Column

さんぽびより #西川美和さん #山本千織さん 2/2

 
NAOT JAPANが「一緒にお散歩したい!」と思った方と、ぶらぶら街を歩きつつ、話をしつつ、目に留まったものをパシャりと写真におさめていただくこの企画。
 
なんだか素敵なあのひとは、どんな景色を見てるんだろう?
どんなことにクスッとして、どんなことを呟くんだろう?
 
第20弾は、これまで数々の名作映画を生み出してきた、映画監督の西川美和さんと、撮影現場やイベントでひっぱりだこのchiobenで腕をふるう料理人の山本 千織さんのおふたりに、代々木上原を歩いていただきました。
それぞれの世界で輝くおふたり、どんなお話が聞けるのでしょうか。
 
▷前編はこちら
 


 

 
 

Instagram: @chiobenfc
 


 
 

 
ー学生の頃、何か部活動などされていましたか?
 
西川:小学校の時にバレーボール、中学、高校時代はバスケットボール部にいました。万年補欠で、全く活躍しませんでしたが…。
 
山本:あ、私も中学生の時はバスケ部に所属していて。それ以外はまあ…漫画にはまっていました。当時は長万部にいて。
 
西川:長万部。北海道ですね。寒いでしょう?当たり前だけど。
 
山本:長万部ね、寒いです。今後はないかな、北海道で暮らすのは(笑)
 

 

 
西川:北海道内でも地域によって気候が違いますよね?
 
山本:全然違うんですよ。北海道出身ならスケート滑れるでしょうとか、スキーは絶対できるんでしょうみたいなことを思っている人は道外の人なんです。旭川には大雪山という山があってそこに雪雲がぶつかるので、長万部のある道東の方は雪が全然降らないんですよ。だから、長万部ではスキーはできないですけどスケートができますね。西川さんのご出身は?
 
西川:私はね、広島なんですよ。
 
山本:広島!いいですね!
 
ー広島ではあまり雪は降らないですよね?
 

 
西川:と、思うでしょ?実は県内にスキー場があるんですよ。中国山脈に北からの風がぶつかって山沿いには降るんです。東京よりも積雪量はあるし、県北に行けばスキー場もあって。なんでもあるんです。山もある、海もある。でも子供のころは自分の生まれたところから出たくてしょうがなくてね。
 
山本:田舎だったからですか?
 
西川:田舎ではないんですけど、都会でもないです。子供のころは身の周りのものの良さをなかなか素直に受け止められないから…。最近になってようやく、ああいうところはいいな、と思いますね。
 
山本:広島が舞台の映画はあるんですか?
 

 
西川:ないんです。
 
山本:ないんですか!?え、『ゆれる』も?
 
西川:広島ではないですね。あんまり自分に近い地域は選ばないんですよ。
 
山本:舞台が二回続けて地方だったじゃないですか。
 
西川:『ディア・ドクター』も地方が舞台ですね。
 
山本:うんうん。なので、地方だと「あっご出身の地域がモチーフなのかな」と思っていました。違うんですね。
 
ー実は、私もよく西川さんが監督をされている映画を観させていただいていて。撮影の際、ワンシーンにどのくらい時間をかけられますか?
 
西川:すごく粘るとかは滅多にないですね。標準的でしょうか。全てファーストテイクということはもちろんないんですけど。多くても撮り直しは5~6回かな。水滴を狙っている時とか、虫が飛び立つ瞬間とかを狙っている時は粘りますけど。でも、平均3~4回ですかね。
 

 
西川:何十テイクも粘るのが普通、という監督もいるし、俳優だって、だんだんギアを上げていくタイプだからもっとやりたい、という人もいる。「いいのか悪いのか分からなくなった時に演技の真髄が出る」だとか、カリスマ的な巨匠の監督が「何が悪い」とは言わず、ただ「もう一回」と仰って何十回も撮りなおした、という逸話も、昔は結構随所でありましたからね。
 
ーそんな逸話が。
 
西川:私は元々自分自身の演出に大して確信がないし、そういう緊張感に自分自身が耐えられないんですけど、そこはでも、演出家によって実に様々。私だって、厳しい天候や気温の中で、スタッフや俳優に何度もやり直してもらう場合だってありますしね。人にいろんな無理や苦労を強いる仕事なんですよ。だからやっててほんとに嫌になるんですよ。

 

 
山本:すごく個人的な質問なのですが…。西川さんは、ご自身の映画の登場人物の中で好きな人っているんですか?
 
西川:私は、自分が書くキャラクターに対してものすごく手厳しいんですよ。物語の中で、表の皮をひっぺがして、いじめるんですよね。
 
山本:うん、手厳しい気がする。
 
西川:よく、「男性主人公が多い、どうして女の人を書かないんだ」って言われるんですけれど、書いている主人公自体は自分の写し鏡みたいな存在なんですよね。だけど手心を加えず、美化せずにありのままを書いていくには、自分とはやや距離のある対象の方が客観的だし甘くならないんだと思います。男の人はボロボロになっても絵になる、って思ってるのは私が女性だからでしょうけども(笑)
 
山本:あははは(笑)結構ダメなところを引き出して反省させてませんか?
 
