NAOT JAPANが「一緒にお散歩したい!」と思った方と、ぶらぶら街を歩きつつ、話をしつつ、目に留まったものをパシャりと写真におさめていただくこの企画。
第22弾は、ブックデザイナー・アートディレクターとして、数々の本の装丁や、美術館の空間グラフィックなど、幅広く手がけられている祖父江慎さんと、モデル活動にとどまらず、執筆、アパレルブランドとの共同開発などにも取り組まれている小谷実由さんのおふたりに、都庁周辺を歩いていただきました。
7月29日に刊行したばかりの小谷さんの初エッセイ集『隙間時間』は、祖父江さん(with 藤井瑤さん)がブックデザインをご担当。著者とデザイナーのご関係でもあるおふたりの、どんなお話が聞けるのでしょうか。
また、今回はスペシャル企画として、映像作家・写真家の島田大介さんにお散歩の様子を撮影いただきました。夏がはじまる前の爽やかな季節、おふたりのお散歩ショットもお楽しみください。
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小谷:鳥が元気だー。
祖父江:ほんまやね。鳥は元気ですね。人も元気ですかね。
小谷:鳥の声を聞くと元気になる。
祖父江:そうだね〜。
△小谷「あ、あそこにいる」
△祖父江「あ、いたいたいたいたいた!」
△祖父江「結構、羽根たたんだまま、空中で落ちるの楽しんでる」
小谷:あの鳥、なんの鳥だろう。
祖父江:あの鳥、なんの鳥だろう。こないだ、鳥の声がわかるソフトをダウンロードしちゃった。
小谷:え、そんなのがあるんですか?
祖父江:あるの。でも最初無料って書いてあるんだけど、その後で、月4000円と書いてあって。
小谷:え、高い!!
祖父江:月4000円っておかしいよね。間違えたね。年4000円の間違いだね、きっと。あと、声からじゃなくて写真からだったかもしれない。間違え記憶だらけでごめんなさいね。なんかひっかかりがあるようなことって、つい、盛り上がる記憶に変わりやすいよね。記憶って盛り上げがちじゃない?
小谷:思い出は美化されるものです。
祖父江:だよね。思い出やらって、どんどん変わるから大忙し。
小谷:そう思うってことは楽しかったってことですか?
祖父江:そうですね。あんまり思い出したくないのは消えてくしね。
小谷:私は、すぐ忘れちゃう、いやなことは。でも、悔しいことは、ちょっと根に持つ。
祖父江:ああ、根に持つタイプってね(笑)おみゆさんの本にも書いてあった。
小谷:それを、やる気に変えるんです。
祖父江:おお、すご〜い。
小谷:燃料ですね。薪を燃やしてる。がんばりたい時に逆に思い出して。
祖父江:じゃ、燃料は結構すごい形してそうですね。
小谷:たぶん、ギザギザ。
祖父江:うふふふ。じゃあ、ちょっとダメになってるかもって時に、その燃料さえ持ってくれば、これはスゴイぜってことになっちゃうんだ。
小谷:真っ黒かもしれないけど。
祖父江:真っ黒ねえ(笑)
祖父江:これ大砲?やばいんじゃないの?
△祖父江「化石が入っているってこと?ゴカイとかサソリとかユーリなんとかとか、そういうやつかな」
祖父江:ちょっといい花を探します。これはまるで白いスイートピーね。あ、お花がとれて落ちてる。ようし、上手にのせちゃうぞ〜。
小谷:のって〜。
祖父江:のれ!これが、新しい生命体!のった!
△小谷「これ、卵をスプーンで運ぶみたいな」
△祖父江「タンターンタラタラタンタン♪ はいパス、ジャンジャンチャラチャラチャンチャンチャカチャカチャンチャン~」
△小谷「お、意外と私安定してる」
ーおふたりは、最近ハマっている好きな食べ物はありますか?
小谷:う〜ん、ちょっと考えます。祖父江さんは、好きなもの、何かありますか?
祖父江:僕は多くの人にとって好き嫌いの激しい食べ物がだいたい好きです。
小谷:えー?なんだろう。パクチー?
祖父江:パクチーも好きです。でも苦手なのもあるな。ドリアンだけはちょっとダメなんだ。
小谷:私もだめなんです。
祖父江:わーい同じ!それ以外は、だいたい好き嫌いが激しいのって好きなんだけどね。
小谷:ピータン!
