Column

さんぽびより #平野紗季子さん #穂村弘さん 1/2


 
NAOTスタッフが「一緒にお散歩したい!」と思った方と、ぶらぶら街を歩きつつ、話をしつつ、目に留まったものをパシャりと写真におさめていただくこの企画。
 
第12弾は、NAOT TOKYOのある蔵前周辺をぶらり。以前カタログにもご寄稿いただいたことのある、歌人・穂村弘さんと、フードエッセイストの平野紗季子さんに歩いていただきました。
 
前編は、NAOT TOKYOのご近所、シルバニアファミリーで有名なエポック社前から始まります。のんびりゆっくりとお二人独自の世界に飲み込まれていくような雑談インタビュー。どうぞお楽しみください。
 
 


 

Twitter: @sakichoon
Instagram: @sakikohirano
 
 

Twitter: @homurahiroshi(穂村弘情報公式アカウント)
 


 

 
平野:あ、シルバニアだ!あれって日本のものなの?ここがエポック社かあ。可愛い〜!これが実寸なのかな?
 
穂村:実寸ってあるの?(笑)これが拡大版なんじゃない?
 
平野:穂村さんと(シルバニアの人形を)撮ろうかな。
 
穂村:僕が撮るよ。(カシャ)
 
平野:ありがとうございます〜。私、昔シルバニアで遊んでましたよ。
 
穂村:そうなんだ〜。エポック社と聞いて僕が思い浮かぶのは、野球盤とかだもん。そこに世代差と性差があるよね。今初めてシルバニアファミリーとエポック社が結びついた。
 
平野:へ〜、じゃあ元々は玩具メーカーなんですね。私、シルバニアだけなのかと思っていました。…本当だ。奥にいろいろおもちゃありますね。
 

 
ー最近の個人的なニュースってありますか?
 
平野:引っ越してから、家の近くにごはん屋さんが少なくて寂しかったんですが、最近ものすごく美味しいイタリアンを見つけて嬉しくてしょうがなくて…!それが私の最近のニュースですね。穂村さんの住んでいる街は美味しいお店が多くて憧れます。
 
穂村:なんかビストロが増えてるんだよね。街の方向が一気に変わっていくのって、誰かが指示したわけではないと思うんだけどいつの間にかそうなってたな。古本と古道具の街だったのに。
 
平野:一つお店ができるとなぜか自然と同じものたちが集まってきますよね。
 

 
ーお二人とも今日朝ごはんは食べましたか?
 
穂村:最近新型コロナウイルスを超恐れていてね…今日の朝は…ミドリムシって分かる?ユーグレナ、それと、果物と抹茶とかを入れた緑色のジュースとR1のヨーグルトと小さい金柑を食べた。
 
平野:凄い。菌と、野菜とビタミンと…なんだか動物園みたいですね。
 
穂村:免疫を高めようと思ってね。
 
平野:私は朝ご飯食べなくて。でも今日は琥珀糖を齧りました。今、ファッションブランドのMame Kurogouchiのお菓子を作っていて、それが琥珀糖っていうお菓子なんですけど。穂村さん、Mameっていう洋服ブランドご存知ですか?
 
穂村:みんなが憧れているやつでしょ?
 
平野:そうです!触れるだけでときめくお洋服。
 

 
穂村:メンズもあるの?
 
平野:ありますよ!穂村さん似合いそう。
 
穂村:服は大体mina perhonensuzuki takayukiさんだね。今日のコートもミナ。これは劇団のマームとジプシー絡みなんだけどね。
 
ーマームとジプシーとブックデザイナーの名久井直子さんと共作で、舞台を作られていましたよね!気になっていました。平野さんはワンピース姿をよくお見かけするんですが…。
 
平野:そうですね。基本は着痩せと食事のしやすさしか考えていないです(笑)襟が詰まってて、膝下まで丈があって、お腹がゴムのやつしか着ないです。
 

 
ー実は事前にスタッフからお二人に話してほしいテーマを募ったところ、色々集まりまして。まず、こちらから聞いてもいいですか?「お二人の人には言えないC級グルメは?」
 
平野:私、死んだ炭水化物好きです。
 
穂村:死んだ炭水化物…?
 
