Column

さんぽびより #甲斐みのりさん #小島ケイタニーラブさん 2/2

 
NAOT JAPANが「一緒にお散歩したい!」と思った方と、ぶらぶら街を歩きつつ、話をしつつ、目に留まったものをパシャりと写真におさめていただくこの企画。
 
なんだか素敵なあのひとは、どんな景色を見てるんだろう?
どんなことにクスッとして、どんなことを呟くんだろう?
 
第16弾では、旅、散歩、お菓子や雑貨などを題材に執筆をおこなう文筆家の甲斐みのりさんと、ミュージシャン、作家、翻訳家として多方面でご活躍されている小島ケイタニーラブさんのおふたりに、小島さんが学生時代を過ごされた早稲田の街を歩いていただきました。
 
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ーお二人とも文学部ご出身ということですが、学生の頃から文学の世界に興味があったんですか?
 
小島:僕は英文学科でした。シェイクスピアなども勉強してましたけど、最終的に日本の近代文学に流れていったってかんじですね。
 
ー英文科を選ばれたのには理由があるんですか?
 
小島:高校時代に、TM NETWORKの次に「The Smiths」っていうイギリスのバンドにハマったんですよ。ボーカルのモリッシーの書く歌詞がとにかく暗いんですけど、その歌詞に美しいメロディーが乗って最高にクールなロックに感じたんです。それで、モリッシーのような歌詞を英語で書きたくて英文学科に進んだんです。
 
甲斐:へ~~!英語で歌詞を書く…!
 
小島:で、そこで挫折だったり、いろいろあったりで、結局は日本文学にドップリドプドプに浸かることになるんです。僕が読んでいたThe Smithsの歌詞は中川五郎さんという方が翻訳されたものだったんですけど、結局彼の日本語にハマってたんだっていうことに気付いて。早稲田って古本街なので、当時は毎日のように古本を漁ってましたね。
 
ー甲斐さんの大学時代はいかがですか?
 
甲斐:私は文芸学科で映画のゼミに入ったり、映画を見るサークルに入ったり。まわりの人は映画を一日に三、四本見るんですね。その中にいると自分ってあんまり映画好きじゃないのかなって思い始めて。私はそんなに見れないなと挫折しまして…。
 
ーそうだったのですね…!
 
甲斐:それで自分の本を書きたいけど、私はなんの本が書きたいんだろうって思い悩んでた時に、本屋さんでふと手に取ったのが植草甚一さんの本だったんです。その時に、散歩と雑学って本になるんだ!って初めて知って。それから、植草さんの本の中でお名前が出てきた池波正太郎さんのエッセイとかも読んでいました。
 

 
小島:池波さん、良いですよね!
 
甲斐:私もこういうことがしたいって気が付いて、そこから散歩。街に出たら、建築にしろお菓子屋さんにしろ、自分の好きなものがたくさんあるから、こういうものを書いていこうっていうふうに見つけましたね。
 
小島:池波さんの食エッセイ、僕も好きです。
 
甲斐:私も一番影響を受けました。
 
小島:食べ物の記憶を軸にしながら、人生そのものが匂い立ってくるような文ですよね。
 

 
小島:学生の頃の行動範囲はほとんど早稲田か高田馬場だったんです。あるとき、高田馬場のBarに3人くらいで行ったことがあって。
 
甲斐:学生時代にですか?
 
小島:そう!Barなんて行ったこともないからドキドキでした。三人の中に東京の友だちがいたんですが、彼がいかにも常連っぽいかんじでその店に連れて行ってくれて(笑)そこで生まれて初めて、レーズンバターというものを食べたんですよ。
 
ーレーズンバター?
 
甲斐:バターの中にレーズンが入ってるんですよ。本当にバターです。わりと古いBarとかでありますよね。
 
小島:レーズンバターとの出会いはとにかく衝撃でしたね。浜松には存在しなかったので。もちろん探せばどこかにはあっただろうけど、高校生の生活圏にはそんなもの皆無ですからね。レーズンが入ったバターなんてものは。
 
甲斐:たしかにバターなんて普通は食べるものじゃないですよね。むしろ食べたら怒られるような…。
 
小島:そうなんですよ。それまでのバターの概念が覆されすぎて、もうどうしたらいいかわからなかったです。バターの中にレーズンがあるんだから。
 
甲斐:お通しみたいなかんじでね。
 
小島:そう、お通しみたいに澄ました顔でちょこんと置いてある。そうなのか、これが東京という場所なのか!って。上京して、最初に大人の階段を上ったなって思った瞬間がレーズンバター(笑)
 
甲斐:階段になってますねえ。
 

 

 
ー大人の階段を上った時、甲斐さんはいかがですか?
 
