Column

さんぽびより #キノ・イグルー有坂塁さん#山フーズ小桧山聡子さん 2/2

 
NAOT JAPANが「一緒にお散歩したい!」と思った方と、ぶらぶら街を歩きつつ、話をしつつ、目に留まったものをパシャりと写真におさめていただくこの企画。
 
なんだか素敵なあのひとは、どんな景色を見てるんだろう?
どんなことにクスッとして、どんなことを呟くんだろう?
 
第17弾では、移動映画館をはじめ、映画にまつわる様々なイベントを手がけられているキノ・イグルーの有坂塁さんと、ケータリングをはじめ「食」に関わる幅広い活動をされている小桧山聡子さんのおふたりに、吉祥寺の街を歩いていただきました。
 
▷前編はこちら
 


 

OFFICIAL WEB SITE: Kino Iglu
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連載:キナリノ「キノ・イグルーの週末シネマ」
 
 

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小桧山:リアルに集まってみんなで何かをやるってすごいことだなと、このご時世だからこそ実感しますね。
 
有坂:本当だよね。演劇に比べると映画はライブ感がないっていう点がマイナスになっているところがあったんだけど、このご時世においてはそれが全部良い方向に向かって。
 
小桧山:パーティでみんなで食卓を囲むなんて、ライブそのものな上に、飲食を伴う最もリスキーとされている行為だから、戻ってくるのは一番最後でしょうね。
 
有坂:そうだよね、お酒を飲んで、食べて。
 
小桧山:私、一年ほど前に文化人類学者の先生が開催されている講義で料理を担当していたんです。講義を聞いた後にご飯を食べるというもので。毎回、なんとなくこういうことをしゃべるという箇条書きをもらって、そこから何を作ろうか考えるんですよ。
 
ーそんな贅沢なイベントが…!
 
小桧山:ある時のテーマが『戦争』で、『相手を受け入れるとは?』というテーマで考えたんです。食べるって体内に入れるという意味では、作った相手や食べ物を受け入れることですよね。極端な話、それが毒かもしれないわけで。
 
有坂:おもしろい!
 
小桧山:具材をたくさん用意して、自由におむすびを作って、交換して食べるというのを計画しました。おむすびって手で直接お米や塩に触れて作る最もシンプルな料理ですよね。いわば手の味です。料理って本来みんなそうなんだけど、おむすびだとそれがすごくリアルに可視化される。
 

 
小桧山:もちろん手はすごく綺麗に洗うんですよ!でも目の前で人が握ったおむすびって何かしらの感情が動きますよね。たとえ知り合いでも。外食だと誰が作ってるか顔が見えなくても平気で食べちゃうのに。「食べる」ことや「受け入れる」ことについて、食卓で体を使って考えてみようという。
 
有坂:おおー、今は絶対できないね。
 
小桧山:そう!ちょうど新型コロナウィルスの影響で、イベントは中止になってしまったんですけどね。時勢柄一番やってはいけないことになっちゃいました。距離をとって、除菌して、握手もできないルールが始まったばかりのときに、そういうテーマでイベントを計画していたというのも、タイミングだなと。

 
有坂:ある意味、持ってるね。
 
小桧山:食べること、受け入れること、料理することの関わりについては今でも考えてます。
 

 
小桧山:ご実家のおにぎりってどんな形でしたか?
 
ーうちは俵でした。
 
有坂:俵なんだ。おにぎりって基本三角ですよね。三角形の映画のスクリーンとかあったらいいのにな。
 
小桧山:三角形だと見えないところとかできますよね。
 
有坂:普通にカメラで映したものをそのまま映写したら、もちろん四角で出てしまうんですけど。なんで四角じゃなきゃいけないんだと思って。まあ、そうなると写真も含めた話になるんだけど。丸型とかあったらいいのに。
 
小桧山:レンズは丸いのに。
 
有坂:確かに映画のカメラとかは割と四角いけど、一般的なカメラのレンズは丸いよね。撮るための機材の方は新しいものが色々と出来てきているし、スマートフォンでも動画が撮れるような時代だけど、それを受け止める側のスクリーンは形が変わらず…。一緒にそういうの考えていきましょうか?
 
小桧山:いいかもしれませんね!(笑)
 
ー行く先が楽しみです!
 

 
有坂:そもそも映画は、四角い画面のフレームの中だけで映画を作ろうとするとあんまり面白くないんですよ。外から音が聞こえてくるとか、扉の向こうでボンと何が殴られた音がするとか、見えないフレームの外で何かがあることで、観る側が主体的にそれを想像することができますよね。
 
ーなるほど。視聴者に委ねる。
 
有坂:物語に没入できるのが、映画の面白いところだったりするので。 見えないものを見せるっているのは、それはそれで面白いなと思うんですけど、想像の域に止めておきたいなとか、いろいろな思いが生まれますね。
 

 
有坂:フレームの中に映っているものが、もちろんストーリーの軸だと思います。でも、例えば会話の内容がシリアスだったら、どういう音が聞こえて来るとよりシリアスな感じが増すかなとか、そういった要素がストーリーに関わってくるんですよ。
 
ー全てが物語に繋がっているんですね。
 
有坂:観ている側は意識していないことがほとんどなのですが。そこまで考え抜かれている作品もあるので、映画って一回で理解するのは不可能なんですよ。何回も何回も観る面白さは多分そういうところにあるんでしょうね。
 

 
有坂:あ、ここね。「ラブ」!
 
