Column

さんぽびより #町田康さん #藤原麻里菜さん1/2

 
NAOT JAPANが「一緒にお散歩したい!」と思った方と、ぶらぶら街を歩きつつ、話をしつつ、目に留まったものをパシャりと写真におさめていただくこの企画。
 
なんだか素敵なあのひとは、どんな景色を見てるんだろう?
どんなことにクスッとして、どんなことを呟くんだろう?
 
第24弾は、パンク歌手、作家、俳優など、幅広い分野で活躍し、現在は執筆を主に活動されている町田康さんと、 「株式会社無駄」の代表で、「無駄づくり」として発明・創作活動を展開されている藤原麻里菜さんのお二人に、中野周辺を歩いていただきました。
 


 

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ー異国のような雰囲気のある路地ですね。お二人は旅行などされますか?
 
藤原:旅行かあ、あんまりしないですね。
 
町田:僕も、仕事で色々なところに行くけどいつも逃げるように帰ってくるね。
 
藤原:人見知りみたいな感じで、場所に人見知りしちゃいますね。
 

 
町田:昭和新道商店街。
 
藤原:カプリコーン。写真撮っとこう。
 
町田:明かり点いた。ほんま昭和やねえ。
 

 
ー藤原さんは以前、中野駅周辺に住んでいらっしゃったと伺いました。その頃の生活で、特に思い出に残っていることはありますか?
 
藤原:先輩の家によく行ったりしていました。私が住んでいたところがすごく古いアパートだったんですけど、その先輩の住んでいる家がもっと古くて。お風呂が無くて、トイレは共同で、家賃三万でしたね。
 
町田:それ、六年前?
 
藤原:はい。自分より環境が悪い家を見て安心していましたね…。
 

 
藤原:その頃に私が住んでいたアパート、壁がすごく薄かったんですよね。
隣に住んでいたヨガの先生が、夜に西野カナさんの曲を爆音でかけて号泣するんですよ(笑)
 
町田:それはすごいですね。
 
藤原:あと、矢沢永吉さんのファンらしき人の車が、矢沢永吉さんの曲を爆音で流しながら駐車していました。
 
町田:みんな爆音なんですね(笑)
 
藤原:音楽はすごく流れてましたね。
 
町田:西野カナさんの歌ってそんな泣くような歌なんですか?
 

 
藤原:たぶん失恋ソングだったのかも。
 
町田:ああ、それで号泣…。
でも壁が薄くて聞こえてるってこと、わかっていないんですかね。
 
藤原:ですよね。あと、隣のマンションでよく喧嘩が起こっていたんですけど、建て付けが悪い古いアパートだったので、喧嘩のドスンドスンという音で揺れるんですよ。
 
町田:すごい、それどんな喧嘩や。
 
藤原:最初、どんどんいうからお祭りだと思いました。お祭りだと思って開けたらすごい怒鳴り声がしていましたね。
 
町田:祭りレベルの(笑)
 
ー内見はされなかったんですか?
 
藤原:しました。
初めての一人暮らしで、どういう家がいいかわからないから友達と一緒に行ったんですけど、その友達が悪いやつでおもしろがるんですよ。私はよくわかっていなかったんですけど、友達が「この部屋めっちゃいいじゃん」ってすごく言ってて。
それを真に受けて、いい家なんだと思って住みました。
 
町田:それは、笑いに満ちてるという意味でよかったんじゃない。
 
藤原:そうそう、笑いに満ちているっていう意味で。
 

 
ー町田さんはどうですか?
 
町田:中野はすごく昔、中野駅の北口の公園で時々開催されていたフリーマーケットに、家庭の不用品を売りに来ていました。あんまり売れませんでしたけどね。
 
藤原:売れなかったんですね(笑)
 
町田:あとは、井伏鱒二さんが関東大震災に遭ったときのことを書いている話があるんですけど、「電車が動いてないからずっと中央線沿いに歩いてて、中野を通った時に自警団みたいな人と話して、土手のところで一泊した」みたいな文章があって。
その文章を読んだ時、「ああ中野たしかこんな感じやな」って、ありありと中野を感じましたね。
実際に自分が中野にいる時よりも、その井伏鱒二さんの文章を読んだ時の方が、「中野の中野性」みたいなものをより認識した感じがしましたね。
 

 
ー普段散歩はされますか?
 