甲斐:初めて一人で喫茶店に入った時ですかね。喫茶店に入る勇気がなくて、扉が開けられなかったんです。頑張って初めて入ったらすごく素敵な純喫茶で!その後、そこでバイトすることになるんですけど、制服が赤いワンピースだったんですよ。
 
小島:へー!素敵な制服ですね。
 
甲斐:そのお店のマダムがブリジット・バルドーみたいなすごく素敵な人で。それから、セルジュ・ゲンスブールとかを好きになって、日本のインディーズ音楽も好きになって、渋谷系に…。
 
小島:そこで渋谷系に行くわけですね。
 
甲斐:その頃が一番音楽を聴いていたし、音楽と共に生きていましたね。自分が辛い時とか淋しい時とか、音楽を聴くことによって喜びをまた更に深くするとか、悲しみを乗り越えるとか、そういう存在でした。音楽は本当にすごいなと思います。音楽を作れるって本当にすごい!
 
小島:逆に僕は言葉だけの表現に昔からすごく憧れがあります。ポエムだったら、たとえば石に刻みつければ何百年も残るでしょ。そうやって、刻みつけていく言葉に憧れがあるのかもしれません。歌詞はメロディーに乗って流れていくものだから、常に動いている感覚があって。
 
ーたしかに、言われてみるとそうですね…!
 
小島:逆に、歌詞はエモーションを描くのには、とても親和性が高い気がします。感情がたかぶったら、例えば、wowwow(ウォウウォウ)の一言でなんとかなっちゃったりするんですよね。それは歌詞の素晴らしいところだと思っていて、言葉へと回収されない状態のまま、エモーションを表現することができる。ただ、思い返したとき、今まで僕はあまりにwowwow的なものに頼りすぎてきた気がして。だから、これからはエモーションの直接的な表現をもう少し出し惜しみしようと。派手さはなくとも、小さな彫刻刀で刻みつけるように言葉にしていけたらいいなと思っています。
 
甲斐:言葉では表現出来ないものをメロディに出せたり、メロディでしか表現出来ない気持ちを言葉でもっと強くする、表現への想いみたいなものがすごく素敵だなと思います。
 

 
ー学生時代に悩んだことはありましたか?
 
甲斐:悩みしかなかったですね。東京に行きたいっていう思いもあったけど、何をすればいいんだろうって分からなくて、毎日泣いてました。当時を知ってる人は、すごく変わったって言います。
 
ーたしかに、とっても意外です…!
 
甲斐:その頃の方が辛いものを背負ってるかんじで、今は好きなものに対して向き合ってるけど、当時はすごく背負ってたよねって。小島さんはどうでしたか?
 
小島:僕の学生時代は、基本は今と変わっていないですけど、自意識は昔の方がはるかにありましたね。すごく勘違いもしてたし、才能ひとつで何とかなるんじゃないかって思って、就職活動もしてなかったんですね。就職活動すると心が折れるって言うじゃないですか。僕はその経験がなかったので、三十代でやっと社会の厳しさを思い知り、心がボキボキに折れちゃったんですね。でもそのおかげで、今ようやくタフになったかなというかんじです。
 

 
ー学生時代に戻りたいとは思いませんか?
 
小島:戻りたくないですね。今の僕が昔の自分に説教してやりたいなとは強く思いますけど(笑)戻って青春を過ごしたいみたいのはないです。
 
甲斐:私もないですね(笑)
 
小島:僕はミュージシャンとしてそんなにブレイクしたわけでもないし、三十代の頃はいつも思い悩んでいた時期があって。「しごとのうた」はそういう時代に作りました。
 
甲斐:仕事が早く終わって、早く人に会いたいとか早くあそこに行きたいとか。次への浮き立つような気持ちが私にとって一番の幸せなんですよ。この歌にはそんな気持ちがこもってるから、なんだかすごく幸せな気持ちになります。
 
小島:わあ、ありがたいですね。僕はまさにそういう、ここじゃない何処か、別の素晴らしいところへ行くっていうかんじを曲で出したいんですよね。鬱屈した自分だから書けたのもあるだろうし、今じゃない自分に出会いたい気持ちがあったのかもしれませんね。
 
甲斐:みんなやりたいことだけをやっているわけじゃなくて。それが「しごとのうた」っていうタイトルで、仕事じゃないもっともっと愛おしいものや一人じゃない時間に向かう、そんな色々な思いがこもっていて、本当に好きなんです。曲を聴きながら足が浮いてくるんですよ。
 

 
小島:曲も文章もそうだと思うんですけど、夢中で完成までたどり着こうとしている時が一番幸せっていうか…。もちろん完成すると嬉しいんですけど、それまでの夢中な時間がすごく幸せですね。甲斐さんはありますか?夢中で書き続けているような時間。
 
甲斐:そういう時間は仕事を始めた頃の方があったような気がします。今は馴れちゃって出来るようになってきたので、仕事を始めた時の気持ちを思い出したいなって常に思っています。
 

 
小島:甲斐さんが執筆されるときは、一日どのくらい書かれるんですか?
 