平野:えっと、次の日のピザを冷めたまま食べるとか、お弁当に入ってるスパゲッティがガビガビになっていたり、角で固まって団子みたいになっているのとか好きなんです。
 

△東京大空襲をくぐりぬけた、台東区最古の「タイガービル」。
 
ー出来立てが一番美味しい料理ばかり(笑)穂村さんはどうですか?
 
穂村:僕はタルタルソースかな。本体が見えない位タルタルソースがかかっているやつ。なんか異常に美味しく感じて…。
 
平野:でも穂村さんと聞いて一番に思い浮かぶのはベッドの上で菓子パンを食べている姿ですよ。自分がベッドの上で何か食べる時は必ず穂村さんのことを思い出します。
 
穂村:棒状のパサパサのやつね(笑)あれロングセラーだよね。チョコチップスティックパン…みたいな名前のやつ。
 
ー『世界音痴』の一節ですね!(笑)
 

 
お次の質問は、「オレオ・ビスコは剥がして食べる派?そのまま派?」です。
 
平野:私はオレオは剥がしてディップして食べます。
 
穂村:僕は、ビスコを食べるときは前歯で剥がしてたね。前に、もしも自分が権力者になったら、って話で本に書いたことあるよ。ビスコのクリームだけが好きな人とか、ひよこ(饅頭)の皮だけが好きな人とかいるでしょう。だから自分の孫とか孫より若い愛人に、その好きな部分だけ食べさせて皮のないひよことか、クリームだけこそぎ取ってまたクッキーだけペタッと元に戻すんだけど、その子たちは「これはどうするの?」って心配するの。そうしたら僕は「大丈夫だよ。これは今からサミットで集まっている各国の首脳に食べさせるから」って言うの。超権力者って感じでしょ。
 
平野:いいなあ、いいなあ。私ももし、それが出来たらマクドナルドのアップルパイの中身を出して、外側だけ食べて、中身をみんなにあげる。ドゥルドゥルの部分だけ(笑)
 
穂村:それを出された人はこういう食べ物だと思うから、彼らは世界の真実を知らないっていうわけ。
 
平野:なるほど…それを思うと、もしかしたらドーナツの穴には実は何か詰まってたのかなとか考えちゃいますね…。今日はじめて権力者になってみたいと思いました。
 

 
ー真実を知った人はなんとも言えない気持ちになるでしょうね(笑)お次は、「本や映画などで印象的な食事シーン」は?という質問です。
 
平野:最近すごい印象的だったのが…穂村さん、テラスハウスって知ってますか?Netflixで配信している、男女6人が共同生活を送るドキュメンタリー番組なんですけど。その中にルカ君っていうスパイダーマンになりたい大学生の男の子がいるんですけど、全然料理が出来なくて、でも自炊を頑張るんですよね。それでブロッコリーパスタを作るんですけど、彼はパスタを茹でている鍋にそのまま卵をぶち込んで、ブロッコリーも入れてまとめてザルにあげたんです。そうしたら周りで見ていた人たちは、「え?それ大丈夫?」っていう反応になって。「味ないんじゃない?」ってみんなが聞くんですけど、そしたらルカ君がポツリと「…味しないと失敗なんっすかね?」って言ったんですよ。それを聞いた時に、私の常識の外側にいる人だ…!って価値観が揺らぐほどの衝撃を受けました。
 
穂村:無味って、よくいう「素材の味」っていうのじゃないのかな?その後はどうなるの?
 

