Column

さんぽびより #大塚いちおさん #前田エマさん 2/2

 
NAOT JAPANが「一緒にお散歩したい!」と思った方と、ぶらぶら街を歩きつつ、話をしつつ、目に留まったものをパシャりと写真におさめていただくこの企画。
 
なんだか素敵なあのひとは、どんな景色を見てるんだろう?
どんなことにクスッとして、どんなことを呟くんだろう?
 
第15弾では、「みいつけた!」をはじめ、書籍や雑誌、広告、音楽関係のイラストレーションを数多く手がける大塚いちおさんと、モデル、エッセイ、写真、ペインティング、ナレーションなど、分野を超えてご活躍されている前田エマさんのお二人に奥渋谷を歩いていただきました。
 
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ーカフェのmimetさんを目指して歩いていきましょうか。そういえば、おふたりは好きな食べ物ってありますか?
 
前田:茄子です。
 
大塚:え!意外!真っ先に茄子が出てくるっていうのがすごいね。茄子愛を感じますね〜。
 

 
前田:茄子っていうと、みんなに「茄子の何?」って聞かれるんですけど。茄子自体が好きなんです。
 

 
ー茄子単体でも食べますか?
 
前田:何でも食べます!
 
大塚:確かに。色々ね、煮物、漬物、焼いても美味しいし。麻婆茄子でも美味しいし。
 
前田:いちおさんは何ですか?
 
大塚:何だろうなぁ…、お魚かな、お酒が好きなので。日本酒とお刺身とか、焼き魚とか良いじゃないですか?
 
ー新しくデザインされたお酒のボトル、見ました!
 
大塚:あれは佐渡の「北雪」っていう酒蔵さんで。僕の地元の上越から、海の向こうだから虹を渡っていくっていうイメージでデザインしました。
 
前田:佐渡は何度か行かれたんですか?
 
大塚:何度か行ってて。去年も、その「北雪」の取材で行きました。可能であれば、毎年秋には佐渡に行きたいくらい。
 
前田:お好きなんですね。そういえば、今年は秋に佐渡で芸術祭がありますよね?
 
大塚:そうなんだ!行ってみたいなあ。佐渡には、「おけさ柿」っていうブランド柿があって。渋柿の1種なので渋抜きが必要なんですけど、伝統的な方法では、ヘタに焼酎をつけて渋抜きするんですよ。種がなくて、そのまま皮をむいて切って食べるだけでデザートみたいに甘くて。それが本当に好きで!10月から11月くらいがその時期だから、チャンスがあれば秋に佐渡に行きたいなと毎年思ってるんですけど。
 
ーおいしそう…!そういえば、佐渡ってどうやって行くんですか?
 
大塚:船ですね。佐渡って昭和が残っている街なので、船に乗って着いて降りて、街に降りるとちょっとタイムスリップ感があるんですよ。それがけっこう楽しくて。建物とかも古くてすごく良い感じだし、街に流れる空気もなんだかゆったりしていて落ち着くんですよね。例えば、子供の頃って漫画売ってる本屋さんの横に文房具もあって、おばあちゃんが店番してみたいなお店って結構あったけど、最近はなくなってるじゃないですか。そういうお店が普通に存在してるんですよ。本屋さんがあると思って覗くと、おばあちゃんが座ってて文房具が売ってたりとかして。島なので軒先に干した魚が干してあったりとか、街の感じがすごく良いなと思って。
 
前田:わたしも佐渡はずっと、行きたいところ。佐渡まで行くのに4時間はかかりますよね。新幹線で新潟まで行って、港までもう少しかかる。新潟市からだとジェットフォイルっていう速いのがあって、それでも1時間30分くらいはかかるんじゃないかな。
 
ー日帰りは難しいですね…。
 
大塚:まぁ、がんばれば何とかなるかも。
 

 
前田:なんかリコーダーがすごいって。去年の夏にリコーダー選手権みたいなやつやってて。
 
大塚:へぇ、すごい先生がいるのかな。リコーダーの選手権があるって珍しいね。それを知ってるってことは…、本当にかなり行きたいんですね(笑)
 
前田:佐渡はほんとに行きたい…。
 
ー早く行けるといいですね!
 

 
大塚:着いた着いた。
 
前田:この壁、すごい~かわいい!
 
大塚:これは私が描きました。お、ブドウが生えてるね。(お店の方に)こんにちは〜、お邪魔しま〜す。
 

 
前田:これもいちおさんの絵ですか?かわいい!
 
