NAOT JAPANが「一緒にお散歩したい!」と思った方と、ぶらぶら街を歩きつつ、話をしつつ、目に留まったものをパシャりと写真におさめていただくこの企画。
なんだか素敵なあのひとは、どんな景色を見てるんだろう?
どんなことにクスッとして、どんなことを呟くんだろう?
第16弾では、旅、散歩、お菓子や雑貨などを題材に執筆をおこなう文筆家の甲斐みのりさんと、ミュージシャン、作家、翻訳家として多方面でご活躍されている小島ケイタニーラブさんのおふたりに、小島さんが学生時代を過ごされた早稲田の街を歩いていただきました。
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ーNAOTの靴、可愛く履いていただけて嬉しいです。
甲斐:輝いてますねこの靴は。かわいいし、歩きやすいです。
小島:僕ね、靴には今までこれと言ってこだわりなく生きてきたんですよ。
甲斐:じゃあ、NAOTの靴でちょっと大人になったかんじ?
小島:大人の階段を上ったかんじですね。今までは、冠婚葬祭で革靴がないなあって思った時に、買ったりするぐらいだったから。
小島:甲斐さんは、この辺りはよく歩くんですか?
甲斐:都電を渡った神楽坂あたりとかよく歩きますね。この建物をわざわざ見にきたこともあります。上の階はマンションみたいですよ。
小島:へえ、マンションですか。
甲斐:不思議な建物ですよね〜。以前連載をしていた時に来たんですけど、ドラードギャラリーという建物らしいです。
小島:あ!わせ弁だ!僕、大学時代によく通ってたんです。ここは本当に安くて。
甲斐:佇まいが可愛い!
小島:「たぬき丼」っていう200円くらいのお弁当があって。ご飯を覆い尽くすように揚げ玉が乗ってて、ほとんど油を食べているかんじ(笑)それが一番安くて、おいしくて、カロリーも取れたんですよ。
甲斐:学生!ってかんじですね。
小島:もうちょっとランクが上だと唐揚げ弁当とかもあるんですよ。このお店のお弁当はどれも、僕にとって青春の味みたいになってますね。
甲斐:良いなあ、そういう話。このあたりは、雰囲気の良いお店がいっぱいありますね。
ー甲斐さんは以前から小島さんの音楽をよく聴いていらしたそうですね。
甲斐:もともと音楽がすごく好きだったんですけど、三十代に少し遠ざかってる時期があって…。このコロナ禍で一日中ずっと音楽を聴き続けていた中に小島さんの音楽がありましたね。特に、夜ウォーキングをしている時によく聴いていて。毎日歩いてると、この曲が出たらこの風景みたいなのがあるんですよね。そういうふうに、だんだん音楽と風景が日常とリンクするようになりました。
小島:いやあ、嬉しいです。僕の音楽は歩く曲が結構多いし、実際、歩くことでインスピレーションを受けることが多いんですよね。だから、もしかしたら甲斐さんと似たような景色を見ているかもしれないですね。
甲斐:歩きながらも浮かんでくることがあるんですか?
小島:ありますね。何してても浮かぶときは浮かぶんですけど。
甲斐:へ〜!何してても!
小島:でも基本的には、歩きながら口ずさめるような曲がいいなと思っていて。歩いてる歩幅に合うようなリズムで作ることが多いですね。
ー大隈講堂に到着しました。
甲斐:やっぱりこういう風景を見ると懐かしいですか?
小島:う~ん、正直そこまで激しくこみ上げる感情はないなあ(笑)、でもいろんなことを思い出しますね。あ、あそこによく座って朝まで過ごしていた記憶がある!僕、当時、今の音楽性とは全然違った、メタル音楽のサークルにいたんですけど、サークルの友達と朝までここで。そうそうそう、ちょうどこの辺り!やばい、こみ上げてきた(笑)
甲斐:座りながら歌っていたんですか?
