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フルーツポンチ・村上健志の靴短歌 #10

 
お笑いコンビのフルーツポンチ・村上健志さんによる、短歌とエッセイの連載。
 
「短歌」は五・七・五・七・七 の決まったリズムのなかで、ひとつの場面や心情までも、くっきりと描いてくれます。
 
今まで気がつかなかったような些細なことも、不思議と面白おかしく美しく見えてくる…そんな言葉たちを、「靴」をテーマにお届けします。

 
第10回。お店でお会いするみなさんも、じつはこんな気持ちでしょうか。

 


 




 
靴屋には試着室がない。もしかしたらある店もあるのかもしれないが、ないことが多いと思う。下着姿になることも半裸になることもないからだろう。確かに靴下を見られても恥ずかしくな い。靴下に穴が空いていたとしても好奇の目に晒されるとまではいかない。けれど視線を遮断さ れた中で試着したいと思うことがある。僕にとって恥ずかしいのは下着姿よりも、ファッション 雑誌さながらで鏡にポーズを決めている姿を見られることなのだ。試着室での僕の行動を見られたらそれはそれは恥ずかしい。直立から片足に重心を寄せてみる、片足で立ってみたり脚を交差してみる、振り向きポーズ。買うべきかどうか色々な角度から服を見定めていますという顔も早々に崩れ、口を窄めて横にずらした表情をしてみたり、しまいには遠くを見つめる表情を作り鏡から視線を外し服すら見ていない有様。ただただ新しい服を着ていることに高揚して悦っちゃってるだけなのだ。
 
靴屋には試着室がない。店員さんがそばにいる。それは優しさだと分かっている、別に僕がカッ コつけないように監視している訳ではない。カッコつけていることがバレないように片足立ちし てみたりつま先を伸ばしてみる。物足りない。だから僕は「一応、もうワンサイズ大きいの履い てみて良いですか?」とぴったしの靴を履きながら言う。店員さんが離れた。脚を組んでみる、 踵でトトンと床を鳴らす、光を蹴ってみる、店員さんが離れた一瞬の隙に試着しているだけの靴を我が物の様に扱う。店員さんが戻って来る。お借りしてすいませんの顔に戻して意味もなく小さく会釈している。
 
嗚呼、両手を思いきっり広げてぐるっと一周したい。こんな気持ちになるってことは買うしかないか。
 



△撮影:村上健志
 
 


 


Instagram: @mura_kami_kenji Twitter:@fpmurakami


 

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★格好つけてるところ、見たいな〜。
次回は、9月19日(日)公開予定。
どうぞお楽しみに。
 

 
 


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