Column

さんぽびより #キノ・イグルー有坂塁さん#山フーズ小桧山聡子さん 1/2

 
NAOT JAPANが「一緒にお散歩したい!」と思った方と、ぶらぶら街を歩きつつ、話をしつつ、目に留まったものをパシャりと写真におさめていただくこの企画。
 
なんだか素敵なあのひとは、どんな景色を見てるんだろう?
どんなことにクスッとして、どんなことを呟くんだろう?
 
第17弾では、移動映画館をはじめ、映画にまつわる様々なイベントを手がけられているキノ・イグルーの有坂塁さんと、ケータリングをはじめ「食」に関わる幅広い活動をされている小桧山聡子さんのおふたりに、吉祥寺の街を歩いていただきました。
 


 

OFFICIAL WEB SITE: Kino Iglu
Instagram: @kinoiglu
連載:キナリノ「キノ・イグルーの週末シネマ」
 
 

OFFICIAL WEB SITE: 山フーズ
 


 
ーおふたりは何年来のご交友関係ですか?
 
小桧山:2009年からかな?
 
有坂:うん、そうそう。2009年だね。12年前からかな?変わらないよね、こびさん。
 
小桧山:そうですか?るいさんは髪型が変わりましたね。今何歳でしたっけ?
 
有坂:今46歳。
 
小桧山:5歳違うのか。キノ・イグルーを始められたのは28歳くらいだったんですか?
 
有坂:そうだね。イベントを一緒にし始めたのは僕が30代になってからだったよね。
 

 
小桧山:あ、そうだ写真撮らなきゃでしたね!カモでも撮っておこうかな。
 
有坂:わはは、らしくない!難しいんだよね、カモってね。ズームにできないかな。あ!カメラ巻いてなかった!!(笑)
 

 
ーでは、その頃から一緒にお仕事されていたんですね。
 
小桧山:一時期、とある場所の主催で、キノ・イグルーと私で月に一回テーマを決めて招待制のイベントを開催していたんです。参加費は全て材料費で使い切って利益を出さない!というすごい企画で。
 
有坂:だからこそ普段できないことを全力でやる場所にしたくて。中途半端なことをしたら面白くないから、お互いのハードルを上げ合いながらイベントを計画していましたね。
 
小桧山:一ヶ月って本当にあっという間で。すごかったですよね。鍛えられました。
 
有坂:鍛えられたね。こびさんはちょっとパワフルすぎるので、40人分とか50人分とかの料理を一人で考えて買い物して作っちゃうんですよ。一つのイベントがやっと終わったーと思っても、また次をやらないと間に合わないスケジュールで。
 
小桧山:しかも誰にも頼まれてないのに、自主的にやること増やしてましたよね(笑)あれが私の食の活動の原点です。あれから始まっちゃったから普通にできない…。
 
有坂:こびさん、きっとああいう極端な形じゃないとスイッチが入らない人なんだよ、もともと。
 

 
ー有坂さんは、様々な場所で映画にまつわるイベントを手がけられていますが、元々企画を考えられるのがお好きだったのですか?
 
有坂:実は昔は、何かを考えて生み出すということに対して苦手意識があって…。「イベントをやりたいです」って声をかけてもらって、そのイベントで上映する映画を考えるのは得意だったんだけど、そこからどうやって企画を膨らませるかということになると難しくて。相手からどうやって引き出そうかなって、そればかり考えていましたね。一緒に働く人が美大出身だと聞くだけでも、ちょっと身構えちゃっていたんです(笑)
 
ー「生み出す」側の人だ!と思ってですか?
 
