NAOT JAPANが「一緒にお散歩したい!」と思った方と、ぶらぶら街を歩きつつ、話をしつつ、目に留まったものをパシャりと写真におさめていただくこの企画。
なんだか素敵なあのひとは、どんな景色を見てるんだろう?
どんなことにクスッとして、どんなことを呟くんだろう?
第20弾は、これまで数々の名作映画を生み出してきた、映画監督の西川美和さんと、撮影現場やイベントでひっぱりだこのchiobenで腕をふるう料理人の山本 千織さんのおふたりに、代々木上原を歩いていただきました。
それぞれの世界で輝くおふたり、どんなお話が聞けるのでしょうか。
Instagram: @chiobenfc
ー本日は代々木上原へやって来ました。素敵に履いていただきありがとうございます!
山本:私ね、足が大きいので靴屋のインタビューときいて、ちょっと心配だったんですよ。40サイズって何cmくらいですか?
ー大体25cmくらいですね。
西川:へえ~!私は足が小さいんですよ。22.5cmくらい。35サイズなのかな、NAOTだと。
山本:私、西川さんのこと、こんなに華奢な方だったなんて思わなくてびっくりしました。すごくしっかりされている印象からか、背の高い方なんだと思い込んでいて。
西川:そんなに印象が違うものなんですね。実際は背が小さいので、俳優さんと並んで写真を撮られるときは大体腰をかがめてくださったりするんですよね…。
ーおふたりはさんぽってされますか?
山本:さんぽ、しないです!(笑)
西川:基本は私もしないんですよね。ジョギングみたいなことはするんですけど。
ーさんぽに対するイメージを伺ってもいいですか?
山本:優雅だな〜って思います。さんぽ=プレゼントのような感じでしょうか。私はさんぽする時間と縁がないので、されている方は羨ましいなと思いますね。
西川:さんぽって目的もなく歩くことですよね。なかなか時間を作れないですよね。
山本:そうですね。あまり日常には馴染みがないです。コロナ禍の鬱憤がたまった頃に、世間では異様にウォーキング熱が高まったじゃないですか。
西川:みんな、強迫観念に駆られたかのように歩き回っていましたね。あの時は私も運動不足になったような気がして不必要に歩いていたんですけど、今はその熱も落ち着いてしまいましたね。東京に暮らしているとさんぽしなくても歩かされるんですけどね。
ー体を動かすことはお好きですか?
西川:山本さんもそうだと思うのですが、私の仕事は体が資本だと思うので最低限の運動はしています。作品を書いている時は本当に動かないので、普段から体を良い状態に保っておかないと、撮影現場に立っていざという時に怖いんです。運動することは、本当は嫌でしょうがないんですけどね(笑)
山本:私はひどいですね(笑)家に帰ると、力を取り戻すために何か食べちゃったりするんですよ。働いている間はずっと立ちっぱなしなので、短い時間で手っ取り早く体力をつけたくて、胃の限界まで食べちゃうんです。
西川:私が子どもの頃に読んだ…、『ジオジオのたんじょうび』だったかな。ぞうのコックさんが出てくる絵本があって。コックさんはすごく美味しい料理をたくさん作っているんですけど、家に帰ったらお漬物でお茶漬けを食べているんですよ。
ーそんな絵本があるんですね。
西川:それから、料理を作る人ってそういうものなんだ、って思ったのがすごく印象に残っているんです。普段手の込んだ料理を作られていても、手軽さを求められるんですか?
山本:そうですね。やっぱり、何かを取り戻すために食べているんですよ。本当は食べなきゃいいのに、と思うんですけど。
西川:結局のところ、私たちは単にお腹が減っているから食べているわけではないんでしょうね。
ーおふたりの食生活について、こだわりや気にされていることはありますか?
山本:食生活についてか。真面目な外向けのこと?(笑)
西川:私の家は祖父の代まで農家だったんですよね。なので、食卓にはいろいろお野菜が並ぶのが普通だったんです。時たま取材で海に囲まれた漁師町に行ったりすると、その土地のご馳走をいただくこともあるんですが、お魚、貝類、えび、たこ、いか、全部がとても美味しいんだけど、その中でお野菜ってお刺身の大根のつまがちょこっとあるくらいだったりする。そうするとだんだん息が苦しくなってきて、途中から大根のつまばっかりつっつくようになったりね(笑)やっぱり育った環境の食習慣って染み付いてるものだな、と実感しますね。
ーなるほど。ちなみに好きな野菜はなんですか?