町田:そうですね、健康のために家の近くを歩くことは時々あります。町歩きみたいなのはしませんけどね。
 
ー歩いているときは考え事などされますか?
 
町田:なんかは考えてますね。でもその中身はほとんど意味のないことなので、どんどん考えては消えていく感じですね。
ああでも、煮詰まって仕事が停滞した時は、一回やめて歩いたり食器洗ったりします。そうすると先に進めるようになる時がありますね。
 

 
 
ー文筆活動もされているお二人ですが、好きな言葉やお気に入りの言葉などはありますか?
 
藤原:ええ〜、お気に入りの言葉か。
 
町田:難しいなあ…。
言葉とは違うけど、僕は最近、わりとええこと言おうとして失敗してるやつ、ていうのを気に入っていてわざとやっていますね。
 
藤原:なるほど、それわざとやるんですね。私、実は以前に町田さんの講演に行ったことがあるんですよ。
その時に「文章書くときはカメラに徹する」というようなことを仰っていたのを覚えています。
 
町田:そんなしょうもないこと言いました?
 
 
 
藤原:はい、めちゃくちゃ淡々とした感じで書くというか。
 
町田:ああ、はいはい!ああいうやり方ね。
 
藤原:それから、以前町田さんが雑誌のインタビューで、自意識について「集中して書いていると、自分がそれに溶け込んで自意識がなくなる」というお話をされていたんですけど、それにすごく共感しました。
 
町田:ちょっとこう、自我を無くそうみたいなね。
一対一で話してる時、誰も見てない二人だけで話してる時、友達同士で話してる時、今みたいに「対談」っていう形で喋ってる時、それぞれの場面で表情とか雰囲気が微妙に変わるじゃないですか。人によって度合いがあると思うんですけど、やっぱり誰かを意識してる感じ。
 

 
町田:その変わる感じが一番分かるのって、何かについて議論しているときだと思うんです。
会議してる時って、その場にいる相手に対して「自分はこう思う」とか、「すごいその通りや」とか、「違うんじゃない」とか意見を言うと思うけど、パネルディスカッションみたいに横並びになって、段客席があってみんな聞いている状況だと、また雰囲気が全然違うんですよね。かっこつける人とかいるんですよ(笑)
 
藤原:かっこつけちゃうんですよね。
 
町田:見栄っていうんかね、ええこと言うたったみたいな。
 
藤原:私も文章を書くことがあるんですけど、かっこつけたい自分との戦いだなと思うことがあって。今の話を聞いて、より一層思いました。
かっこいい難しいを言葉使ってやろうという気持ちと、読みやすくはあるけれど、自分の中の面白さとは直結しないところにある言葉を取ろうとする気持ちと。
 
町田:家の取材をさせてくださいって言われたとき、本棚にあるアホそうな本は全部隠して、辞書とか難しい本を前の方に持ってくるみたいなね。
まあそれを見て、「ああこの人かっこええ賢い人やな」とか「なんかかっこええな」とか、思う人は思うわけですし。
 

 
町田:それで、さっきの「気に入っている言葉」の話。
そりゃあ気に入っている言葉とか、使いたい言葉とか、小説で読んで感動した言葉とかいっぱいありますよ。昔はピンとこなかった、ありふれた諺とかでも「ああ、ほんまにその通りやな」と思うこともありますね。
そういうことはありすぎて、「一個挙げろ」と言われてもなかなか挙げられないじゃないですか。
でも、なんか一個言えと言われたら、なんかええタイトルとか、かっこええこと言おうとして失敗したやつっていうのを最近考えてて。
「不滅の滅び」とか色紙に書いて落款押して。ええこと言ってるわりに、そもそも間違えてるから、みたいな。
 
ー意味が重複してしまっているような言葉ですね。
 
町田:木彫りの材木とかね(笑)木彫りの材木って板ちゃうん?みたいな。いや、ちがうんですよ。これ。一本の丸太から木彫りの材木作ったんですよって。なんかそういうの、面白いと思うんですよ。
「不滅の滅び」ってちょっと気に入っていますね。なんかのタイトルで使いたいなと思いながら。
 
ーなるほど(笑)ちょっとかっこいいですね。
 
町田:ちょっとかっこいいでしょ。でも、アホでしょ。
 
藤原:ふふ、アホなんですか(笑)
 

 

左/OLGA Matt Black、右/DIRECTOR Black Madras
 
 
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