西川:もう、罰してますよ。
 
山本:そうそう反省させてる気がする。『永い言い訳』のもっくん(俳優:本木雅弘さん)とか!
 
西川:そうですね。でも繰り返してきちゃったので、そろそろ主人公を反省させるような話はお休みしようかなと思っています。これからは違うキャラクターの書き方をしていくと思っています。
 

 
西川:唯一自分とは遠くて好きだなと思ったのは『すばらしき世界』で役所広司さんが演じてくれた役ですね。あのキャラクターは私が作ったキャラクターではなく、実在した人を元に小説家の佐木隆三さん※が書かれたんですよ。すごく好きだったので、私はあのキャラクターに対しては優しいんですよね。話の中で、ひどい目にはあっているんですけど…。
 

 
山本:うんうん、何となく分かります。
 
西川:自分から出たキャラクターに対してはそんなに…可愛いとかは思えないですね。好きだけど。
 
ーそのお言葉に、作品への愛を感じます。こだわりの中で、撮影が長時間に及ぶこともあるとのことですが…。
 
西川:そうですね。監督自らがはたらきかけて、なるべく労働の基準を守ろうとしてる現場も出てきているようです。でもやっぱり映画の現場って実に様々な部署が動いていて、誰が働き始めるのを「始業」とするのかの定義も難しいんですよ。
 
ーなるほど。
 
西川:新宿に集まって6時に出発だとすると、制作の1番若い人やドライバーさんはさらにその1時間近く前に到着してますし。そこから車でロケ場所に1時間とか1時間半かかって移動して、俳優たちがメイクして支度して、となると撮影し始めるまでにすでに3時間くらいそれぞれ労働してるんですよね。
 
山本:確かに。
 

 
西川:というので、区切りは難しいのだけど、とりあえず労働時間の基準を守るために、「お昼ご飯休憩をぬきましょう」というアイデアでやってみた現場もあったそうです。
 
山本:えっ。すごい。
 
西川:全員一緒の昼食休憩を取らずに、軽食を現場に用意しておいて、手が空いた人から食べてもらう方法は、アメリカの撮影現場などでもすでに労働時間遵守のために取られてる方法らしいんですけどね。でも向こうは「軽食」と呼びつつ温かいケータリングで、あらゆるメニューが揃ってるらしいですから、豊かなんですよ。ひきかえ低予算の日本の現場では、軽食自体の質がね、コンビニのサンドイッチとか、エネルギーチャージ食品くらいになって、そうすると、寝る時間は確保されても、今度はまた別のところで精神的にすり減ってきてしまいますよね。
 
山本:なるほど。
 
西川:早く仕事終わらせて、帰れるというのはいいことの実感が多いと思うんですよね。でもなんでしょうね。気持ちが疲れるというか。役者さんたちからもそういう声が届いたそうで。
 
ーやっぱり食事って大事なんですね。
 
西川:そう。お昼ご飯の時間なんて通常でも45分くらいしか取れないことも多いんですけど、それでもね。ちょっとでもゆっくり座って、あんまり関わらない部署の人と並んでご飯食べながら、撮影と関係ないことをおしゃべりしたり。改めて、ただ食べ物がお腹に入ればいいというわけではないんだなと思いました。
 
山本:言われますね。「お弁当だけが楽しみ」って。
 
ーそこが仕事と休みの区切りになりますし、1日のモチベーションにもつながりますよね。
 

 
ー仕事と休みの切り替えはどのようにされていますか?西川さんは、執筆中24時間考えられると伺いました。夢も題材にされますか?
 
西川:夢から着想を得た作品もあるんですけど、そうはいかないですね。でも、寝る直前まで考えている時には夢でも考えています。夢の中で浮かぶアイデアは、その場では結構面白いんですけど、起きてみたら何バカなことを考えているんだろうって思うようなものがほとんどです。でも、現実と夢が繋がっていることが大事なんですよね。途切れてしまうと、自分がその世界にもう一度没入し直すのにすごく時間がかかるんですよ。だから製作中はなるべく遊びたくないですね。
 
山本:すごい!ストイック。
 
西川:いやいや全然!他の作家さんたちは書く時間を1日何時間と決めてお仕事をされるそうなんです。でもそんなこと私は絶対に出来ないんですよね。なので、製作の間は作品のことを考え続けているんですけど、出来上がったらもう遊びほうけてます。
 
ー書き上がったら切り替えて、リフレッシュされるんですね。
 

 
西川:そうですね。観たかった映画を観たり、仕事と関係のない本とかを読みます。そういうのってすごく楽しいですよね。でも、例えば本を読んでいて、ちょっといいなと思う部分があったら、「これは自分の作品のアイデアやネタになるんじゃないか」みたいなよこしまな考えがよぎるのが嫌なんですよね~。
 
山本:分かります、嫌ですよね。
 
西川:何でも仕事にひっつけようとするから。なので、一番仕事と関係なく楽しめるのはスポーツ観戦です。
 

 
山本:お〜。感動しますか?
 