西川:好きな野菜は、ネギ!
山本:ネギ!?
西川:白ネギです。
山本:ネギを一番に持ってくる人って珍しいですよね。
西川:ネギを入れるとなんでも美味しくなりませんか?焼いてもいいし、お鍋に入れてもいいし、炒めても甘くなる。
ー確かに万能ですよね。山本さんはいかがですか?
山本:私の場合、仕事場に行くと、食べるものが身近にあるじゃないですか。なので、すごくお腹が空いているということがあまりないんです。味見である程度はお腹が満たされるので。
西川:食べ歩きみたいなことはされるんですか?
山本:「勉強のために何か食べたい」っていう意味で食べ歩くことは全くないんですよね。誰かが「この店予約したよ」って言ってくれたら、「行く行く!」っていう感じ。周りの同業の方なんかは、勉強のために本当に色々なところを調べて食べに行ったりされているんですけど。
西川:山本さんは親しみが持てますね~。本当に。
山本:本当ですか?
ー山本さんがそのスタンスでいてくださるから肩の力が抜けます。
山本:あと何年かで私が病気になっていたら、みなさん「あ~なるほどね!」って思いますよ(笑)
西川:いやいや。何食べても病気になるときはなりますよ。だって、こんな話したら怒られるかもしれないけれど、今と比べると十分に栄養をとれなかった戦後に子供時代を送ったご年配の方々って、一緒に仕事してても、自分たちの世代よりはるかに体が強いしエネルギッシュだと感じることが多いですよ。そう考えると、食べられるときに食べられるものを食べたら、大丈夫なのかなって思いますよ。
ー私、実はchiobenさんのお弁当をいただいたことがあるんです。
山本:え!いつですか?
西川:ほ~。
ーNAOTで以前、モデルさんとの撮影がありまして。そのときにいただきました。
山本:あ、思い出しました。NAOTさんでご注文いただきましたよね。
西川:ちゃんと覚えていらっしゃるんですね。
山本:覚えているんですよ。いつ、どこで、ご注文いただいたか、その時のメニューが何だったかとかも、全部。もし女優さんや俳優さんが召し上がったら、そのメニューも書いて残しています。ただ、頼んでくださるのって大体の場合が制作会社さんなので、そのお名前で覚えていることがほとんどですね。何の撮影だったのか、後から知ることも多いです。
西川:へえ~。
ー注文を書き溜めていくのは、また次回オファーがあったときのためですか?
山本:そうですね。あと、場合によっては食材のNGリストが来るんですよ。「あの人が召し上がりますよ」というオーダーが入ったときに、前回、何を召し上がらないと伺ったのか調べなきゃいけない時があって。「あ、この人はこれを食べないんだな」とか、ちょっと気にしたりします。
西川:すごく細やかなお仕事ですね。
山本:ありがとうございます。そういう点で言うと、私はchiobenを営んでいて、料理を同じ人にずっと振る舞っているわけではないので、比較的楽だなと思っているんです。
山本:世の中のお母さん、お父さんたちってすごく大変だと思います。食べるのはずっと同じ人だから、決まった苦手なものとか好きなものの中で、毎日献立を変えなきゃいけない。私の仕事の場合は、私が一番得意なものの組み合わせをあらかじめ何個か組んでおいて、それを出せばいいので。
西川:確かにそうですよね。献立を考えることが一つの労働だから。日本の食卓って品数が多いですよね。
山本:多いです。それに、お弁当もそれなりの量を入れていかないと隙間が埋まらないから、毎日家族にお弁当を詰めている方々は大変だと思います。でも、子どもからしてみると、お弁当が楽しみなんですよね。
西川:そうですよね。
山本:やっぱり食べ物ってね。
西川:ポイントなんですよね、1日のね。
西川:もう梅が咲いてるんだ。綺麗ですね。いいですね、これくらいの梅が。
ーお花は好きですか?
西川:…まあ、普通です。ハハハ。いや~上手く撮れない。
ー公園に到着しましたね。ちょっと立ち寄って行きましょうか。
山本:私、実は数字が好きなんですよ。
西川:数字?
山本:数字が好きというか、今日はどのお弁当が何個あるみたいなことを整理するのがすごく好きで。テトリスみたいじゃないですか。テトリスって分かります?