有坂:そうですね。でも、こびさんとは、そういうことを置いておいても「この人面白いな」というところで繋がれたので、企画を一緒に話せたんです。それまでは、自分なんかが考えても面白くないって諦めてしまっていたところがあったんだけど。
 

 
小桧山:なるほど。企画があって、それに乗るというのと、企画を一から立ち上げるのは違いますよね。
 
有坂:主体的に考えられるようになったのは、呼吸をするように、常に企画を考えていたからかなと思います。
 
小桧山:るいさん、今はざっくりとしたイメージをなげられて、イベントを作り上げることも多いでしょう?昔の自分が見たらよくそんなこと出来たねっていうことなんですね。
 
有坂:そうですね。こびさんとの24回のイベントで本当に変わりましたよ。
 
小桧山:光栄です。あ、ちょっとそこに座っていただいて。
 
有坂:僕も子どもにそれやったんだよね(笑) 切り株に座らせて写真を撮るって。
 

 

 
ー今お話に出た24回のイベントの中で特に思い出に残っているテーマはありますか?
 
小桧山:2年目はどれもすごかったですね。
 
有坂:そうだね。ぱっと思い出せるので言うと『違和感』というテーマかな。
 
小桧山:あ!私も言おうと思った。
 
有坂:食べるということだったり、映画を観るということの中に『違和感』を探している間、色んな発見がありましたね。
 

 
小桧山:上映された映画や食事も『違和感』をテーマにしたものでしたよね。食事については、普段当たり前にやっている食べ方じゃない方法で食べてもらったり、いつもの見た目を再構築したような食べ物を提供しました。このイベントは、以降のイベントのベースになったと思います。
 
有坂:今まで、『違和感』について細部に渡って考えるということなんてしていないから、話しながらどんどんイメージが膨らんでいきましたね。そのイベントでは、『違和感』というドレスコードを設けたんですよ。その洋服を着ている自分が『違和感』を感じるような服装で来てくださいというルール。なので、はたから見たら何が『違和感』なのか分からないんです。
 
ー『違和感』を感じるような服装ですか…!自分なら何を着ていくか考えてしまいますね。
 
有坂:例えば普段シャツのボタンを全部しめている人が、ボタン2つ開けっぱなしにして参加するとか。そういう『違和感』を持った人たちみんなで、ご飯を食べて映画を観ました。イベントを主催しながら自分たちにも発見があって。その熱量が当日のイベントにちゃんと出ていたんじゃないかなって思います。
 
ーなるほど。主催者側も考えるイベント。行ってみたかったです!
 

 
ー大きな池が見えてきましたね。
 
有坂:あ、そうそう、ここには結構いろんな鳥がいるんですよ。水がきれいなところにくるカワセミとか。この公園は僕のランニングコースなんです。10年くらい、毎日ずっと走っていて。
 
小桧山:へー!どれくらい走られるんですか?
 
有坂:ここの池の周りをぐるっと3周。時間でいうと30分くらいかな。あんまり長いと毎日続けられないので。それと、運動している間、携帯を持ってないのがいいんだよね。なんかそういうデジタルデトックスじゃないですけど、そういう時間が必要かなって。
 
小桧山:ついつい携帯見ちゃいますよね。
 
有坂:そう、見ちゃう。
 
小桧山:しかもるいさん、SNSまったくやらない派だったのにめちゃくちゃやってるし。
 
有坂:そう!インスタグラムのことなら聞いて!
 

 
小桧山:ずーっとアンチだったのに(笑)
 
有坂:そう、すみません(笑)こだわりなんてそんなもんですよ。
 

 
小桧山:今や一日に何回も投稿してらっしゃいますもんね。
 
有坂:ご迷惑をおかけしてます…。あれでも抑えてる方なんですけど。最初はもっと上げてたからね。
 
小桧山:自制しているんですね。たしかに最初はもっと上げてたかも。私は、最近5年ぶりくらいにホームページ出来ましたってインスタグラムにあげました。
 
有坂:あげてたよね。見た見た!
 
小桧山:5年越しのお知らせ(笑)
 
有坂:いやいや、良い話じゃん。そういうのって、もういいかなって諦めてしまいがちだから。形になったっていうのは凄いことだよ。
 
小桧山:形になりましたよ。新型コロナウイルスの影響で去年急に仕事がなくなったものですから、準備を進める時間が出来てしまって。
 
有坂:きっとそういうタイミングだったんだね。
 
ーすごく緑豊かな公園ですね。
 
有坂:あ、この辺りだ。コロナの時にね、ここで唯一の楽しみがあって。これ、その辺なんだけど。
 

 

△鳥が生まれる瞬間を目撃した模様。
 
小桧山:この鳥が生まれたところを見たんですか?
 