祖父江:ピータン大好き。
小谷:私も大好き。
祖父江:あの黒い白身にある、何か不思議な…。オタマジャクシのお腹のグルグルが透けて見えるように、カビのような結晶のような模様があるのよ。そこが好きなのよ。
小谷:もういっかい買って確認してみます(笑)
△祖父江「あ、いまあの鳩落ちかけた」 小谷「ほんと?でも鳩は飛べるもんね」
ーまもなく、本日の最終地点、Ya Kun Kaya Toast(ヤクンカヤトースト)です。こちらのお店は、小谷さんの本『隙間時間』にも登場したシンガポールの朝食が食べられるお店ですよね。
小谷:私はこの建物もすごく好きです。近未来的で。コロナ禍で海外に行けない時にここができて、来てみたら、海外のショッピングモールにいる気持ちになって。
祖父江:なるほど日本にいながらにして。君たち海外の人だね!
△小谷さんと島田さんをパチリ
小谷:この蒸しパンカヤバターは私が本に書いてたメニューで、そちらのカヤトーストは定番のメニューなんです。
祖父江:これは定番のタイプですよね。デュクシュ、デュクシュ、デュクシュ、デュクシュ、デュクシュ、デュクシュ、デュクシュ、デュクシュ、…
祖父江:デュクシュ、デュクシュ、デュクシュ、…さっきから言ってるデュクシュってなんですか?デュクシュ、デュクシュ…。
小谷:ちょっと、食べ物の説明させてください。この紙をみてもらって。これは、…注文してなかった。
祖父江:うける~~~。
小谷:これが一番普通のやつで、ミルクと練乳とが入った甘いやつ、「コピ-O(オー)」がミルクがない甘いコーヒー。「O(オー)」がミルクがないって意味で、「C(シー)」が…ん…?
祖父江:説明してるっていうか、紙読んでるじゃん(笑)
△祖父江、小谷「かんぱ〜い」
小谷:さ、食べましょう。この卵。これが少しドロッとした醤油で…シンガポールで食べられてるのに近いんです。
祖父江:なるほど。卵かけご飯とかって食べたりします?
小谷:大好きです。
祖父江:おいしいんですよね。僕はお醤油なしの卵かけご飯が好きなんです。
小谷:卵自体の味がするから?
祖父江:そうなのよ。僕は卵にはうるさいよ。醤油をかけると醤油でごまかされるじゃない。だから、1個プラス黄身だけという、贅沢なやつは最高。
小谷:じゃあ、こちらにも醤油かけないでいきます?
祖父江:僕は…ちょっと待てよ。まずこの卵自身の味が気になるので、それを確認してからかけようかと思います。
小谷:わかりました。私はお先にかけさせていただきますね。
小谷:崩す前にまず黄身だけを。
祖父江:♪きみだけを~ ♪きみだけを~
僕、実は月見蕎麦は最後までつぶさない派です。最後まで月を見ているから、スープを飲み終わっても、黄身だけがお椀の底でくるくる回るという。で、最後に、その黄身だけを割らないように口に運び、喉の寸前で「こくん」て。だいたい体温ぐらいの温度になっててね、その時。
小谷:最高!贅沢!これも食べましょう。
祖父江:なんか挟まってますよ?
小谷:バターとカヤジャムです。カヤジャムは、卵と砂糖とココナッツミルクからできてます。パンダンリーフっていう葉も入ってるんです。笹みたいな。どうでしょう?
祖父江:うん、おいしい!昔、ハンサムな人はおいしいものを食べる時に、まずそうな顔をして食べると格好いい、というのに憧れてやったけど、ついおいしそうな顔になっちゃうのよね。
小谷:蒸しパン行きますか?これはもう、罪深さのかたまり。初めて食べた時、罪深すぎて、頭を殴られた気持ちになった。だから気をつけてください。
祖父江:わかりました!
小谷:おいしくて、一周回って深刻な顔になってます。
祖父江:これですよ、さっき言った、まずそうに食べる人がかっこいいというのは。さすが兄貴。深刻な顔になったよね。
ーおみゆさんはカヤトーストと蒸しパン、どっち派ですか?
小谷:どっちって聞かれたらカヤトースト派です。でも蒸しパンのほうは、本当に悲しいことがあった時とか、そういう時には食べたくなります。もう何か食べないとやってられんみたいな時に。
ー救世主みたいな?
小谷:そうですね、優しく包み込んでくれる。
祖父江:こちらのカヤトーストは味覚といろいろな面でバランス良いんだけど、蒸しパンは体に直接パンチをくれるという感じですね。うんうんうんうんうんなるほどね。粘っていますね。ちゃんと。
ー祖父江さんには辛い時の救世主のようなものは何かありますか?
