分だったり、反対に人が猫だったりっていう風に何かと置き換えてみることができる作品だとたまにご感想をいただきます。
なので、自由に受け取ってもらいたいですね。
本を手にとってくださる方にはどんな風に受け取ってもらってもいいので、なにかしら引っかかってくれたらうれしいですね。
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展示は6/30(水)までです。
繊細な紙版画の世界をお楽しみいただけるまたとない機会です。
みなさまのご来場をお待ちしております!
〈イベント詳細はこちら〉
’21 6/1 tue.〜6/30 wed. 坂本千明 紙版画作品展
●坂本 千明 / さかもと ちあき
イラストレーター。青森県出身。
紙版画の技法を用いて、書籍の装画などを手がける。
著書に『退屈をあげる』(青土社)、
絵本『おべんとう たべたいな』『ぼくはいしころ』(共に岩崎書店)などがある。
黒猫2匹と東京在住。
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Instagram www.instagram.com/chiakisakamoto/
▷前回の展示会でのインタビューはこちらから!