小桧山:本当だー。「LOVE」って道路に書いてある。有名なんですか?
 
有坂:これ、一度消されたんですよね。有名ではないと思う…。
 

 

 
ーこの辺りに映画館がありましたよね。
 
有坂:アップリンク(映画館)の近くですね。週5日くらい行ってます。
 
小桧山:週5日??もうスタッフみたい。
 
有坂:別に何かしゃべるわけではないんだけど。
 
ーどういうタイミングでお越しになるんですか?
 
有坂:映画って観るのに時間がかかるじゃないですか。なので基本的に映画を観る時間を先に決めてしまっているんですよ。その合間に原稿を書いたり打ち合わせをしたりしています。でも、もちろん急な用事とかもあるので、そういう時にすぐ立ち寄れるアップリンクの存在って大きくて。
 

△吉祥寺アップリンクに少しだけ立ち寄りました
 
有坂:昔、日本ってどこにでも映画館があったんです。だから映画館って、それこそ夕飯を食べてお風呂入ったあとに立ち寄る場所でもあったんですよね。今も変わらず、そういう楽しみ方もしたいよねって思います。だから映画館のあり方も、もっと変わっていってもいいのかなって。
 
小桧山:今は、「観るぞ!」って思わないと行けない場所という位置づけになっているということ?
 
有坂:そうそう。だから、例えばだけど、サクッと観れる短編ものをお風呂上がりで観れる枠として作っておくとか。人のライフスタイルに合わせた映画があってもいいのかなって思う。
 

 
ー開けた通りに出てきましたね。
 
有坂:この道はいつも混み合っていますね。ここをまっすぐ行くと、カフェがあって、その向かいが樹齢何百年の大木が立っている公園なんです。よく子供達がそこで遊んでいますね。
 
小桧山:そこいいですね。
 
小桧山:吉祥寺、なんでもあって羨ましい。
 
有坂:やっぱりお店だけでなく公園もあるのが大きいんですよね。街の空気がのんびりしているし、メリハリがある。
 
小桧山:場所によってもまた雰囲気が違いますよね。
 
有坂:うん、そうそう。大正通りってところは、北欧料理のお店があったり、フィンランドのカフェがあったりして、一時期北欧通りって言われてた。割と洗練されたところなんだよ。ここは八百屋があったり、のどかな雰囲気かな。
 

 
有坂:あ、この広告、シリーズがあるんですよ。 「それ、サギ!!…フクロウだけど」とか(笑)相当くだらなくていいね!って思ってます。これを見つけるたびに写真撮る。
 

 
小桧山:いろんなセリフのものがあるんですか?
 
有坂:いや、他はこういうダジャレやセリフみたいなものはなくって、真面目な広告だね。最近こういう掲示板もコロナの情報に変わってきちゃって、どんどん無くなってきているんです。だから、貴重だし撮っておこうと思って。
 

 
ー散歩ってよくされますか?
 
小桧山:私はよく歩きますね。歩きながらのほうが考えられるし。
基本いくらでも歩けるんです。
 
有坂:分かる分かる。頭の中で考えてるだけだと捻りだせないアイデアでも、歩いたり運動したり、身体を伴う経験がプラスされると出ることがあるよね。
 
ー小桧山さんには、有坂さんと今後やってみたい実験やイベントはありますか?
 
小桧山:えー。なんでしょうね。なんか言ってたのなかったですか??
 
有坂:また、そうやってこっちに振る!!(笑)
 

 
小桧山:えー、なんだろう。この一年半くらい止まっていたことでいままでみたいなケータリングやイベントへの興味が薄れてしまったんですよね。
 
有坂:そうきましたか。
 
小桧山:何か違うことをやりたいんですよ。だから、なんだろうな…。
 
有坂:そうね、なんか僕も考え始めちゃった。
 
小桧山:うーーん、研究みたいなことやりたい。食と映画で!
 
有坂:なるほど。食と映画で研究。
 
小桧山:すごくざっくり言いましたけど。
 
有坂:『大きい枠の部分から何かを変えていきたいな』っていう発想の仕方が、こびさんらしいなって思います。イベントの中だけで考えるのではなくて、もうちょっとぐっと引いた視点から提案したいというのは…さすが。イベントの中だけで考えようとしていた自分が浅はかさが…。
 
小桧山:ふふ(笑)
 

 
ーそれでは最後に。おふたりにとって、さんぽとはなんですか?
 
小桧山:さんぽはスイッチですかね。頭の中で別々に浮遊していた考えが、歩くことでいろんな刺激を受けて、だんだんと混ざってあるべき形に落ち着いていく。そういうことがよくあるから、机の上でずっと考えていて、埒が明かなくなった時なんかに歩きに出かけますね。それと、その日の出来事をもう少し味わいたい時。今日は楽しかったなあって思いながら歩いている間に、それが心に沁みていくような気がする。
 
有坂:僕にとってさんぽは、自分がもともと持ってるリズムを取り戻す時間。歩く速度も自分で決められるし。ぐわーっと考えた後に自分のペースで歩くことで、さっき詰めたものが、じわっと心と体に広がっていく。歩くことで、リズムを保っているんです。
 
ー止まってしまった時間も次へのステップへ。おふたりの研究も楽しみです。本日はどうもありがとうございました!
 

 

左/HELM Maple-Desert、右/DENALI Matt Black
 
 
 

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