祖父江:特にないんですけど、何だろう。かえるのフィギュアとかを眺めたりするのが好きですね。
小谷:癒しですね。
祖父江:見る角度でいろいろ変わるものを見てると、気持ちがそっちへ行くから、たいていのことはどうでもよくなる。別にフィギュアでなくて本物でもいいんだけど。でも、カエルとか本物をこうやってなめるように見ている人って、やばそうかも。
祖父江:夏に近所にあるチョコレート屋さんに行ったら、お店のディスプレイに本物のセミの死骸がいっぱいで、それが素晴らしく美しくて、もう何かチョコ以上にそれが欲しくなってしまい、「すみません」って、レジに特別きれいなセミを持っていって、「この子って売ってもらうことはできないですか?」って聞いてみたの。
小谷:(笑)
祖父江:そしたら、奥から外国人の店長さんが出てきて、「それはスタッフの誰かがどこどこで拾ってきたものです。きれいなのでディスプレイしました」って。で、「プレゼントします」って言われちゃったの。やった~!それでチョコも買ったんだけど、セミのほうが丁寧に梱包されてて、すごく嬉しかったの〜。
小谷:脆いから(笑)
小谷:これでもう最後の1枚になっちゃった。
祖父江:困ったな。最後はやっぱり指示通りにやってもらうのを撮ろうかな。このテーブルを移動させていただこう。すぐ戻しますから。ちょっと一瞬だけ。何をやるかというと、今回のエッセイの中で僕は学んだことがあって。
小谷:そんなものあるんですか?
祖父江:「寝かす」っていうキーワードがです。寝かすってなるほど大事だなと思ったんですよ。なので、おみゆさんが寝かされてる風景をシメに撮らせていただきたい所存でございます。
△お店の許可をいただいております
祖父江:寝かせた~!私が寝かした!
小谷:終わった!
祖父江:テーブル元に戻します!で、寝かすことによって気がつくこと、大切ですよね。
小谷:でも本当にこの本を作ってる間にわかったことなんですよ。
祖父江:ね。僕はおみゆさんの倍以上生きているけどね。63歳になったから。若いのによくそんなすごいことを。おみゆさんはまだまだ僕の半分以下なのにね。もうすぐそろうかもしれないけど、半分に(笑)
小谷:追いかけます(笑)
祖父江:そいで、だいたいね、倍生きてもらうとわかるけれども、たいていのことって、へっちゃらになってきちゃうのよ。
小谷:力強いお言葉。
祖父江:焦りもない。不安もない。ないというかあったとしても、まあいっかなって感じになってくるのよ、ほんとに。いいか悪いか寝かせるということがどんどん得意になってくる。もう寝かせる必要ないから早く入稿しなきゃなのに寝かせちゃうってことだってあるもの。あ、それは自分が寝ちゃったんだろってね。
ー寝かせて、ハッと気づくことはありますか?
祖父江:寝かすとね、昨日の自分というか、さっきの自分がダメなところがよくわかる。もう急ぎでやって、よしできた入稿!とかやるとだいたい何か違ったり。でも、それが逆にいい時もけっこうあるんだけどね。突っ走っちゃった時のほうが。でもちょっと寝かしておくと、まだまだ自分の視野が狭かったぜベイビー、こんなところにとどまってたのかよ自分!、という発見がね。
ー今回の本で、入稿の少し前に天アンカットのご提案をくださったのも、「寝かした」結果でしょうか?
(※天アンカット:通常、本の小口の三方を裁断して平らにするのに対し、天面だけを裁断せず、あえて揃っていないまま残す製法)
祖父江:ほぼ完成ってときに急にアンカットにしたいというのも恐れ知らずだよね(笑)あのまあ…。すごく出来がいいんだけども、何かその出来の良さがね。ちょっとおみゆさんと違ってしまったらどうしようと思ってて。でも天アンカットにするとおみゆさんらしいラフな気持ち良さが出るかもなということで、提案させてもらっちゃった。
小谷:そう言われたらアンカットしたくなりますよね。
祖父江:どっちもありなんだけどね、アンカットの方が兄貴っぽいのよ!本当はきちんとしているんだけれども、きちんとしていながらも、ちょっとくだけた感じにするには、上が揃ってないっていうのを入れるといいのかな、なんて突如思ったりしちゃって。
▽天アンカットの仕上がり
小谷:寝かすの大事。本当に最初のころは書いた時の鮮度が大事だと思って、読み返さずに出してたこともあって。あとで読み返す中で「何だこれ」って思っても、その時の自分を大事にしたくて、当時は。だけど3年の間にだんだん変わってきて、読み返すと本当に恥ずかしくて。
祖父江:それ誰でもそうだと思う。
小谷:見返すと尖ってるというか、いじっぱりというか、なんだか誰のことも信用してないような文章というか。
祖父江:通常だと、2、3日寝かしたらちょこちょこ気がつくんだけど、何年か寝かしちゃったらもう気がつくところだらけになったとか?