西川:分かります。
山本:テトリスだと、細長い棒状のブロックが落ちてくると連鎖して消えていくじゃないですか。だから私も常に、テトリスの棒のような存在を探しているんですよ。その棒を上手く落とすために、「このメニューはこうして…ほらこんなに綺麗に落ち着いた!」みたいなことをずっとやっていて。スタッフには、「そんなギリギリを攻めるんですか?」って言われるんですけど。
西川:お弁当ってそういう面白さがあるんだ~!あの当てはめていく感じか。いいですね。
山本:そう、はめていく感じ。
西川:それって自分にしかわからない面白さなんですよね。
山本:そうそう!そうなんですよ。
西川:脚本でもそうなんですよね。どう収めていくかっていうことが重要で、すごいちっちゃいことにこだわって。
山本:脚本でもそうなんですね。お弁当販売の場合、中にはイレギュラーな注文もあって。「ご注文、3人ヴィーガンです」「お〜、ヴィーガンか~」みたいな。そいういうイレギュラーも面白いんですよね。
西川:へえ〜。
山本:「そこをカリフラワーにしたらいけるかな!?」みたいなね。
西川:ゲーム感覚ですね。
山本:そうですね。そういう感じはちょっとあります。面白いのは、料理そのものだけじゃないんですよ。
ーここでもお写真、いいですか?
西川:うわ、大きなジャングルジムですね。
山本:すごい、工事現場みたい…。
△記念にぱしゃり。
西川:chiobenを営まれる中で、人からの評価がしっくりこない時もおありじゃないですか?
山本:私はね、結構平気なんです。chiobenを始めた当初は、お弁当をロケ地まで自分で運んでいたんですよ。ロケの時に実際にお弁当を注文する人って、多くの場合は一番下の新人さんじゃないですか。その人が「お弁当きたぞ〜」って号令をかけてくれるんですけど、周囲からは仕事をしているのにお弁当の受け取りで邪魔されたみたいな雰囲気がすごく伝わってきて。その時に、私って本当に一番下の仕事をしているんだ、と感じたんです。
山本:それがすごく面白くて。そんな空気になった後でもまた頼んでくれたなら、美味しかったっていうことじゃないですか。大したことないって思っていた人が食べて、「思っていたより美味しいじゃん」って思ってくれるのはすごく得したなって思っているんですよ。「意外にうまい!」ってみんながなったら、お弁当を頼んだ人が「俺、ちょっといいことした?」みたいな風に思えるわけじゃないですか。それが一番面白くて。
西川:へ~。
山本:とにかく、お客様にちょっと得してほしいなと思っているので、「お弁当きたぞ~」っていうあの感覚は忘れたくないなと思っています。あと、「あんた1,000円のロケ弁だよ。なに美味いだの美味くないだの、あーだこーだ言ってるんだ。」っていう気持ちも最初からあるので、評価はあまり気にならないですね。
ーすごい、見習いたいです。
山本:一番困るのは、同業の方がそっくりなものを作っているところですね。それ自体は別に気にしないんですけど、考える力を私が削いでしまっていると感じていて。だってうちの詰め方とかと、全く同じのを作っているんですよ。こんなことでは、社会貢献は出来ないと思っていて。
ー山本さんがchiobenを始められたきっかけを伺ってもいいですか?
山本:実は、私20代で結婚したんですよ。そんなに料理をしたこともなかったんですけど、お相手と一緒にお店をやることになったんです。でも、別々の道に行くことになりまして。
西川:じゃあ、もともと料理人じゃないんですか?
山本:違うんです(笑)
西川:えー!料理の修行をされてたわけじゃなかったんですか。じゃあ、料理はお店があったのがきっかけで…。
山本:そうなんですよ。多分、向こうはやらないだろうと思っていたでしょうね(笑)当時のお相手が家を出た時も、「あ、彼はお酒作りたいって言ってたな」と思って心当たりのある酒蔵を探したんですよ。それで、彼を2件目で見つけたんですけど…。すごいと思いません!?でも、まあ私もまだ若かったので、別々の道もいいかなって思って。
西川:まあまあね、早い方がいいですよね。決断は。
山本:そんなこんなで、店だけあっても何なんで、女の子の友達とかよんで定食屋を始めようかなって思い立ったんですよね。その時、まだ若い女性が料理をやっているカフェなんかが無くて。
西川:最初はどんなメニューだったんですか?
山本:焼き魚定食とかですかね。あと、彼が残していったレシピの料理も作っていました。
西川:なんという…!こんな話していいんですか?
山本:いいんです(笑)みんな結構知っているので。
左/DANIELA Chestnut、右/KEDMA Black Madras
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