 
平野:その子は何食わぬ顔でパスタを完食して、最終的には凄く美味しいブロッコリーパスタを作れるようになって卒業するんです。
 
穂村:伏線みたいだね。なんか面白い話だね。僕が印象的だったのは、レイモンド・チャンドラーの小説。ハードボイルド小説なので探偵の一人称で描かれている作品なんだけど、いかにも気が利かなそうな店で、態度の悪いウエイトレスが、何かの死骸を挟んだサンドイッチを持ってきたみたいなことが書かれているのね。その後もハードボイルド的な記述があって、その後、「冷めてしまったサンドイッチを私は食べた。驚いたことにそれは美味かった。」みたいに終わる話があって、それが何かかっこいいなって。自分の経験則でこういう感じの店でこういう感じのものは不味いっていう意識が我々の中にはあるけど、常にそうとは限らないっていうことかなって思った。もちろんその逆もあるけどね。
 

 
平野:なるほどなあ…!人生の可能性を感じます。経験則に縛られて、こういう感じはこうなんだろうな〜と決めつけてしまうのはもったいないですよね。
 

 
ー淡々とした描写の後に、そう言われると、なんかドキっとしますね。…質問もう少しで終わります(笑)続いては、「人生最後の食事は何がいいですか?」
 
穂村:多分コンディションにもよるんだけど、本当にリアルに考えると液体になるかなあ。
 
平野:そうですねえ…。「古今東西あらゆる味覚を食べ尽くした後で、無味っていうものに感動出来たらなんかかっこいい!」って思っている時期がありました。最後の最後には白湯の味に至るっていう。
 

 
穂村:友人の東直子さんという歌人の方がいるんだけど、彼女のおじいちゃんは最後の言葉が「鰻に粥は合わん」と言って亡くなったらしいよ。その日のお昼ご飯に鰻と粥が出されたみたいで、鰻はまあ精がつくといった感じなんだろうけど、ご飯をお粥にされちゃったらしくて。それが合わなくてその言葉を残したみたい。良かれと思って粥にしたんだろうけど、やっぱり死の直前でもうな重の方が良かったのかと思うよね。
 
平野:確かに。いいなあ。私もそういう食の名言を、最後に残して死にたい。
 

 
ー最後に、「自分を食べ物に例えるなら?」
 
穂村:中途半端なジャンクさのある食べ物かな…。店に入って来るなりラーメン頼むおじさんとかかっこいいけど、つけ麺にいろいろ細かくトッピングしていくとどんどんダサくなっていく感じあるじゃない。なんかそういう感じを自分に感じるけどな。町田康さんが鴨せいろダサいって書いていて、それを見てからやっぱりそうなんだと思って落ち込んでたから…(笑)
 
平野:えっ私も鴨せいろ頼みますよ!
 
穂村:良かった!鴨せいろ、平野さんも食べてるんだぞ!(笑)なんかちょっとアンチョビ的なんだよね。鴨せいろは。アンチョビはアンチョビの味がするならどの料理でもいける…っていう感じじゃない。鴨せいろも、蕎麦の味を楽しみたいというわけでもなく…。
 
平野:分かります。渋い要素だけじゃどうしても満足できなくて、味にギャル性を求めてしまうんですよね。なんか私も恥ずかしくなってきた。あと、あんみつの白玉もトッピング倍量にしちゃいますもん(笑)
 
ー白玉倍量はギャル性高いですね(笑)でもあんみつっていうところが可愛らしいです。
 

 
穂村:食べ物をかっこいい、悪いっていうのがそもそもダサいって言われるんだけどね。僕はそう思っちゃうんだよね。食文化とか暮らしを題材に書いている、エッセイストの平松洋子さんのところに時々行って答え合わせするんだけど、「あそこであれを食べたんだけど、これって正解ですか?」って。そうすると「正解とかないから!」いつもって言われるんだけどね(笑)平松さんに「コンビニでお菓子何買います?」って聞くと「アルフォート。」って答えで、「おぉ〜。」って思うのよね。なんかかっこいいなってね。
 
ー平松さん、アルフォートなんですね…。
 

前/DIRECTOR Matt Blackカラー 
奥/OLGA Matt Blackカラー
 
 
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