小谷:気がついても、そこで直しちゃったら、その時の自分に申し訳ないし、その時の自分を大事にしたい気持ちは変わらないから。
祖父江:確かに直しをするかどうかって悩むよね。直してる今の自分は、当時の自分じゃないしね〜。
小谷:とても悩みました。これは許せる、これは許せないみたいなものが細分化されていって、でもその細分化していく中で、自分のこともガンガン許せる部分が増えて、すごくいい時間だった。
祖父江:自分を許せないとつらいよね。
小谷:許せない部分が、最初は多かった。何でもちゃんとできてなきゃいけない、ここはこうしなきゃいけないみたいな、なんとかしなきゃ「いけない」っていう気持ちがすごく多くて。それがでも「ま、いっか」って思えるように。結局それって自分の自己満足なだけで、人に迷惑かけるとかそういうことではないから。
祖父江:そうやって育っているところなのね。
小谷:余計なものが削がれて、良いところが出た気がしました。
祖父江:なので、今回の本では、エッセイはなるべく当時のままにして、今してみたいツッコミは後半に入れるという構成にしたのね。
小谷:そうそう、そのままで出すのはさすがに恥ずかしくて、だからちょっと言わせてもらおうと思って、「振り返り」というコーナーを設けました。もしかしたら本が出た時に、また更に突っ込みを入れなきゃいけないこともあるかもしれない(笑)
▽振り返りのコーナー
祖父江:振り返りのコーナーがあると、気にしてる差分がわかりやすいね。
小谷:やっぱりその期間の中で、気持ちや様々な面で自分に大きな変化があって、いろんなことが世間にもあったし、すごくいい期間に執筆させてもらえたなと。今30代に入って少し経ったタイミングだから、落ち着いて俯瞰して自分のことを振り返られるっていう。そのまとめを自分が大事にしてる人だったり応援してくれてる人に見てもらえるのは、嬉しい。しかも祖父江さんと藤井さんにとっても素敵に作ってもらえて、夢かなって思う。
祖父江:おみゆさんと近い年代のコズフィッシュスタッフ藤井瑶さんと一緒にデザインしましたとも。
小谷:藤井さんと最初に話をさせていただいた時、私が大好きな穂村弘さんの『鳥肌が』を藤井さんがデザイン担当されたって知って。私あの装丁が本っ当に大好きで。大好きな人の大好きな本を作られたまさにその人たちに、意図せずお願いできることになったのが、本当に信じられなくて。しかも帯文も穂村さんに書いていただいて。
▽『隙間時間』書影
祖父江:なんと奇跡がいっぱい。ミラクルクル♪
小谷:同時に、こういう仕事をして、もう17年くらいで、続けてきてよかったなって。こうなるとか、ここを目標にとか考えたことなかったけど、こんなに素敵な形で具体的にちゃんと自分の結果みたいなものが見えたことが、初めてだったから。本当にくさらずにやってよかったって(笑)
小谷:本当に何かができるたびにその都度泣きそうになる。今もちょっと泣きそうになってて(笑)
祖父江:何か目標に向かって、きちんとやるよりは、毎日毎日の面白いと思うほうに向かっていったらこうなっていた、というほうが正しいね。
小谷:その時が楽しかったらそれを続けていればずっと楽しいから。今一番楽しくしようっていうのは高校生くらいの時からずっと思ってて。大きい目標を立てるのとかすごく苦手なんですよ。今のことにベストを尽くせないと、その上のことなんて恐れ多くて考えられない。
祖父江:大きい目標なんて元々どこにあるのかという気もするの。単に遠いだけのことなのよね。程よい距離のほうが何か嬉しい…。
小谷:そう、ちょっとがんばれそうなくらいがいい。ちょっとがんばったら、次またちょっとがんばってってしてたら、昔から見たらすっごく遠くにきてたっていうのが、多分今までの私だと思うから。
祖父江:気づけば都庁まで来ちゃってたけど、それもトチュウのトチョウだった〜!みたいに?(笑)ダジャレわかりにくすぎでした〜。でもおっきいのって意外に魅力ないよね。
小谷:現実味がないから。やる気が起きない。
祖父江:そうだよね。やっぱりさあ、卵がおいしかったりするほうがハッピーよね。
小谷:身近な幸せがいっぱいあるほうがいい。
祖父江:さんせ~い。
小谷:そういうことに気づけたほうがもっと頑張れるし、ちょっとずつちゃんとしていったほうが、ちょっとずつ進めるから。やった~って思う瞬間も多い気がする。そのほうが燃費が良さそう。
祖父江:その歳でそんなことに気がつかれちゃったか!だいたい50過ぎてから気づくところなんだけどな~。まあ、気づかれちゃあしょうがない。そのまま進もう。
小谷:悔しい燃料がすごい形だから(笑)それでどんどん進んでます。
祖父江:さすが兄貴!
ーカラッと晴れたお天気のような、おふたりの笑い溢れるお散歩。今日は、たくさんの元気をいただきました。ありがとうございました!
左/WISDOM Black、右/LODOS Black Madras