有坂:そうそう。この後生まれたの。毎日温めるのを見に来ていたら、本当絶妙のタイミングで一羽産まれて。これが卵から出てくる瞬間。
 
小桧山:わー!すごい!こんな都会の真ん中で。
 
有坂:みんなここでソーシャルディスタンスでわーって見てた。良かったですねぇって言い合ってた。
 
ーこの一年はどのように過ごされましたか?
 
小桧山:私は失業したみたいなものでした(笑)ほぼ全て、イベントは中止になってしまったので。ちょうど3月、4月は大きいイベントが結構あったんですけれど、それが全部なくなって。
 
有坂:夏だと予約制で人数を限定したイベントは開催できたかな。
 

 
小桧山:イベントがなくなって、急に時間が出来ましたね。全ての予定が強制的に終了させられて。でも、本当は去年ぐらいからちょっと止まりたいなって思ってたんですよ。
 
ー止まりたい、ですか。
 
小桧山:ケータリングで、ご飯を作り続けるってどうなんだろうなっていう疑問が、その前の年ぐらいからずっとあったんですけど、依頼が来ると止まれなくて。次、次ってどんどんやっていくうちに一年が終わっちゃうって感じだったんです。だから、コロナの影響で強制終了させられて、ガーンって思った反面、よっしゃあ!とも思っていました。
 
有坂:すごい分かる。僕は自分の仕事っていうよりは、世の中がこのまま突き進んでることが、どうなんだろうってずっと思ってて。なんかこれ違うよなって、違和感がずっとあったんですよね。僕の場合、規模の大きいイベントが増えてきて。何十人とかのイベントをやってたのが、時には5千人越えのイベントもやるようになって。
 
ーすごい規模ですね。
 
有坂:それはそれで、もちろん嬉しかったです。同じように上映する人たちも増えて、18年前に思い描いていたライバルとかも出来てきて。こういう風にシーンが出来ていくんだなって。でも、このまま突き進んでいった先に幸せが待ってると思えなかったんですよね。どこかで立ち止まらないとっていう。
 

 
有坂:イベントや仕事を評価される時も、何千人やってるから凄いっていう風に見られるんですけど、「あなたのために映画えらびます」みたいなものも同じだけ価値があるし、どっちがいいじゃなくて本当はどっちもいいのになって。だから一回立ち止まれたことは、長い目で見ると絶対に必要なことだなって思ってました。今は、自分で考えて生きてかなきゃいけない時代だけど、本当はそれが普通だよなって。
 
小桧山:止まってしまった社会が世界規模だって考えるとすごいですよね。なかなかない。
 
有坂:いまだに世界みんなが、コロナウイルスが収束していない中で起こるネガティブなことを共有出来ているじゃないですか。この数年間で起こってることって長い目で見るとすごく貴重で。
 

 
有坂:日々何を感じたかということを、何か自分なりに形にするとか、感じたことを残しておくということは凄く大事なことだと思いますね。忘れちゃうしね、どうせ。
 
ー有坂さんはどのような形にされましたか?
 
有坂:僕はインスタグラムなどを通して、そういうことをやっていこうと思っていて。絶対にやらないと思ってたインスタライブを一回やったら、超楽しかったです。
 
小桧山:楽しかったんだ(笑)
 
有坂:週一でやるようになった。
 
小桧山:週一でやってるんですか!?
 