小島:ただダベっていたように思います。学生ならではの恋バナとかしていたんだと思いますよ。多分。
甲斐:良いなあ。そういうのが良いですよね。当時はここがこんなにすごいところだって思いもしないですよね。
小島:甲斐さんは建築への、何かこだわりみたいなものはあるんですか?
甲斐:そうですね。建築の他に、パンやお菓子とかもそうなんですけど、自分にとってのアイドルみたいな存在で。自分の推しをより可愛く写真に撮ってあげたい!そういう気持ちで生きてます(笑)町中にアイドルがいるみたいで、すごく楽しいですね。
小島:一番美しく見える構図で撮ってあげたい!みたいな?
甲斐:例えば建築物を撮るときも、いかにも建築写真という構図ではなくて、もうちょっと身近になる、可愛さを感じられるような角度とかを切り取るようにしてます。
小島:素晴らしいですね!僕ね、建築は詳しくないんですけど、お城はなぜか昔からすごく好きで。お城もね、可愛く見える瞬間があるんですよ。
甲斐:お城も可愛いですよね。好きなお城とかあるんですか?
小島:それこそNAOTのお店がある愛知の犬山城とか好きですね。それから彦根城も可愛いですよね。
甲斐:可愛く見えてきますよね。
ーやっぱり可愛く見えてくるんですね(笑)
甲斐:ああ愛おしい!っていう想いが溢れ出ますね。
小島:そういえば以前、甲斐さんのインタビュー記事で、お菓子はもはや美味しくなくても好き!みたいなことを読んだ覚えがあるんですけど…。
甲斐:そうなんですよ!私は、お菓子という存在そのものを愛しているので、たとえどんな味でも生まれてきてくれてありがとうっていう気持ちになって好きなんです。自分がお店や作っている人や景色が好きだったらそれは美味しく感じられるんですね。その方が人生得だと思ってるから。
小島:それって世界との向き合い方そのもののようにも感じられますよね。
甲斐:私は小島さんの曲を聴いてると、どういう景色を見てこの言葉を紡いだのかなとか、つい想像してしまいます。
小島:僕は、歌詞の対象について、どういう角度でそれを描くのが一番可愛く見えるか、愛らしく見えるかということを意識して書いてます。だから甲斐さんのアプローチに共感するところがすごくあって。できれば誰も気付いていない良いところを見つけられたらいいなと思いますね。
ーおふたりとも普段から本当によく歩かれるんですね。
甲斐:ウォーキングするにしてもお昼と夜だと全然違うんですよ。あと、私は人の家の明かりを見るのが大好きですね。明かりだけでも人の生活が見えてくるんですよ。間接照明のかんじとかね。それから、小島さんの「しごとのうた」を聴きながら歩くのが大好きなんですけど…。
小島:ありがとうございます!あれはまさに歩きながら作った曲です。あの歌って「仕事が早く終わった」って連呼する歌ですけど、「残業中によく聴いてます」って言ってもらうことが多いですね。
小島:十五年近く前のことなんですけど、ハムとかを保管するような冷蔵倉庫の棚のネジを調整するっていう謎のアルバイトがあって。
ーなんてニッチなアルバイト…!
小島:そのアルバイトがありえないほどに早く終わって東京駅で解散になったんですけど、その時に嬉しくなって作った曲なんです。
甲斐:私はウォーキングで家を出た瞬間に聴いていますよ。少し早足で。今の暮らしに合わせて小島さんの曲があります。
小島:わあ、すごく嬉しい!
ー共通点といえば、お二人とも静岡のご出身ですよね。
甲斐:昔は、東京に憧れながら富士宮の田舎でくすぶってました。大学時代は大阪だったんですけど、なんでこんな田舎にいなくちゃいけないんだーって思ってました。
小島:じゃあ今、富士宮関連のお仕事をいろいろとされているのは、当時からすると思いもよらず?