西川:感動しますよ、もちろん。だけど、そんなに後には引かないですね。仕事に取り入れづらいので。
 
ーなるほど。山本さんはいかがですか?
 
山本:私のオンとオフですか?オフの時は本当にダメになろうとしてます。何もやらないですね。部屋も汚くして(笑)
 
西川:それも受け入れる?
 
山本:受け入れます。意地でも起きないとか。でも年寄りだから早く起きちゃうんですよね(笑)
 
西川:はははは(笑)
 

 
山本:目が覚めちゃうからどうしても布団でだらだらはできないんですよね。なので、ソファにごろっとしてる。
 
西川:へー!何か観たり聴いたりされるんですか?
 
山本:観ます。ドラマもすごい観るし、配信系も常にかけています。ただ、何かしながら観ているので、全然興味がないドラマをずっと流しっぱなしにしてしまうこともありますね。なので、みんなが映画を観に行った話とかを聞くとすごく焦るんですよ。そんなにちゃんとした時間の使い方してるの?って。
 
西川:そういう方、ちゃんと休んでるのかなって思いますよね。結局頭を働かせてるじゃないかって。どうでもいいものってけっこう大事だと思います。
 
山本:そう言ってもらえて良かった~。
 

 
ー山本さんがchiobenを続けられる上で、大切にされていることはありますか?
 
山本:そうですね…。私はヤなやつと働かないようにしようねっていうのが一番の目標で(笑)インタビューで何か聞かれても、そういう風にお答えしています。
 
西川:でも、それが全てかもしれない。
 
山本:以前、若い子達にお話をする機会があって。「どうしたらケータリングやっていけますか」とか、「料理は調理師免許が必要ですか」とか色々質問してくれたんですけど。どれだけその仕事をやりたいなと思っていたとしても、自分の直属の上司がすごく嫌な人だったら、その仕事絶対嫌いになるから、って私は思っているんですよ。よほど高い志があれば別なんですけどね。
 

 
山本:逆に、それが大したことない仕事でも、すごく尊敬できる人にその場で巡り会うことができたならば、その仕事は絶対にやりがいを持ってできると思うんです。それが私の持論でして。なので、誰を尊敬できるかとか、そういうことを目標に生きた方が好きな仕事が見つかる気がすると思っています。未来に悩んでいる人は、好きな人といたほうが仕事が好きになれると思う。私自身が、嫌な人間関係から逃げて東京へ来た人間なので…。
 
西川:本当に「逃げる」ということは積極的な行動だと思いますけどね。
 
山本:私もそう思う。
 
西川:自分の道を明るくするための行動ですよね。なので、決してネガティブな行動ではないと思います。
 
ー逃げるというのは具体的にどのような行動のことでしょうか?
 
山本:例えば何か決断を迫られた時、嫌な人に合わせなくてはいけない場面があったとするならば、一度考えた方がいいと思うんです。「私、この人に合わせていいのかな」、「この選択は自分に合っているのかな」って。合っている場合もあると思うんです。暴言にも耐えられる、という時も。
 
西川:噛み合っちゃう人いますよね。
 
山本:そうですね。でも、それが負の連鎖を生む場合もすごく多くて。自分もされたから自分の部下にも同じことをしてしまう、みたいな。
 
西川:これが、嫌なことに似てしまうんですよね。
 
山本:そう。それが良しとされるのは、あまりいいことではないと思っていて。料理は男の社会なんですよ。どこで良いものが出るかは分からないので、一概には言えないんですけどね。でも、そこで悩んじゃったり、良いものが出来ないなら逃げてもいいなと思います。
 

 
ーその言葉に安心する人が、たくさんいると思います。
 
西川:でも逃げるという選択肢を知っていればな、というケースはものすごく多くて。もっとそういう言葉が多く聞かれるようになるといいですよね。
 
山本:私は、その場をやり過ごすということは逃げるということではないと思っているんですよね。例えば、自分の気持ちに対して圧をかけてくる人に対してこういう風に言えばその時だけやりすごせるな、という対処法だけ学んでしまうこともあると思うんです。でも、それでは本当に逃げていることにはならないと思っていて。
 

 
山本:その人と戦わないのなら、何か考えて、関わらないようにしなきゃ。そうじゃなきゃ、やられちゃうじゃないですか。だから、その方法を考えることの選択のひとつとして「逃げる」はあるべきだと思う。
 
西川:いいねえ。やり過ごして、気付いたら自分の下についた人にまた同じことを繰り返してたってのは悲しいですよ。ちゃんと逃げ方考えた方がいいですよね。
 
山本:そうだったらいいなって思います。
 
ーなんだか、うるうるとしてしまいました。きっとお二人の言葉に、勇気づけられる人がたくさんいると思います。素敵なお話、ありがとうございました!

 

 
 

左/DANIELA Chestnut、右/KEDMA Black Madras
 
 
 

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