大塚:そう、後ろの絵とかも。以前、たまたま犬と猫を描いた展覧会をしたことがあって、その時の猫のポスターを。お店の名前の「mimet」って、そこにある猫のぬいぐるみを大事にしてる、ミメちゃんっていう架空の女の子の名前なんです。
あと、そうそう、ナポレオンパイを頼んでみんなで食べませんか?人気で売り切れちゃうんですよ。
 

 
前田:すごい良いですね。じゃあ、飲み物も飲もうかな。私はあたたかいマサラチャイにします。
 
大塚:アイスコーヒーにしようかな。
 
前田:テーブルにも絵がありますね。
 
大塚:最初は、隠れミッキーみたいに猫のキャラクターをいろいろ描いてって言われて…。お店出る時に、油性のマジックで描いて、お店のオーナーにこれくらい?って聞きながら。そしたらもっと描いてって言われて。色んなところに描いたりとか。
 
前田:いいなぁ、かわいい。私は絵が下手なんですよ…。
 
大塚:そうかなぁ。エマちゃんの絵は、味があって良いじゃない。あれ?大学は何科だっけ?
 
前田:油絵科です。
 
大塚:そうだよね!確かそうだったよな?と思って。デザイン科とかはね、実は絵描くの苦手なんですよって子もいるけどね。油絵科の子は…、ガシガシ描いてるイメージだけどね(笑)
 
前田:どちらかといえば好きなんですけど、苦手なんです。
 
ー大学ではあまり描かれなかったのですか?
 
前田:学校では課題とかがあるからやっぱり描くんですけど、友達の作品を観て、妄想したり想像したりする方が好きでしたね。今、月に一回、イラストも描くエッセイの連載をやらせていただいているんですけど…誰かに描いて欲しいなって毎月思っています(笑)
担当さんは「大丈夫ですよ~すごく素敵~」と言ってくださるのですが「え…そうかな…?ん~?写真じゃダメですか?」って言ったら、「他の連載ページが写真ばかりだから、絵の方が目立ちます!」ってなって仕方なく…。あ、パイがきた!
 

 
前田:わ〜。写真、撮らなきゃ!
 
大塚:これは崩れないよう上手に食べないと。
 

 
前田:美味しい〜!!
 
大塚:サクサク!
 
前田:本当に美味しい〜!
 

 
ー前田さんは色々な方法で表現をされていますが、自分にいちばんフィットすると思うものはありますか?
 
前田:自分に合わないものはあんまりやってないんですけど…。おもしろいなと思うのは、文章を書くことですかね。
 
ーエッセイなど、拝読させていただいています。社会問題についても言及されているのが、興味深かったです。
 
前田:わたしのモデルとしての一面だけを知っている方にとっては、文章の雰囲気は意外に思われるかもしれない。
 
ーいちおさんがフィットすると思われるのは、絵ですか?
 
大塚:そう、今回エマちゃんを対談相手にお誘いしたのは、それについて喋りたかったからなんですよ(笑)
 
前田:え〜なんでしょう。
 
大塚:エマちゃんって、いろんな表現をされてるじゃないですか。
僕はずっと、絵だけだったんですよ。マンネリとかそういう事は全然なくて、今でも毎日何かしら描き続けてるんだけどね。だんだんと、いろんな人が知ってくれるようになると、「大塚さんって、こういうイメージ」とか「これ、エマちゃんっぽいよね」って言われるようになりませんか。
 
前田:はい、何となくわかります。
 

 
大塚:絵だけじゃなくて、文章とか、あとは僕が作ったものじゃないものでも、「あれって大塚さんぽいよね」と言ってくれることがあって。そう感じてもらえるのって、なんでなんだろう?って最近よく考えてるんです。
絵のタッチや形が似てるとか、色が似てるとかは分かるんだけど、「似てるから」だけじゃないことの方が多い。
以前J-WAVEでラジオ番組をやらせてもらったことがあるんですけど、ラジオって、絵の表現とはまるで逆じゃないですか。描いてるものとか何も見えないけど、話してる内容とか声のトーンとか作られてる空気感で、それでも内容や雰囲気が「いちおさんぽいね」とか言ってくれるんだとしたら、声だけなのに、まるで絵が描けているような。それってなんていうか、究極だなと思って。
 
前田:うんうん、なるほど。面白いです。
 
大塚:「大塚いちおっぽさ」というか、「らしさ」を楽しんでくれているのだとしたら、どこからそれを感じ取ってるくれてるんだろう。
それがわかったら、絵の作用もまた変わるのかな、別の表現にも応用できるのかな、と。
エマちゃんには、僕よりもっと「エマちゃんらしいね」って言われる機会が多いんじゃないかと思って、聞いてみたかったんです。
 

 
前田:わたしっぽいってよく言ってもらうのは、ファッションですね…。自分で服を選んで着る企画をさせてもらっているんですけど、それは「エマちゃんぽいよね」とよく言われますね。逆に、文章のお仕事では「エマちゃんっぽいよね」と言われたことがないです。私としては、文章がいちばん自分らしいと思っています。
 
大塚:なるほど、そこは上手く裏切れているのかな。
 
前田:たぶん…。文章と自分のビジュアルにすごく差があるんですかね?
 