甲斐:まったく思ってなかったです。やっぱり大人になると気持ちは変わりますね。
小島:富士宮にあるロッジについて甲斐さんが書かれた文章があって、そのロッジでは満天の星空とか神々しい富士山が手を伸ばせば届くような位置に感じられるというふうに描写されていたんです。その表現がすごく良いなあと思って。直接そこに行った人じゃないと書けないじゃないですか。直接見たものを伝えてくれているんだなっていう信頼感を感じたんですよね。
甲斐:ありがとうございます!私の家からは富士山が見えるんですけど、夏になると光が上がってくるのが見えるんですよ。人が歩いてくるのが小さな光の粒になって富士山の方へ上がっていく光景。今となっては、すごく特別なものを見ていたんだなって。富士宮を離れないと気付けなかったですね。
小島:最近思っていることがあるんですけど、水が美味しいところの人は性格がおだやかで優しいことが多いなあって。もちろん、なんの根拠もないし、僕の偏見ですよ。でも水の美味しい街に行くたびに感じるんです。
甲斐:良かった(笑)!富士宮は水道水が美味しいです。
小島:それ、羨ましいな〜。飲みに行きたいです。
ー小島さんは浜松のご出身ですよね。
甲斐:浜松は、静岡の中では一番都会ですよね。
小島:県西部では一番大きいですね。工業都市ってかんじで、僕の実家も工場に囲まれていました。特に材木工場の音がすごくて、部屋の窓ガラスを振動させるんです。その中で黙々と受験勉強していたなあ。あの頃はどれだけ静けさが欲しかったことか…。
甲斐:でもメタルに行ったんですね。
小島:矛盾してますよね。むしろ音量上がってるという(笑)。でもメタルサークルは、中身も知らずになんとなく入っちゃったんですよね。
甲斐:じゃあその頃にメタルを聴いていたっていうわけではなく?
小島:正直、全然、好きでもなかったんですよ。でもそのサークルにいた友達のことは大好きだった。それこそ、昼は一緒に「たぬき丼」買いにいって、夜は家に遊びに行って、おすすめのメタル聴かせてもらって、僕は別に好きでもないんだけど、一緒にヘドバンしたり、デス声で叫んだりして。きっと僕は、自分の知らない、新しい場所に行きたかったんだと思います。
ー浜松時代はどうだったんですか?
小島:僕は小学校の頃からずっとTM NETWORKが好きで。
甲斐:私も大好きです!「Still love her」とか。
小島:わあ!良いですよね!
甲斐:今でも聴くと泣いちゃう。武道館にライヴ行ったくらい好きですね。
小島:僕もこの前も聴いてましたよ、「Still love her」。田舎の町でTM NETWORKをずーっと聴いていて、この世界に行きたいって思ってました。
甲斐:キラキラしてますもんね。
小島:僕にとってはあれが東京なんです。wowwow(ウォウウォウ)っていうのが、TM NETWORKの歌詞でよく出てきますよね。wowwowが出てくるたびに、胸がなぜか熱くなるし、あのwowwowしたものが東京に行けばあると信じて、上京したんですね。だからwowwowへの願望が、そのまま東京のイメージと結びついているんですよ。
甲斐:へー!それは歌詞の世界ですか?それとも、小室サウンドですか?
小島:すべてですね!サウンドは当時からしたら、すごく未来的な音に感じたし、都会的なワードを散りばめた、アゲアゲなのに切ない歌詞もよかったです。
甲斐:「アスファルト タイヤを切りつけ」
小島:そうそうそう!「アスファルト タイヤを切りつけ」ってすごい歌詞ですよね。
甲斐:聴くと元気になりますよね。
小島:名曲「Self Control」とかも、冷静に読むと歌詞の意味とかもよく分からないんですよ。それでもぐっとくるんですよね。もうたまらず走り出したくなる。
甲斐:なりますなります(笑)私、仕事始めて二十年くらい経つんですけど、仲良くなれる人は必ずTM NETWORKに思い出を持っていて。実は・・・っていう扉を開けた時にTM NETWORKがいるんですよね。
左/TETE Black Madras、右/AUDIENCE Black Madras
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