甲斐:だいたい何時から何時までって決めていて。あと、夜は仕事しないと決めているので、六時くらいまでには終わらせるようにしています。
 
小島:なるほど!じゃあ生活も規則正しいかんじなんですね。散歩は夜が多いですか?
 
甲斐:夏はとくにそうですね。
 
小島:僕も夜によく散歩しています。深夜が多いですけど。
 
甲斐:深夜?真夜中ですか?
 
小島:最近、夜型になっちゃって。感覚的には甲斐さんと同じだと思うんですけど、結果的に深夜一時くらいになっちゃうんですよ。
 
甲斐:真夜中も良いですよね。まわりで人は歩いてます?
 
小島:深夜一時とかだと歩いてないですね。
 
甲斐:私も十二時くらいに歩くこともありますよ。そうすると、まわりに誰もいなくて、ここは東京なのに街には自分しかいないっていう感覚がすごく嬉しい!
 
小島:それは都会になればなるほど嬉しいかも!
 

 
ー先ほどのおふたりのお話のように、今悩みを抱えた学生もたくさんいると思います。おふたりからのメッセージがあればぜひ…!
 
小島:きっと今の学生の皆さんの方が僕らよりも真剣にいろいろなことを考えているんじゃないかな。しつこいけれど、TM NETWORKの「Self Control」の歌詞にですね、「教科書は何も教えてはくれない」というフレーズがあるんです。まさに今は、この歌詞のように、誰が言ってることが正しいのか、何が正しいのか、明日世界がどうなるか何もわからない、混迷を極めた時代と言えると思います。けれど、逆説的な言い方になってしまうけど、教科書が答えを教えてくれないからこそ、いろんなことを自発的に学んでいくことに希望があると思います。
 
ー勉強ですか…!
 
小島:学びであり、思考かな。たとえば緊急事態宣言で移動が制限される。新歓コンパも、キャンパスライフも制限される。それはストレスフルなことだろうし、想像しただけで切なくなるけれど、自由とは何かを考えるきっかけでもあると感じています。自由とは何か、権利とは何かを考える。それはとても価値のある時間だと思うんです。
 
ー逆転の思考ですね。
 
小島:僕は表現者なので、表現の自由をいっぱいに謳歌してきた身です。恩返しじゃないけれど、自分なりのやりかたで、そういうことをもっと発信していきたいし、特に皆さんたち、若い世代と一緒に考え続けていきたいなと思っています。一緒に考えましょう!
 
甲斐:それが一番心強い気がします。
 
ー甲斐さんはいかがですか?
 
甲斐:姪っ子が今大学生なんですけど、好きなものを聞いたら韓流ドラマだって言ってました。それなら、Netflixとかで見たいものを見まくれば良いと思って。好きなものに思いっきり時間を使ったら、それがいつか自分を助けてくれる。ちょっとでも好きだと思えたことに思いっきり時間をかけて欲しいと思います。
 
小島:今ってすぐに役立つものを求めがちじゃないですか。大学時代って、そうじゃないですよね。
 
甲斐:今日、小島さんの話を聞いているだけでも、大隈講堂前の階段で朝まで話してたとか、そういうのがすごく大事だったんじゃないかなって思います。
 

 
ー最後に、おふたりにとって散歩とは?
 
甲斐:今の自分にとっては、一番自由になれる時間です。仕事もない、家事もない。純粋な目で店や街を見られる。考える時もあるけど、考えない時もある。どっちの道に行っても良いし、どこを曲がっても良いし。散歩をしている時に、今自分が持っている自由を一番感じられますね。
 
小島:何者でもない自分になれる。ただの人間になれる。誰でも歩かなきゃ進まないし、みんな一緒ですよね。
 
ー「今」がうんと楽しくなるようなヒントをおふたりからたくさん教えていただきました。今日はありがとうございました!
 
 

〜おまけ〜

 
 
ー本日の収録は以上となります!
 
小島:音楽かけていいですか!
 
(TM NETWORKの曲を流し始める小島さん)
 
甲斐:エンディングみたい(笑)
 

 

△歌い始めるおふたり

 

 
△最後はスタッフも交えて全員で合唱!そして記念写真を。

 
 

左/AUDIENCE Black Madras、右/TETE Black Madras
 
 
 

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