有坂:今はやってないけど、一年くらいは週一でずっとやっていましたよ。僕は自分のことを映画好きで映画オタクだとは思っているんですけど、一方で興味があるのは映画だけじゃなくて。知り合いの人はそういう部分も知ってくれているんですけど、初対面の人から見るとやっぱり映画だけの人って見られているんだろうなと思っていて。そこにちょっとしたストレスはありました。
 
ーどうしても『キノ・イグルーの』というイメージが大きいですよね。
 
有坂:でも、インスタグラムを始めた瞬間それがすべて解消されたんですよ。
自分自身の変化もありましたね。まあまあ好きだったカレーも、カレー屋さんを巡るっていう一つのプロジェクトにしたら、よりカレーに興味が出てきちゃって。カレーのイベントの審査員の仕事が来たこともありました。
 
小桧山:そうだそうだ(笑)
 

 
有坂:やっぱり発信の場があることで、自分の良さを引き出してもらえる事があるんだなというのをInstagramで感じました。自分にとって大きな出来事でしたね。
 
小桧山:私はSNS、あんまりやらないですね。
 
有坂:こびさんは、リアルな体験みたいなものが自分の表現の軸にあるから。コロナでその場を奪われた時にどうするのかなっていう興味がありますね。でもその間にホームページを作ったのか。
 
小桧山:そう、作ったんですよ。これはさすがにテキスト量多すぎですって怒られながら(笑)でも、「これで良いんです!」って。
 

 
有坂:さすが(笑)
 
小桧山:過剰で良いんです。
 
有坂:過剰が小桧山です。
 
小桧山:ホームページの作成は、ずっと後回しにしていて。やりたい気持ちはあったけど、とりあえず目の前の仕事にかかりきりだったんです。「やりたいな」と思ってからの5年間、ずっと取り組んできたわけではなくて、放置していたんですけど。そんな折に、今までの動きが止まる瞬間があった。今までやってきたことをじっくりと言語化するっていう時間が出来たんです。
 
ー言語化する時間ですか。
 
小桧山:言語化するのって、今まで自分が何をもって何をしてきたんだろうっていうのを、もう一回体験し直すようなことなので、結構エネルギー使うんですよ。だから、「これから何をやっていこうかな」ということを考える時間がまとまって取れたことは、自分の中ですごく大きかったです。
 

 
小桧山:初めは収入もなくなっちゃうし、この先どうしようみたいな焦りがありましたけど。徐々に「暇って素晴らしい!」、「なんで暇を作らないんだろう」って思うようになって。
 
ー「暇って素晴らしい!」ですか。
 
小桧山:暇な時間には発見が沢山ありました。減速しないと見えないものも沢山あって。忙しい時のギンギンに冴えた目にしか見えない景色もあるんですけどね。
 
有坂:あるよね。
 
小桧山:超高速回転してるみたいな。そのときにしか出会えないものもあるし、それはそれでアリだと思うんですけど。でもそれだけだと壊れちゃうし。どっちかじゃなくて行き来することが出来たら一番良いかな。
 

 
有坂:僕はこびさんみたいに、ギンギンに目が冴えている生活じゃないので(笑)
 
小桧山:(笑)
 
有坂:こびさんはすごくストイックな方ですよ。僕もストイックなところはありますけどね。映画館で映画を見るということが自分の中で大事なものとしてあるので、自分の生活リズムは最低限で保たないといけないんですよ。フリーで仕事していると、やっぱり自分を育てる仕事の方に、気持ちが行き渡らなくなっちゃうから。
 
ー何かルーティンのようなものがあるんですか?
 
有坂:夜はちゃんと寝て、朝起きたらランニングすることですね。それはコロナの最中でもずっと変わらないんですよね。もちろん、その間には映画館が閉まってて行けなかった時期とかはありましたけど。あと飲み屋にも一人で行けなかったですね。
 
小桧山:そうか(笑)「酒場放浪記」出来ないですね。
 
有坂:吉田類さんのね(笑)僕はそれを拝借して『有坂塁』なんですけど。その間に子供が生まれて僕自身の生活のベースが変わったから、前みたいに毎日外で呑んで、という生活ではなくなっているのですが。コロナと子供が生まれたタイミングが重なって、綺麗に自分のライフスタイルが変わっていった感じかな。
 

左/HELM Maple-Desert、右/DENALI Matt Black
 
 
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