大塚:そこがくっつくと、見てる方としては、また違う魅力を感じられるのかな?どうなんだろう?
 

 
前田:そうですね…でも、自分としては、「くっつかなくて良い」って思っているかもです。モデルは「化ける」ことが役割なのかもしれないですね。文章を書くことは「逃げれられる場所であって、逃げられない場所」って思ってるかも。
 
大塚:「化けられる」か、なるほど〜。それが羨ましいのかも。イラストやデザインを頼んでもらえるときって、僕が作ってるものを知ってくれたからだし、答えはきっと僕の中にあって。そういう意味では「化けられない」じゃないですか。あんまり裏切れないし。やっぱり多少は裏切りたいんだけど、やったとしても全く他人になることはできないから、ちょっと裏切るくらい。片足入りながら、片足裏切るくらいのことしかならない。
 
前田:うん、そうですね。確かにモデルは「自分」みたいなものがいらないですからね。
 
ー自分の存在を出さないのがモデルさんのお仕事…。
 
前田:「誰かに自分のことを理解して欲しい」とかも、思わないですね。あと昔から、本当に周りのことにも興味がなくて。この前、中学生のころのプリクラ帳を見てたら、友達はみんな当時流行ってたモッズコートを着てるのに、私一人だけ黒いトレンチコート着てたりとか。
 
大塚:それはおもしろいね。周りに流されてないんだ。
 

 
ー少しお話が戻りますけど、文章を書くということのモチベーションになるのは何ですか?
 
前田:文章を書くっていうことがなくなったら…。全部のことがつまんなくなるかもしれないです。
 
大塚:と、言うと?
 
前田:例えば、生きているなかで、誰かに傷つけられてしまうとか、逆に誰かを傷つけてしまうとか、やりきれないことってあるじゃないですか。それが感情のままだとつらいだけだけど「文章にできる」って考えるだけで、心がわくわくするんです。そしたら、悲しい時間も、辛い時間も、全部の時間が「あって良かったな」って思える。基本がすごくポジティブなのでそんなに落ち込んだりしないんですけど、それはきっと、どんなことがあっても「いつか表現にできる」と思えているから。人生は、全てネタなんです。
 
ー感情を自分の外に出してみるんですね。
 
大塚:幽体離脱じゃないけど、ちょっと俯瞰になれるのが良いのかもね。
 
前田:そうですね。何かしててもいつも常に俯瞰っぽいかもしれないです。泳いでいる時とか特に、上から自分が泳いでるのを見てる気分になる(笑)
 

 
前田:食べ終わった…!お腹いっぱいです。
 
大塚:そうだね。アイスクリームにパイに、デザートづくし(笑)
 

 
大塚:エマちゃんは見てる人のことも気にしてないし、自分で文章とか書いててリリースされた時点で、「別に」って思ってるかもしれないけど、どっかでそれを読んでる人と前田エマっていう人はこういう人なんだなっていうのが思ってる以上にどっかでくっついてくるんだと思う。
 
前田:そうか、人の頭の中で私らしさができている、ということですね。
 

 
大塚:自分をアピールしたいとか、「僕こんなのです」とか言いたいわけじゃない。仕事ごとの最善の答えを持って出しているだけなのに、それが積み重なってきたらいくつかのサンプルが出来てくるわけじゃないですか。それが貯まってきたら、会ったことない人にも「これ大塚さんぽいよね」って言われるっていうのは、他人の中で形が出来ててということで。自分ではそれは違うものって思ってても、第三者にはより俯瞰で見られてて。自分では時々その姿を裏切っているつもりでも、こういう時はこうするんだろうなとか、作れば作るほどイメージになってくんだろうなと思って。
 
前田:作品数ですね、作品数を増やします。
 

 
大塚:もし人からこんな作品の人って思われてもそれは悪いことじゃない気がする。周りから前田エマってこういう感じだよねって言われても、それをそうだよって思っても違うよって思っても、別に気にもしなければ、害もないし。
 
前田:そうですね。よく「捉えどころがない、わからない」って言われます。他人を置いていっているのかなって思います。でも、私ってすごく単純な人間なんですよ。
 
大塚:さっきの子供の時の話じゃないけど、自分のことをわかって欲しいって気持ちになると今のエマちゃんじゃ無くなる気がして。媚びないからっていって作ってるものがバラバラってわけじゃないし。きっと何か前田エマっぽさが形になっているんだろうなって。
 

 

左/LODOS Light Grey Nubuk、右/GLACIER Oily Dune Nubuk
 
表現をする立場としての姿勢や思いをたっぷり伺うことができたおさんぽでした。お二人ともありがとうございました!
 
 
 
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